サザナミからの帰り道
「君たちのおかげで乗り切れたと言ってもいい、応援に来た部隊に引き継ぎをして私たちが帰ったあとは比連の方にはそう報告させてもらうよ」
「恐縮です、本来なら遠慮するべきなのでしょうが私は何もできませんでしたが彼らはよくやってくれたので…」
チームのリーダー同士レンガと話すエリアスは後ろでは矜持とレントが喧嘩のようにじゃれあっており調整がうまくいかなくなったレントの強化魔法が思ったよりも強い威力を発揮して矜持が吹っ飛んでいったところだ。
「レントォォオオオオオ!てめえ死ぬところだったじゃねぇかぁあああ!!」
すぐに走って戻ってきてレントにドロップキックをかましている。
「そんなクソ不安定な俺の魔法に任せて自分は楽したいとか言うからじゃねーか!テメェ実は近接戦できるだろーがゴルァアアアア!」
「俺はもとまとサポートで入ってんだろ!今こんだけやれてんだからテメェも戦えやぁああ!」
2人ともそんな元気があるなら前衛で戦えと言いたくなる。
「じゃあ私達はもう行きますので…」
「ああ…応援してる…」
「はい…ありがとうございます」
各チームのリーダーと連絡先の交換もしてセラフェリアに戻った後もご飯でも食べに行こうなどと約束したチームもあり本当に密度の濃い時間を過ごしたと思いながらエリアスはバカの元へと歩いて行く。
「二人とも戦えこのバカァ!」
「「はい…すいません…」」
最後に綺麗には終わらせてくれない2人に怒りを爆発させたエリアスの鬼の形相により無事決着がついた。
「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」
門から出るときには全員で礼をして出て行った。
「魔物あんまりいないもんだな」
「あの異常発生は迷宮巨人のせいだったっぽいしな、あんだけごっそり狩ればこんなもんだろ」
「これならさっき別にもめなくても良かったんじゃ…」
レントと矜持が先ほどの喧嘩擬きのじゃれあいなど無かったかのように話していることにクリスが控えめに突っ込む。
「ほんとそれな」
「冷静になるべきだったよな」
「矜持さんてぇ、たまに馬鹿ですよねぇ。レントさんはいつもですけどぉ」
シスカが鋭い言葉のナイフを2人の胸に突き刺す。
「ほら、その場のノリを大事にしてるんだよ、なぁ矜持!」
「そうだよな!やっぱり学生になったからには楽しみたいしな!」
「矜持さんのそういうとこ、私はいいと思いますよ!」
クリスのその言葉にエリアスが昨日スルーした話をなんとなく思い返した。
「そういえばさクリス、推しってなに?」
「あ…えぅ…ここで話すんですか?」
「話しにくいことなら別にいいけど」
「いえ、あえて言わせてもらいます…覚悟を決めました」
クリスはぐっと握りこぶしを作り気合いを入れる。
「私は…おじさんとかムキムキの男の人とか安心感のある人と小動物とか子どもとかが戯れるのが好きなんです…それこそ比連と保健所がコラボしたムキムキの職員と子犬や子猫の写真が載せられたカレンダーを買うくらいには…」
「そんなのあるんですねぇ」
「あー、なんとなく察してきた」
「それでですね…矜持さんて安心感ありますよね?」
仙術もそうだが知識面でも頼り甲斐があるのはここにいる面々はよく知っている。
「確かに戦闘でも矜持さんのワイヤーは頼もしいですよね」
「子ども好きで優しいしな」
「フィーにルールーにシンの精霊たちにも好かれてるし」
「そうなんですよ!その矜持さんが子どもや精霊といるときに緩む表情とか!すごくいいと思うんです!好きは好きでも付き合いたいとかじゃなくて眺めていたい感じ…みんなに良さをわかってほしい…これが推しです」
「言われてみるとわかる気がしますぅ」
「うぅん、たしかに矜持がそうしてると見てる方も笑顔になれるのはわかる」
「うん…わかっちゃう…」
「あのさ…褒めてくれるのはありがたいんだけど流石に照れくさい…」
クリスの考えにレントまでが賛成してしまい流石に矜持が少し恥ずかしそうにする。
「よかったらカレンダー買ってみて下さい!ほんとにすごく良いので!良さみしかないので!それで保健所の資金援助にもなるので!」
「クリスがこんなに熱く語るなんて…ほんとに好きなんだね」
「はい!もうとんでもなく好きです」
「なんか…俺の秘密バレたのにすごい普通に接してくれて…ありがとう」
朝のうちに前後の脈絡もなく
「お前が実力隠してるのはわかってるから話せる様になったら言ってくれ、それまで待ってる」
とレントに言われ驚いたがその後もみんなが本当に全く変わらず気兼ねなく接してくれることに改めてしっかりと矜持は礼を述べた。
「何か事情があるのはわかるしいい人なのもわかってるから」
「なにせ精霊と子どもにあんなに好かれるんですからね」
「これからもどんどん好かれてくださいね!」
「俺の妹とも仲良くしてやってくれ!」
口々に思ったことを言って矜持を肯定してくれるのだが…
「レントお前急に何言ってんだよ、頭おかしくなったのか?」
「何言ってんだよ、俺はもともとおかしいんだよ!ただ妹が最近反抗期なの思い出してさ、だから頼るようで悪いけどあいつになんかあったら相談できる相手欲しくてさ」
「わかった、俺でいいなら会ってみるよ」
「レントも案外いいお兄ちゃんしてるのよね…エレナちゃんに避けられてるから私じゃ力になれないし」
「そういう訳なんだ、帰る頃には忘れてるかも知れないから俺が忘れてそうだったらお前から言ってくれよ」
「いや流石に覚えとけよ」
「さっきたまたま思い出しただけでずっと忘れてたくらいだからかなり厳しい…」
あんまりな言い分に矜持は少し呆れてしまいながらも妹を思っていることはわかったので折れることにする。
「わかった、向こうに戻って3日経ってもお前から何も話が来なかったらこっちから話しかける」
「おう、頼むわ」
帰りはそんな緊張感の薄いまま行きと同じ日程で転移装置のある街まで戻り、行きに出てきた出口専用のところにレントが勝手に先行して迷ったりもしたが最初の予定通りに『スピリッツ』の面々は第1世界のセラフェリアへと帰った。