指名依頼と再会
矜持はベッドの上で職員手帳を眺める。
比連の職員手帳は二つ折りになっており身分証となる側ともう一つ、タッチスクリーンで周辺の依頼を受けることができる。またそれを達成するとその事を通達できる。
位置情報の発信と仕事の受理と達成報告に特化した結果充電が3ヶ月に1度程で済み、比連職員のために丈夫に作られた優れものだ。
「いやー、久々に指名依頼…きちゃったー」
階級があがるとそれなりに厄介ごとも舞い込むもので指名依頼という形でやってくる。
明後日、比連本部で顔合わせがありそのさらに3日後に作戦決行らしいが詳細が書かれていない。
「簡単な仕事だといいんだけどな」
指名依頼は何度か受けているが酷い時は同じように指名された人が死んだこともあった。
逆に回せる人手がなかったりその仕事に向いた能力のある人が出払っている場合に回ってくる簡単な仕事もあるので今回がそれであることを願う。
自分が強い自負もある、色んなことを力技で解決する力もある。でも全てを救けられるヒーローにはなれていない。せめて自分の力で守れる範囲であって欲しいと思わずにはいられなかった。
「まあ、とりあえず気にしないでおくか」
今気にしても仕方ないと今日は寝ることにする。
春休みに入ってからますます甘えてくる祈理が可愛くて仕方がない。摂理も休みの日には一緒に出かけている。両親もその姿を微笑んで眺めてくれる。
失った家族の時間を取り戻すように過ごす暖かな日々は心地が良かった。
そして顔合わせの日がくる。
比連本部に来るとそのでかさに圧倒される。今までの顔合わせは各地の支部であったり協力してくれる宿屋などであったため矜持が本部へ来るのは今日が初めてだった。
セラフェリアの中心に位置する以上、普段から見えていたのだが近づくとその大きさは圧巻だ。
天高くまで昇る四角錐、その先は見えないためいったい何階まであるのかもわからない。
その中へ足を踏み入れ受付に向かう。
「すいません、指名依頼の件で来たんですけど」
そう言って自らの職員手帳を提出する。
「少々お待ちくださいね…はい、士道 矜持さまですね、案内させていただきます」
そう言う受付のお姉さんについて行き案内された部屋に入ると…
「あ、きたのね矜持、久しぶり」
待っていたのは師匠同士が友達で何度も共に仕事をした仲間、クオリア・ラーゲルだった。
「はい!クオリアさん!お久しぶりです!」
「えっと…私が比連校に入ってからは会えてないから3年くらい?一緒に旅してた頃もあったからこんなに離れたの始めてよね、だいぶ大きくなったんじゃない?」
「そんなに経つんですね、クオリアさんと会わなくなってから成長期が来てだいぶ伸びたんですよ」
「ほんとおっきくなったわね」
椅子から立ち上がり前に立ったクオリアの身長は3年前とは違い矜持より小さくなっていた。
「私よりおっきくなってるなんてびっくりね、協力者候補に名前があった時もびっくりしたけど…うん、かっこよくなったね、成長も再開も嬉しいわ」
銀髪を揺らしながら青い瞳を細めて微笑むクオリアの姿もまた3年前よりも美しかった。
「クオリアさんも前より…その…綺麗ですよ、会えて嬉しいです」
少し照れながら答える矜持にクオリアは吹き出す。
「ちょっと矜持照れすぎじゃない?前はもっと普通にしてたのに」
矜持の態度に腹を抱えるクオリアの胸は3年前と明らかに違うボリュームを誇っている
「いや、まあそうなんですけどクオリアさんがすごい美人になってて心の準備が…」
「あーこれね、うんまあ…矜持も男の子だからね。それより矜持こっちに1人なのよね?もう『仙術』は完璧に身につけたの?」
少し照れたクオリアは話を変える。あまり追求されたくない矜持もためらいなくそれに乗る。
「はい、もう完全に身につけてあいつにも主従契約を結べたんでなにも問題ないです」
「そう、それはよかったわ。てことはもう家族と暮らせるのね。ほんとに今日はいいことばかりね…あ、仕事の方はそんなに難しくないのよ、他の人だと少ししんどかったんだけど私たちが揃えば問題ないから話しましょ?色々と積もる話もあるんだし」
久々に話した2人の話は途切れる事もなくしばらく続いた。
その中で矜持は最近携帯電話を買ったけど戦闘になることを考えると仕事に持っていけないから携帯電話を携帯しづらいことなんかも話した。
「ねえ、矜持、それならチームを組まない?私も銀翼なの隠して人脈づくりに比連校に通ってるのよ、時間は合うし…それにコンビネーションも心配ないし。それに仕事中は私が携帯を持ってれば安全だと思うんだけど」
「こちらこそ、クオリアさんと組めるなんて願っても無いです」
「じゃあ、チーム弟子コンビ再結成ね!名前は適当に考えて申請しとくわ。
あ、学校の課題の方でもチーム組むと思うけどそっちは正式加入じゃなくて臨時って形で組んでね、じゃないと卒業したら消えちゃう私たちを正式なメンバーって考えてる子たちが困っちゃうから、実はいつか矜持と組むって勝手に決めてたから私ずっと正式にチーム組んでなかったの…」
早口でまくし立てるクオリアの顔はどこか赤くさっきまでの美人の印象よりも矜持のよく知る可愛いクオリアだった。
「クオリアさん、これから…チームとしてもよろしくお願いします」
「うん、よろしく矜持」
2人は硬い握手を交わす。
その握手は家族に会えなかった時間もまた大事な時間だったと矜持に思い出させるには十分だった。