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港町サザナミにて5



「これは暗闇が怖くなくなった男の子の話です…


あるところに暗闇が苦手な少年がいました。その子は夜1人で寝るのも怖くてできません、その子はある日家族と山にきのこ狩りに行きましたが(はぐ)れてしまいます。


薄暗い山の中で1人きり…怖くてたまりません、男の子は必死で親を探しますが見つかりません。だんだんと空も暗くなってきて夜になりました。


とうとう男の子は泣き出します。大声で泣きました。するとガサガサッと後ろで音が聞こえます。


後ろを見ると月明かりに薄っすらと見えたのは…ゴブリンでした。

逃げないと食べられてしまう!男の子は必死に走ります。最初は少しずつ距離を離せたのに疲れてだんだんとゴブリンが近づいてきました…そして男の子はこけてしまいます」


子どもたちはそれから男の子がどうなるのか気になって仕方がない。やっぱり夜は怖いものなのかと…


「こけてしまった男の子はそのまま木の根元の穴に入りました、すぐにゴブリンも来たのですが暗い森の中、それに穴の中に隠れたらもう男の子は見えません。昼間なら見えたのかもしれないけれど夜の暗闇が男の子を助けてくれました。


それから男の子は怖いのは暗闇じゃなくて人を襲う化け物なんだと気付きました。

みんなも夜が怖いのは暗がりに何かがいる気がするからじゃない?大丈夫だよ、今は沢山の大人が付いているから。


それになによりね、人を襲う化け物なんてお兄ちゃんの仲間がやっつけちゃってるからね!」


闇は闇であって悪ではない。ハルディス(ニート精霊)が言っていたことだ。


話の終わりに合わせて矜持は安定の魔法を使う、すると子どもたちは安心させられる(・・・・・)。するとさっきまで怖かった闇が怖くなくなる、話を聞いて乗り越えたんだと錯覚する。

一度克服したと思えば今後は少し怖いと思っても克服した経験のおかげで乗り越えられるはずだ。


「いやぁ、見事に子どもたちから恐怖が消えましたね」


近くに来た白髪混じりの初老の男性…服装からして神父が話しかけてくる。


「子どもにはできるだけ不安を感じて欲しくないですから」


「それは良い心がけですね、申し遅れましたが私は天啓教の神父、プノレートです。よければ少し話しませんか?」


「士道矜持です、他にも泣いてる子が居ると思うので見回りながらでいいなら」


「ええ、もちろんそれで構いませんよ。ところで名字を先に名乗ると言うことは仏教ですか?それとも無宗教ですか?無宗教ならうちなんてどうです?」


名字を先に名乗る場合は仏教徒が多く、それ以外の一部マイナー宗教、それ以外は名字を前後どちらにしても問題ない無宗教だ。


「無宗教…ではあるんですけど、強いて言うならば人の意思を信仰していますからお誘いは嬉しいのですが…」


「そうですか、無理強いはしないので大丈夫ですよ、先ほどの手腕が良かったので誘ってみただけです。闇は闇でしかなく悪ではない、天啓教は闇精霊への信仰も認めているので少し嬉しく思いまして」


天啓教は信仰する神に明確な名前はないが全世界(・・・)で人気の宗教だ。

世界を超える力を持つ善の存在を信仰すると言う考えを持っているため神と呼ばれる存在と精霊を信仰している。

同じ世界を渡る力を持っている悪魔や極一部の魔物は悪行を成すので信仰の対象ではない、他宗教では悪魔と共に忌み嫌われることもある闇精霊は受け入れている、なぜなら闇であることは悪ではないから。


そしてそれは文字通り全世界(・・・)で受け入れられている。

矜持の住むセラフェリアの存在する第1世界、そして今いる第13世界、その他現在確認されている全ての世界において、


存在する生物の違いはあれど、気候の違いはあれど、価値観の違いはあれど、


知的生命体に言語の違いは存在しない。


それこそが神と呼ばれる存在の証明であるとされている。

それを正式に理解している人間は比連に所属して世界を実際に渡るものがほとんどであろうが比連自体はさまざまな世界に展開されているため認知されている。


「いやー、確かに闇精霊は他の精霊よりも精神性が人間から離れてますしヘタすれば契約してるだけで死にますからね。危険視されるのもわかりますよ」


「ええ、たしかに彼らの人間に対する考えは他の精霊よりも厳しいと聞きます、でもそれは種族の違い故に価値観が違って当たり前と言うものです」


「ええ、人が他の生き物を食べるように闇精霊も人をエネルギー源としか見ていない、精霊の中で異色だとしても彼らの中にも宗教の違いがあるのだと思えばわからないでもないですからね」


「ええ、かと言って人が死ぬのをよしとする訳でもないのですがね…」


「ああ、わかりますよ。かと言って闇精霊を迫害するのもよくないってジレンマ…」


「やはり君は天啓教に向いてますね」


「今さら名乗りを矜持・士道にするのも慣れないので遠慮させてもらいますけどね」


2人は愚図る子どもやヒステリーを起こしかけている女性、怒鳴り散らす男性などを諭しながら移動中に会話を重ねていく。


「矜持くんは子どもに好かれますね、先程から矜持くんがあやすと簡単に落ち着いている、私も一緒にいるとなんだか落ち着く気がします」


「軽くですけど安定の魔法を使って落ち着けてるんですよ、先天魔法なんで軽くなら詠唱もいらなくて…何かを傷つけるのが苦手な魔法なもんで…」


実際はそれ以外にも精霊ほど顕著でないにせよ矜持が無意識に操っている仙術により穏やかさを感じて子ども達は懐いている。


「相手を落ち着かせる魔法ですか…優しくていいですね、私は好きですよ」


その日、みんなが寝静まるまで矜持とプノレートは共に見回りを続け、それを終え矜持が詰所に帰ると、チームのみんなも泥のように眠っていた。


誰一人として欠けてはいなかった。

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