距離をつめたくて2
ほのぼのが好きです
「今日の訓練はここまででいいだろう、私はもう疲れてしもうた」
「ああ、今日もありがとな」
ハルディスが疲れたことで精神世界での2人の訓練は終わりとなる、夢の中ではめっぽう強いハルディスに矜持がさらに魔力を送ることで強化しているのでハルディスの方が強いのにも関わらずバテるのはいつもハルディスだ。
「構わんよ、この時間以外は自由にさせてもらっているんのじゃからな。他のところの精霊と比べれば戦闘時でもだいたい勝手に力を勝手に使われるだけで楽をさせてもらっている…それこそラティファはただの少女として振る舞えるほどに」
「お前はともかくラティファに戦いなんてさせないさ、あの子はもう俺の妹みたいなものだ」
「実の妹とも仲良くなっておるしお前の感覚ならそうじゃろうな、いやいや本当にいい主を見つけたものだ。そろそろその妹の方へ送るぞ」
パチンとハルディスが指を鳴らすと矜持の意識は現実へと移される、体にもしっかりと先程までハルディスと鍛えた分の負担がかかる。
鍛えながらも日常生活を謳歌できるのはハルディス様様だ。
「んぅ…兄さん…」
耳元に届く声に矜持は目を開けてそちらを見る、ウェーブのかかったふわふわの金髪を持つ少女ラティファが矜持の右腕を抱くように寝ている。
2人の互いへの呼び方はラティファと兄さんという風に本当の兄妹の様な呼び方となっている。
そのあまりの可愛さに抱きしめてしまいたくなるが左側には祈理がいる、静かに寝息をたてる栗色の髪の少女もまた矜持にとっては愛しくて仕方がない妹。
サザナミに行く前はしっかりと1人で寝ていた祈理だが矜持が連れ帰って来たラティファが矜持と寝ると言うと自分もそうすると言ってきた、便乗して摂理まで一緒に寝ると言った時は驚いた。両親は夢にまで見た仲良くする子どもたちの姿にGOサインを出したがベッドの大きさを理由になんとか阻止した次第だ。
「年齢的に問題があるんだろうけど…摂理姉さんとももっと仲良くしたいのは俺もなんだけどな」
声にして自分の気持ちを確認する、摂理が矜持に対して世話を焼いてくれているからこそ繋がりが保たれている今の関係ではなく矜持からも姉への感謝と愛を伝えたいのだが不器用であるためうまく伝えられていない今の状態には少し不満がある。
「幸せすぎて俺がそれに追いつけてないって…贅沢な悩みだな、一部の奴らに聞かれたら追いかけ回されそうだ」
またも口に出して自分の状況確認を確かなものにする。
追いかけ回して来そうな一部の奴らとは物理実技の授業でよく一緒になる前衛の奴らのことで『スピリッツ』結成の時点で男女混合を羨ましがられていた、その後は女子3人のうち2人がレントに気があることが知れ渡りヘイトはレントの方へ向けられていた。
「てか『スピリッツ』が女子4人にレントになったのが知られたら本気でやばそうだな」
思わずククッと笑いが漏れる、自分も彼女と2人きりのチームだが前衛の奴らにとって大事なのは‘自分が相手を見つけること’なので1対1なら問題ないだろう。いっそレントもエリアスとシスカの2人と付き合ってしまってハッキリさせれば少しは収まるだろうに中途半端なままにしておくからクリスとの事やその他仲のいい女子とのことまで疑われてしまうのだ。
セラフェリアに置いて重婚は珍しくないしそれが獣人の血を引く上に比連に所属しているなら尚更だ。
獣人は元々男も女も複数と婚姻を結ぶことが多く、比連職員もチームで結婚したりすることは珍しくない。恋愛事は当人たちが納得していれば全て容認されるのがセラフェリアである、逆に当人達が納得していない状況であれば詐欺として捕まえる事もあるしそれにより発生した傷害事件には普通に対処する。
「まあそれはレントの決めることで外野が何か言う事は無いな」
自分は自分の幸せを大事にするだけだと今は妹たちの寝顔に笑顔を浮かべ一言呟く。
「動けねぇ…」
両腕をそれぞれに抱きしめられている矜持は起きてしまった事で尿意を催しているのにトイレに行けず、かと言って安らかに寝ている妹を起こすことも出来ないので徐々に高まる尿意との戦いを強いられる事になった。
「美味しい?」
あれから30分後救いの女神摂理の朝食の知らせにより祈理とラティファを起こす事ができた矜持は現在朝食の感想を摂理に求められていた。
「うん、めちゃくちゃ美味しい。でも朝から大変じゃない?」
「えへへぇ、矜持はたくさん食べてくれるから作ってみたい料理どんどん作っても食べてくれてるから作り過ぎちゃって…」
「この子は郷土史とか歴史からとりあえずなんでも大好きで再現レシピとかもやりたいってうるさかったから矜持が帰ってきてくれてほんとに助かったわ」
「うんうん、父さんはもう食べたくないからね」
「い…祈理も…」
父さんと祈理が何を思い出したのか顔を暗くする。
「いやー、どっかの地域の料理作ったんだけど調味料とか取り寄せたんだけどどんなのかわからないままレシピ通りに作ったらすごく辛くて…」
両手の人差し指をつけたり話したりしながら摂理が視線を彷徨わせる。
「口の中がヒリヒリして2日間固形物が食べられなかったんだ…」
父さんの言葉の重みがすごい。
「それ以外は大丈夫だったでしょ〜」
涙目になりながら訴える摂理姉さんだが
「それ以外にも時々へんな味したりお腹壊したりとかあったよ…」
祈理の言葉により腹にストレートを叩き込まれたかのように「ぐふっ」と言葉をもらし机に突っ伏した。
「俺の腹は丈夫だからいくらでも付き合うよ、摂理姉さんの作ってくれた料理ってだけで嬉しいから」
「私の弟が天使すぎる…」
肩口くらいままでの髪を揺らしながら口を手で押さえ対面に座る矜持から顔を隠すように横を向きながら先ほどまで目尻に溜めていた涙をこぼす。
「兄さんはやっぱり優しくてすきです…」
「祈理もお兄ちゃん好きだよ!」
ラティファと祈理は母の愛理が作ったご飯を食べながら笑い合う、その姿のあまりの可愛さに矜持も摂理と同じポーズで2人から顔をそらす。
朝から士道家は幸せに包まれていた。