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師の願い



「少し、お時間をいただきたいのですが…矜持のことで。すいません、時間があまり取れないのでできれば今すぐに」


虎徹は矜持の両親、仁義(じんぎ)愛理(あいり)にそう切り出す。

虎徹の真剣な表情に仁義と愛理も頷く、長らくぶりの家族の再開だがそれでも優先すべきは虎徹である、それほど虎徹が忙しくしていると2人も理解しているからだ。


「はい、もちろんです。それでは向こうの部屋で」


今までも電話などで多少の交流があったため子どもたちは上手くやっている。

矜持と直接会ったことのない祈理は少し心配だったがそれも杞憂なようだと確信した愛理は部屋を移す提案をする。

仙術という技術を修めたから大丈夫と聞いていたがまだ何かあるのかもしれない、黒くなったまま(・・・・・・・)の矜持の髪とひとみを見て少し覚悟を決める。


「大丈夫だよ、11年も矜持は頑張ってきたんだから何も心配ないさ」


仁義はそう言い愛理の肩を抱く。

修行してる間はいつでも連絡が取れるわけでも無かったので矜持は自分の正確な誕生日も覚えておらず、また虎徹に連れられて異世界へ仕事をしに行ったりもしたので時間の感覚が適当で10数年間と曖昧なカウントをしているが仁義達家族は正確に覚えていた。


「体のことは心配ありません、ちょうどその年齢のことです」


部屋を移してお互いに席についたところで虎徹がそう切り出す。


「俺が面倒を見たせいであいつは戦いばかりの人生でした。今では『比翼の鳥』で銀翼の階級までもっています」


『比翼の鳥』とは『連理の枝』と合わせて『比翼連理』という警察組織になっていて『比連』と略称で呼ばれることが多い。

多数ある世界のさまざまな所で活躍する存在だ。


比翼の鳥では魔物や犯罪者への対応に護衛などの仕事を受けることができる。


連理の枝では裁判や指名手配などの事務処理や研究などを行なっている。


厳密に分けると2つの組織なのだが調査ではチームを組んだり比翼の鳥で使う装備の研究などを連理の枝で行なっているため仲はよく同時に監視し合う構造となっている。


連理の枝も比翼の鳥も給料は完全に歩合制である。

指名依頼などもあるが基本的に仕事は引き受けなければならず大事なのは仕事次第では同行者にも一定以上の戦闘力などが必要となるため目安として階級が必要になる。


銅羽(どうう)のから金羽(きんう)羽階級(うかいきゅう)としさらに銅翼(どうよく)から金翼(きんよく)までの翼階級(よくかいきゅう)があり、仕事の受理はその階級に応じて受ける事ができる


矜持はその中で銀翼を持っている…持たなければいけなかった。


「私が言うのもなんですが…普通の、一般人の生活を少しでも味あわせてやりたいんです。でも、力を得てしまったあいつは誰かのために働きたがるんです」


「それは…ええ、ヒーローになりたがる子でしたから」


矜持が闇精霊の救けての言葉に応えたことが発端であるため愛理は少し悲しい顔をする。


「ええ、でもそれはあいつの選んだ生き方なんです…だからせめて少しでも同年代の友達ができるように


矜持を比翼連理職員育成校に通わせてやって欲しいんです」


そう、矜持の年齢はちょうど中学を卒業しストレートで比翼連理職員育成校に行く子らと変わらない年齢だった。


「それは…いえ、それ以上の答えなんてありませんね」


「ええ、この11年間矜持をずっとみてきた虎徹さんが言うならそうさせていただきます」


比翼連理職員育成校に行くということは将来比翼連理に所属するということで…当然命を危険に晒すような仕事も多くなる。

それに2人は心を痛める…が


「師として恥ずかしい話で、あとでどんな罰も受ける覚悟で話させていただきます。


俺との旅の中で矜持は何度か命の危機に立ちました、ですが必ずそれを乗り越え今では戦闘において比連の中でも最高レベルだと保証します。

ですのでどうか…あの子の…矜持の…ヒーローのように誰かを助ける人になりたいという夢を、受け入れてやってください!」


武神と呼ばれ金翼の階級を持つ男が一般人の仁義と愛理に必死に頭を下げる、その姿になにも感じない2人ではなかった。


「頭をあげて下さい、どんな選択をしようと私たちはあの子の考えを尊重します。

それを貴方に誓います」


仁義は虎徹に対してそう言い切った。

矜持の強さを知らない仁義がその言葉を発するのにどれほどの覚悟がいるのかを測ることなどできないが虎徹はその芯の強さに確かに敬意を持ち


「ありがとうございます」


その一言に万感の思いを込めた。


「すいません、話が済んですぐで悪いのですが次の仕事がありまして…」


「いえ、いつもありがとうございます。あなたに守られている人の一人としてお礼を言わせてもらいます」


「それは…そう言ってもらえると助かります。最後に矜持に挨拶をしてから行かせてもらいますね」


そう言って虎徹は玄関から気を発する。


虎徹が仙術で信号を発したことに気づいた矜持が玄関まで急いででてくる。


「師匠!どうしたんですか!」


「なに、予定が押してるからお暇するだけさ、最後に言っておくことがあってな」


「は、はい!」


姿勢を正した矜持に虎徹は言う


「いいか矜持!お前はこれから比連の職員として働くつもりらしいがその前に各方面にコネを作れ!いくら強かろうが1人でできることなんて限られてる!だからな、比翼連理職員育成校へ行け、手続きはしといてやる。

それから…あー、教えといてなんだが仙術はあんまり使うな、学生の階級は金羽までだ、気の力は大きすぎる。使うなら銀翼として働くときだけにしとけ、わかったな!」


「はい!」


矜持は常識がないわけではない、過ぎた力を持つと友達ができにくいことはわかっている。それが学校に行く目的に合わないこともわかる、そして何より何だかんだ尊敬している師匠の言葉なので素直にはっきりと返事をする。その姿は絵に描いたように師弟そのものだった。


「ガゥ!」


「あぁ〜ガウガウー!お前と離れるのは悲しいぞー!」


最後に矜持が虎徹の契約精霊、小さなトラの形をした光精霊のガウガウに飛びつかれ抱きとめて締まりのない顔で撫でたりしなければ…


「あ〜、うんじゃあ俺もう行くわ」


そう言って虎徹はスタスタと歩いていく、ガウガウも涙を浮かべながら手を振り、フワフワと浮いて虎徹についていく。

その姿を見送りながら矜持は


「今までありがとうございました!」


深く頭を下げた。

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