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港町サザナミにて4



「飯じゃああああ!!!」


「「「うぉおおおおおお!!!」」」


「肉はモンスターウルフだけだあああ!!!」


「「「飽きたあああああ!!!」」」


詰所のテンションは凄いことになっている。


「ほんとにモンスターウルフって食べれるんだ…」


「肉なんだから焼けば食えるって言っただろ?」


「俺も抵抗なかったぞ?」


道中でエリアスが拒んだモンスターウルフを食べることが普通に受け入れられている事に驚きを隠せなかったが矜持とレントは当たり前だろ?と言うふうな態度だ。


ゴブリンのような人型の魔物を食べるのはさすがに抵抗があるとはいえ肉大好きな年頃の男としては焼けば食えるを信条にしている。


戦闘後に少しだけ残されるモンスターウルフは食料に、流石にゴブリンは特に使い道もないので燃やされるが少しでも町の人の備蓄を減らさないようにという配慮だ。


無駄に賑やかな食事を終えると雰囲気は一気に戦闘前のひりついたものになる。


「よぉし、いくか!」


レンガの声で全員が準備を始め凄絶な覚悟を纏って出て行く。

未だこの作戦で死者は出ていないが気を抜けない状況である事に変わりはないからだ。

その雰囲気に当てられた矜持は自分が参加できない事を密かに悔しがりながら町の方へ向かう。

恐怖に煽られ暴動を起こす者がいないとも限らないため支援班から何人か送られるうちの1人として。


自分が戦った方が簡単なのは確かだ、でもそれでは意味がない。何様なんだと思われるかもしれないが乗り越えられる試練は比連の職員に乗り越えてほしい。

そうして強くなって何処かで誰かを守ってほしい。


いくら個人が強くても、悲劇の現場に居合わせなければ助ける事なんて出来やしないのだから…


「だから俺は全てを救うヒーローになんてなれはしないんだ…」


かつて馬鹿な自分が目指したありえない理想。異なる場所で起きる2つの悲劇に1人では決して対応できない。そんなことは当たり前でそれを解決するにはヒーローが複数必要になる。


本来荒事しかできない自分には荒事をたくさん回して欲しいところもあるのだがやり過ぎてもいけないと言われている。

師、熊谷虎徹は「お前はまだ人間なんだ、普通の幸せを掴め。俺のようにただ仕事を受けてこなすだけのシステムには成り下がるんじゃねぇ」と言っていた。


言われていることの意味はよくわかる、矜持にとっては家族やクオリアや最近一気に増えた友達が大切で、いざという時に力をくれるのはそういう存在なんだろう。


魔力が心に反応して作られるものである以上そこは疑いようがない。


「それでもやっぱり待つって選択は苦しいものがあるよな…」


1人呟きをこぼしながら歩いていく。



「構えええ!」


その言葉で隙間なく大盾が地面にささり外壁から大きな半円を描いた防御陣が出来上がる、そのうちに集まっているのは魔法使い。

時々くる数匹の魔物を倒しながら大進行を待つ。

地獄のような時間が続く。


「きたな…」


誰かが呟いた、森の方からうじゃうじゃと魔物が押し寄せてくる、だが途中で動きに乱れがでている。


「おー、今日来たやつが仕掛けたトラップ、ちょっとは効いてるな」


矜持の昼間の働きを見ていた魔法使いが呟く、それはエリアスたちの耳に届いた。


「あの、それって矜持ですか?そこそこガタイがいい男の子の…」


「あー、そうそうそいつだ」


それを聞いてどこか圧倒されていたのが吹き飛ぶ、


「サポートの方が敵を倒してる…なんて情けないのはいやよね」


「私も精一杯頑張ります!」


臆病なクリスもしっかりと覚悟を決めている。

なぜなら誰も絶望していないから、相手の数が多いなんて承知の上、さらに言えばあれだけいても勝てる自信と実績がある。


それゆえの緊張はあれど恐怖はない、と言う雰囲気がクリスを落ち着けていた。


魔物の波が近づく、誰かが魔法を唱え始める。


『焔よ、焼き尽くせ』


『駆け巡れ、雷』


『連なる氷柱よ貫け』


直径2mほどの炎の柱が扇型を描き魔物を焼き、魔物の群れの中に落ちた雷が周辺の魔物を感電死させ、いく本も放たれる氷柱が直線上の魔物を何匹も突き刺していく。


それだけでどれだけの魔物が死んだかわからない。それでも波は止まらず前衛の盾にぶつかる。


コントロールに優れた魔法使いが前衛には当てずに魔物だけを殺す。


そしてクリスとエリアスも動く。


『大爆発!』


『地面よ、反転して飲み込め』


魔物の群れに爆弾が落ちその場所を更地にする。地面が裏返り魔物を押し潰す。


先天魔法の短い詠唱で魔法使いが破壊を振りまく。


「うぉおおおお!押されてたまるかああああ!!!」


前衛も魔物を中に入れてなるものかと必死に耐える。

魔物そのものは弱いものだ、しかし森のどこにこれだけいたのだと愚痴りたくなるほどに数だけは多い。


魔法使いは普通の戦闘の際でも消費が回復を上回る魔力がこの状況だ、いつ終わるかわからないという精神的な辛さ故にさらに回復が遅いものまでいる。


ただひたすらに数の暴力がなされていた。

前衛は魔物の体当たりに耐える中盾を支える肩などに打撲によるダメージが蓄積される。


「盾の前に死体が積もってきた!さがれぇ!」


レンガの合図により陣形が少し縮まる。それにより事前に打ち合わせしていた数人が休憩に入る。

夜は長い。



「ガキども!ピーピー泣くんじゃねえ!うるせえんだよ!」


「落ち着いてください、こっちで面倒みますから」


夜の暗さに恐怖を感じる子ども達が泣き、気が短い者が怒る。それがここ最近のお決まりらしい。


暴動を止める事が仕事の正規職員はそれを止めこそすれ、見回りがあるため泣き止むまでは面倒が見れなかった。


だが矜持は昼間すでに仕事をしているため今ここにいるのは言ってしまえばサービス残業だ。やるやらないも自由とさえ言われてるので好きに動く事にした。


「よーし、みんな集まったね。夜が怖く無くなるようにお兄さんが話をしまーす」


そう、原因の除去から始めていた。



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