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サザナミ決戦5



迷宮巨人の動きは止まらない、悔しくてたまらない。

陣から出たらまた魔物を生み出されて負けるのがわかっているのに足止めすら満足にできない。


「ああああああ!!!!」


みんなを守るって言ったのに…


さっき誰かが呟いた『俺たちがいる意味はあったのか』という言葉が頭を何度もよぎる。


レントの中に悔しい気持ちが蓄積されていく。


クソッ!クソッ!

剣を振るうしかできないのにその剣で何もできなければ俺に意味なんてあるはずがないじゃないか…


昔、俺はイジメられていた。それを助けてくれたのがエリアスで、あの後勝手に約束したんだ。


「今度は僕が君を守ってみせる」


それなのに今のこの体たらくだ、エリアスやシスカは陣に魔力を流していてクリスは魔法の爆撃でダメージを与えられて矜持はワイヤーを駆使してみんなを助けている。

俺だけが何もしていない…


「みなさん引いてください!」


クリスの声が響いた。



無理をしよう、今までやった事もないほど複雑な魔法を…

爆発に指向性を持たせよう…体積あたりの威力をあげよう…指向性を持たせるなら投げてはダメだ、空間に設置しよう…ダメだ、動く相手に設置では完全な効果が得られるかわからない。だから即興で迷宮巨人に合わせなければならない。


『爆発は上方向へ』


結局のところ詠唱できるのはこれだけだ。威力は込める魔力の量で、場所は即興で計算しきるしかない。


「みなさん引いてください!」


こんな大声はいつぶりだろうか、一度叫んだだけで喉が痛い。でも…これからだ。


迷宮巨人の動きを見据える、歩くために片足を上げたとき、残った軸足の足裏に爆発を生む


『吹きとんで』


自分に残った全ての魔力を魔力経から流す、魔力の激流により全身の魔力経にダメージを与えながら魔法を形成する。


響くのは鼓膜に殴りかかるような轟音、迸る閃光と共に迷宮巨人の軸足を破壊しその巨体を宙に押し上げた。


「カフッ」


クリスの口から少量の血液が吐き出される。それほどまでに今の一撃に込められた魔力は膨大でその魔力に耐えれるほどの下地が彼女にはできていなかった。



レントの目の前でクリスの魔法により先ほどまで自分たちを苦しめていた巨体が宙を舞っている。

その威力は凄まじく、もし彼女が足でなく頭部を狙えば迷宮巨人の核を破壊できるのではないだろうか。

そう思わずにはいられずもう一度撃てるか確認しようとクリスの方を見ると、彼女は血を吐いていた。


俺は何を期待していたんだ…


守るんじゃ無かったのか…


守られているのは俺じゃないか…


悔しくて悔しくて…もう一度誓いを立て直す。

俺がみんなを守ると、力が足りないなら今ここで力を得ると、何があろうと必ず勝つと。


レントの魂が輝きを放ち強まる


その体からは魔力が漏れていた(・・・・・・・・)



「おおおおおおおおおお!!!」


レントが叫んでいる、そして体から漏れていた魔力はみるみるうちに魔法によって使い尽くされていき、外見上は魔力が消える。


見た目は人だが筋肉は獣人だから強い?そんな筈が無いだろう。


レントは常に先天魔法の身体強化を使って魔力が空なだけだ(・・・・・・・・)


魔法使いが魔力の有無を見る時は注意することで相手が身に纏う魔力を見る。


矜持とクオリアを含め実力のある者は並外れた魔力コントロールにより膨大な魔力をかくしているので実力がわからない、だがレントは常に使い切ることでそもそも魔力を探知させない。


それがわかったのは一重に矜持の仙術があらゆる力を操る技術だからだ。


「師匠が俺の事を羨ましいって言ってた理由がやっとわかったな」


師匠は自分で仙術を開発したのに対し俺は教えてもらい、ハルディスとの和解後は睡眠時間でさえ修行に当てられ、一番難しいとされるコントロールの訓練は安定の魔法によりすぐにコツを掴んだ。


それでも戦闘に特化した性能で探知の方は師匠が無意識でやっているレベルに意識して行使することでようやく並ぶのだ。


素の戦闘力も互角、勝るのは安定の魔法により形作る武器の性能のみ。


総合的に見れば下位互換、それでも師匠は俺を羨ましがった。

矜持から見たレントは身体能力しか強化できない。

矜持が周りから仙術で力を集めれば同じことができるし様々なものを強化できる。


それでも…矜持が1のコストで1の効果を得るのに対しレントは1のコストで5の効果を得る、さらに言えばそれを先天魔法…習得に手間を必要とせずに使えるのだ。


そしてなによりも…強化という力は単純ながらも強い。



「おおおおおおおおおおおおお!!!」


レントの体から力が溢れる、自身が魔法使いであった事は今自覚した。


よくよく考えればわかることだった。

昔はいじめられていたということは俺は弱かったんだ。それが体が太くなった訳でもなく、細いままで強くなったのだから理由がある、エリアスに助けられたあの日に…俺は力も貰っていたんだ。


見た目が人間なのも、実際ほとんど人間だからのようだ。


そして自覚した力を以ってレントは迷宮巨人に特攻を仕掛ける。


迷宮巨人は未だ体制を立て直せずにいる、故にこのまま破壊まで押し通す。


がむしゃらに振るわれる拳をかいくぐり頭部へ強引に押し進む。

剣を振るうと切れずに砕いて行く、一心不乱に頭部を剣で砕き続けるレントに迷宮巨人の腕が迫る…だがそれは決して届かない。


「すまない、情けないところを見せた!」


「もう大丈夫だ!戦える!」


「モーマンタイ!」


「…」


先ほど気絶したレンガ達が戻ってきたからだ。


BAOOOOOOOOOO!!!


どこから発声しているのかわからない咆哮と共に必死に足を再生させた迷宮巨人が立ち上がる、2度目の再生でさらにその体長は縮んでいる。


「いい加減諦めて死にやがれぇえええええ!!」


レントが先ほど斬り殺せなかったのは武器の性能が足りないからだ。


「わざわざ伝えられて来た剣ならすげーんだろ!力をよこせ!」


魔力貯蔵箱と自身のガス欠寸前の魔力を無理矢理剣に流し続ける。


「伸びるなり切れ味があがるなりなんなりしてみやがれえええええ!!!」


レントの叫びに呼応するかの様に、あるいは無理矢理流し込まれた魔力で内側から弾け飛ぶかのように剣は一気に膨らみ、先ほどまでの良くある鋼色の剣から色合いは黒と赤で禍々しく、刀身は分厚い


バスターソードになっていた。


「ほんとにできたな!いくぜええええ!!」


レントは迷宮巨人に向かって駆け出す、既にレンガ達は接敵をしている。


「ぶった斬る!」


一振りする度に迷宮巨人の体は崩れて行く、だるま落としのように足から順に切り進めていき


「終わりだああああああ!!!」


レンガたちをさし置き、レントが雄叫びと共に頭部を真っ二つに切り裂き勝負を決めた。



レントの叫びと共に弾けるように剣が姿を変えた時、矜持には吹き飛ばされる少女が見えていた。

すぐに駆けつけて抱きとめる。


「精霊か…剣に封印されてたってよりはあの見るからにやばそうな剣の封印に使われてた感じだな」


腕の中にいる妹と同い年くらいの外見をしたふわふわのウェーブがかかった金髪の少女の分析を矜持は済ませる。

気絶しているようだがどうしたものかと思案する。


自分はこの後すぐに行くところがあるのだが…少しの間を置いてクリスが無茶をした事を思い出してクリスを回収して支援班の元までワイヤーの巻き取り機能を使いながら猛スピードで戻って行く。


後ろではレントが勝負を決めたようで凄まじい歓声が起こっている、支援班も同様な様だ。


その興奮に渦巻く職員の中でシスカの元へと駆けつける。


「シスカ!悪いけどこの2人を頼む!」


「えぇ!?矜持さん!?えぇ!?」


全く事態が理解できていないシスカに2人を預けて矜持は外壁の内へとワイヤーを使って入りすぐに目的地まで一瞬で駆け抜けた。

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