潜入の下準備
「さてと…とりあえず校長と理事長が食事処で待ってくれているらしいから行きましょうか」
転移装置付近に固まっていても仕方がないのでクオリアが切り出す、反対意見など出るはずも無いので一同は校長と理事長の待つ食事処までクオリアの先導で歩いていく。
「なんかみんな私服って新鮮っすね」
レントの言う通りこの時点で生徒に見られる可能性もあるので現在4人は私服なのだが全員が簡素な服装だ。
「私服って言ってもこれも仕事着みたいなものだけどね、制服展開したら元に戻すまで無くなっちゃうからどうでもいい服しか着ないし…というかいつのまにかそうなってもいいような服しかなくなってたんだけど」
「何度も重ねがけすると魔法を剥がすのも大変なので比連の方に預けることになりますしね、私も私服はほとんどないです」
「段階を調節すれば夏でも冬でも使えますし制服って便利ですよね」
矜持はともかくクオリアと悠里の興味の無さにレントは驚いていた。
「エリアスとシスカが服装にすげー拘ってるんで女の人ってもっと服が好きだと思ってました」
「自分でも女…というより若者としてどうかと思ってるわよ?」
「服に拘るくらいならこちらに拘りますね、いのちに直結するので」
そう言って悠里は背中の竹刀袋…中身は銃であるそれに手をあてがう。
「うぅ…俺もあの剣で来たかったな…」
レントが言うあの剣とは悪魔を素材にしたバスターソード、サイズ的に隠す事が不可能であるため今回は財布事情的に安物の魔道具をつけている。
「まあそんなに戦うことも無いだろうし大丈夫だろ」
「矜持…それはフラグってやつだぞ」
「やめろよレント、一般の学校内で戦うとか昼間だったら大惨事になりかねない。怪事件に『あさまさま』、たぶん誰かのイタズラだろ、ネルパの支部もそう思ったから優先順位を下げて未だに手がまわってないんだろうし」
実際支部が動いていない理由はその通りであるしクオリアと悠里もそういう見解である、現在まともに戦えないレントもこの依頼なら戦闘力ではなく人手であればいいと言う理由からだ。
しかし誰もが絶対に戦わなくて済むなどとは微塵も思っていないのが比連に所属する者たちらしい。
「ついたわよ、ここの奥らしいわ」
クオリアが指差すのは和食屋、こじんまりとしていて高そうという事もないが品の良さそうな店だ。
「ここからが本番、頑張るか」
「おう、俺が何もしなくていいくらい頑張ってくれよ矜持、俺ほんと女子に混ざるのしんどいから…」
レントの言葉にあえて返事をしないで矜持はそのまま中へ入った。
「どうも皆さん、ネルパ女学院理事長のラッテルです、そしてこっちが」
「同じく校長のリッテルよ、よろしくね」
恰幅のいい優しそうな40くらいの男性に同じくらいのスラリとした声から少し厳しそうな印象を受ける女性の挨拶を受ける。
「どうも、比連から来ましたクオリア・ラーゲルです」
順に挨拶をして生徒手帳を見せる。
「今回の依頼は怪事件と噂話『あさまさま』に関する調査です、資料を私のできる範囲で纏めました。そちらの方針をお聞かせ願えますか?」
リッテルが資料を渡してくれたのだが情報があまりにも少ない、前提としてやはり生徒間の噂話と言うことなのだろう。
「学生として3人が生徒からの情報収集、そしてお2人もこの場を設けているということはお考えにあると思いますが教員の方に犯人がいる事も考慮して1人を用務員として中高纏めて教師を調査してもらいます」
「わかりました、制服の方はこちらで用意させてもらいます、学内には寮もありますがそちらに住みますか?」
「2人は寮で情報収集、もう2人は自由にアクションを取るため別でホテルなどを用意するつもりです」
「わかりました、寮は基本2人部屋なのでちょうどいいですね、では明日もう一度ここに集まるという事で、制服と寮の準備がいるので」
「はい、お願いします」
クオリアとリッテルが簡単に話をまとめていく、ラッテルや矜持達は空気だ
「制服はあちらの男性の分を抜いて3人分ですね、用務員に関しては服装に決まりがないのでご自由にどうぞ、他に何かありますか?」
「1人…この子なんですけど男なので着替えの時は体に傷があるからなどと理由をつけて分けてあげてください」
「え…男…えぇ、わかったわ、男の子を紛れ込ませるのには問題がありそうだけど中等部の事を考えるとその子がいた方が良さそうなのは確かだし…配慮させてもらいます」
これでとりあえずこの場でやるべき事は終わった。
「もう話は終わったかい?ならご飯を食べよう、この店は僕のお気に入りなんだ、注文で遠慮しなくていいように勝手にコース頼むからね」
やや強引だが見た目通り優しいラッテルのはからいで注文されたコースはお気に入りというだけあり美味しく、比連校の学校としてのシステムに興味を持っていたリッテルとも話はなかなかに弾んだ。
とあるホテルの一室、2人部屋に4人が集まっていた。
「とりあえず資料ね、怪事件の方なんだけどほんとにいろいろよ、悪質なのからどうでもいい事まで…同一犯かも怪しいくらい」
・動物小屋の動物の惨殺
・廊下を歩いていたら急に腕に痛みが走り見てみると切りつけられていた
・夜中に家庭科室にて刃物が飛び回る…らしい
・同じく夜中に学校へ忘れ物を取りに行くと足音が聞こえた
・体育の間に生徒の制服が切られていた、その間アリバイのない者がいない
・寮内の紛失物の増加
「何というか…本当の事件に怪談にいじめ?まで本当にいろいろですね」
「そうね、『あさまさま』に関してはこの一連の事件の犯人て噂らしいけどでどころがわからないらしいわ、おそらく犯人がでっちあげたわね、疑いの目が人に向かないように」
「紛失物以外は刃物が多いですからね、惨殺に関しては羽が抜かれていたりもあるけど刃物が使われている」
「そうね、でも家庭科室の刃物と夜中の足音はもともと学校の7不思議としてあったらしいから…」
それが本当かはわからない…
「それ以外にもほんとに細かい怪現象はいくつもあるんだけど…生徒がふざけてるだけかもしれないから書くのもやめたそうよ」
「とりあえず情報が集まるまでは本当に何もわからないですね、目的さえわからない」
「ええ、そうね」
結局何も進展しないとクオリアと矜持が話を終える
「あの…それはいいんですけど寮で生活する2人って俺ってことはないですよね」
レントがずっと気になっていたことを訪ねる
「いえ、レントくんと私のつもりよ?」
クオリアはあっさりと言い切った
「え!!?それはないでしょ、俺男ですよ!?」
「いや、妥当だと思うぞ、中等部にレント高等部にクオリア、ホテルはここに拘らずいろいろ探して悠里さんは万一の狙撃ポイント兼スコープによる監視、俺が寮に入ると生徒であるみんなと相部屋にはなれないし」
仕事であるため、そしてレントが万一手を出そうとしてもクオリアが簡単に防げるため矜持も妥当だと言う。
「なんだこのカップル…俺がおかしいのか…」
「おかしくないと思います、ですがこの二人は仕事であるからと割り切りすぎてますが間違ってもいないです…私もホテルで男性と相部屋というのは…」
「じゃあ悠里ちゃんと私で寮に行く?」
2人の意見も確かにそうだと考え直しクオリアが提案する
「いえ…それだとスコープを使える人がいなくなります、それにレント君は中等部の情報を集めるために寮生活は必須です。………つまり私とレント君で寮に行くべきかと、チームである以上これからもこのようなことはあるでしょうし寮なら叫べば万一でもなんとかなるでしょう、スコープは任せましたよ」
真っ赤になりながら悠里は決めた。
「あの…いやもう説明聞いたんでどうしようもないってわかってるんですけど…あの万一ってなんですか?俺そんな信用ないですか…俺、辛いなぁ」
どうあがいても寮生活から抜けられそうにないレントはそう呟いた。