サザナミ決戦3
外壁の外に比連の職員全員が集まっている。
「じゃあ、陣の起動は任せたぞ」
戦闘班の中で今回の戦闘に向かない者数人以外を連れたレンガが蛮に言葉をかける。
「まあこっちは魔力流すだけだからな、ただ早めに終わらせてくれよ?あんまり長引きすぎて枯渇したまま魔力無理につかったら廃人になっちまう」
「善処する」
「そこはすぐに終わらせるくらい言ってほしいんだけどな、まあこっちは任せるしかねーから勝手に任せるわ」
「ハハハッそれなら任されてやるよ、行ってくる」
陣へ魔力を流すための経路は門の近くまで配置されているが陣そのものはそれなりに離れているためそこへ向けてレンガ達が向かう。
陣の中の雑魚が一掃できるだけで迷宮巨人が陣の外に出て魔物を生み出してしまえば勝ち目が無くなってしまうからだ。
そしてその中に混じって支援班のはずの矜持の姿もある。
ワイヤーを使い迷宮巨人の攻撃から前衛を無理矢理回避させることができると自分から志願してのことだ。
徐々に魔物の進行に近づいて行く、20と少しの比連側と数百からさらに増え続ける魔物側、職員側に徐々に恐れが見え始めるが先頭に立つレンガは一切の恐怖も存在しないと陣へと歩を進める。
陣まである程度近づいたところでレンガは振り返り指示を飛ばす。
「魔法使いはここで止まれ、前衛はこのまま突っ込むぞ、雑魚は全て消えるから気にするな」
静かに、だが力強くレンガが断言する、そして
「行くぞおおおおお!!!!」
「「「おおおおおおおおおお!!!」」」
レンガにつられて他の職員も雄叫びを上げ恐怖をかき消す。
矜持と蛮がニナイから引き継ぎ半分描くのに約一週間かかるほどだ、陣はとてつもなく大きい。
魔物がそのうちに収まるのとほぼ同じタイミングで魔力が流れ込み陣が光を放つ、その光はモンスターウルフとゴブリンの雑魚は消えて行く。後に残るは7mもの巨体を誇る土塊の巨人。
歪な人型に赤く光る単眼、ただの人間なら近づく事は死に他ならない。
だが比連の職員はただの人間ではない、命をかける仕事に就く覚悟、死の恐怖を乗り越え魔物と戦い、厳しい訓練を自らに課す。
そしてそれを決意するに至る下地、魔物により家族を殺されその苦しみを乗り越え比連に就職した者はその時点で並々ならぬ魂の力を得る。
「さあ数は逆転した!一気に攻めるぞ!」
あとはこの陣が維持できる内に迷宮巨人を倒すだけだ。
「まずは足を崩す!体制を崩したところで頭の核を叩くぞ!」
レンガが大盾を振り回し足を狙う、それだけでなく先天魔法の威圧で強引に注意を向ける。
レンガが大盾の側面で斬りつけながらも攻撃を一身に受ける、その隙に他の面々は自分本来の武器
ハンマー、斧、剣、拳、刀などで巨人の足を削って行く。
「硬てーなくそったれ!」
それでもその硬さと太さでダメージは通るが体制を崩すには一歩及ばない。
「前衛!引けえええ!!!」
魔法使いが詠唱を終え前衛に向けて叫ぶ、それを受け前衛が引いたところに大威力の水弾、爆撃が襲いかかる。
BWOOOAAAAA!!!!
右足が崩れた迷宮巨人はがむしゃらに腕を振りまわす。
「逃げろ!逃げろ!直撃は受けるなぁ!」
レンガが注意を引こうにも適当に暴れ回る相手には効果が薄い。
撤退が間に合わず大怪我に発展しそうな人は矜持がワイヤーで回収するので大事には至らないがこれでは接近するのが困難になってしまった。
レンガを含めたほんの数人のみが接敵して戦闘を行う、銀羽以上の者しか戦闘には参加できていない。
「ハッハハハ!!まだまだやってやるぞおおおお!」
その数人がガリガリと残った左足も削って行く、人数が減ったことで矜持の補助も安定する。
「これ…俺たちっている意味あったのか…」
残された前衛の誰かが呟いたその言葉はたしかにその場にいた者の耳に届いたがすぐに搔き消える、迷宮巨人の体制が完全に崩れて頭が地面についたからだ。
魔法使いの第二撃が撃ち込まれ前衛が集結して一気に叩きにかかった。
「はっはっは!結構早えーな!あと少しだから気張ってくれよ!」
戦闘開始から10分程で勝利が決まりそうになり蛮は興奮する、大規模な陣の発動による負担はそれなりに大きいがこの早さで終わるのなら問題はない。
そう思って見ていた目の前でレンガ達の主だって戦っていた面々が倒れた。
「は?」
迷宮巨人が振り回した腕にあたる前にワイヤーで回収されたが残りの面々が何が起きたのかわからず止まってしまっている、魔法使いの魔法も次が間に合わない、完璧に攻勢が止まってしまい
その空白で徐々に迷宮巨人の体が復元されて行く…
「今…何が起こったんだ?」
先ほどよりは小さくなったが依然として健在な迷宮巨人が立ち上がった。