港町サザナミにて2
詰所で皆から離れたところでレンガさんに瓦礫や死体について聞くともうほとんど処理し終わっているらしい。
完全に瓦礫が無いわけではないのでもしかしたら…という事もあるかもしれないがいろんなチームのサポート系の方々の尽力と教会の方々の協力で心配する必要は無いとのことらしい。
「うん、じゃあそろそろ仕事の割り当てに入ろうか」
レンガさんがそう言ってその旨を少し大きな声で周りに告げると途端に静かになり二手に分かれる。
「人数の多い方が戦闘班、少ない方が支援班だ。紹介の感じ的に矜持君とシスカさんは支援班だ、悪いがここにいる間は複数のチームではなく大きな1つのチームとして動いてもらう。いいね?」
「「「はい!」」」
「逆にチーム『真紅の鏃』は分離、馬車で物資の補給を頼む、リストは支援班が後で作ってくれ」
「「「はい!」」」
「以上!じゃあ支援班の方は2人に仕事を教えてくれ」
レンガの指示により分担がおわり矜持とシスカは支援班の方へ向かう。
「どうも、改めてよろしくお願いします。士道 矜持です」
「シスカ・リールですぅ」
それに対してボサボサの黒髪に背筋が曲がった男が答える。
「おう、一応支援班のリーダーやってる細女 蛮だ、主な仕事は見張りに道具の整備、救護になるんだが…矜持、お前と同じ罠タイプが他にいないしいたとしても外には魔物がいやがる、夜になれば嫌でも戦闘になるのに戦闘班を護衛にも出せないんでやることねーわ、という事でこっちの雑用と…あー、町の人のお手伝いでもしてくれ」
ボリボリと頭を書きながら蛮がそう言う。
「わかりました、でもそれとは別で罠も仕掛けてきますよ、生き残るのは得意なんで」
「あ?あー、やる事ないって言われて焦ってる感じか?肩の力抜け抜け、わざわざ危険なことする必要ねーよ」
「いえ、これでも11年間旅をした経験があるのであれくらいなら大丈夫です、ただお願いがありまして…」
矜持が蛮と話す一方でレント達もレンガから戦闘班の説明を受けていた。
「戦闘班の仕事は単純だ、夜、つまりは人の寝る時間になったら襲いかかってくる魔物達をぶっ殺す。それだけなんだが今回は数が多いのはわかるな?」
「「はい!」」
「は…はひ!」
いつも通りクリスはガチガチに緊張している。
「だから前衛達は全員大盾をもって壁を作ってもらう。そんで魔法使いが範囲攻撃で一掃が作戦だ、自分の戦いに自信がある奴は文句があるかもしれないが誰も死なない戦いをする、わかるな?」
「「「はい!」」」
今度はクリスもしっかりと返事をする。レンガの誰も死なない戦いという言葉、それを発する時の空気が凄まじく重く、3人にも否応なく覚悟を決めさせた。
(これが金羽…)
密かにレントはその圧に感動する。エリアスが既に銀羽となっていること、翼階級と分けられている事でどこかナメていたその階級は決して軽んじていいものではないのだと話しただけで教えられた。
「ところでレント君はかなり細身だけど盾役できるかい?」
「あ、俺獣人のハーフなんで力はあるんで大丈夫です!」
「そうなのか!?見た目は完全にただの人間だからわからなかったよ」
「そうなんですよね、妹なんかは狼の特徴がよく出てるんですけど俺は全然出てなくて…あ、でも筋肉の質とかはやっぱ獣人だと思うんですよ、かなり丈夫なんで」
「ほー、聞いたことのないタイプだが頼りになりそうだね、それじゃあ夜まではしっかり休んでくれ、それまでは何をしててもいいから…あ、詰所の部屋割りはチーム毎だから後で支援班の方で残りの2人と合流するついでに教えてもらってくるといい」
「はい!ありがとうございました!」
話を終えるとレンガは詰所のおそらくレンガのチームに割り当てられた部屋に引っ込んで行った。
「んじゃあとりあえず部屋教えてもらいにいこーぜ」
「レントストップ、あっちはまだ話してるんだから急かす様な真似しない」
エリアスが言うように矜持は支援班の人とまだ話している。
「あんだけ話すって支援班大変なのかなー」
「それもあるでしょうけどやっぱり矜持は有能なのよ…それこそ私なんかより銀羽の階級貰ってもおかしくないくらいに…」
少し落ち込んだ様にエリアスが告げる、昨日のミスのせいで自分の階級に自信が持てないのだ。
「でもでも、入学してすぐに実技の腕が認められて先生の方から銀羽に上げてもらったんですからエリアスさんが凄いのに変わりはありませんし、いろんな魔法をその場で考えれていろんな場所で活躍できるって認められての銀羽ですから…えっと…えっと…」
「クリス焦りすぎ、でもおかげで自信出たわ!そうよね、私はいろいろできるんだもの!」
「どうせ俺は剣振り回すだけだから銅羽だよ…」
「私も爆弾作るだけですから…」
「あ、ご、ごめん。でもほら戦闘力の方が認められたら階級上がるんだから2人ともすぐにあがるって、ね?」
エリアスが立ち直ると今度はレントが少し沈む、クリスの自虐はいつものことなので特に落ち込んでいるとかでもない。
「でも矜持さんて不利ですよね…ワイヤーでいろいろできるのに評価的には魔道具を使ってワイヤーを出すだけなのでエリアスさんみたいにさまざまな場面での活躍で階級を上げることも出来ませんし戦闘面での昇級もサポート側だと難しいですし…」
「あー、クリスは魔法系しか授業取らないから知らないか」
「矜持は将来的に金羽確定って言われてるぞ」
「ええっ!?そうなんですか!?」
レントの言葉にクリスが心底驚いたという表情をする。
「あいつが魔力のコントロールをさらに鍛えてワイヤーを細くして物が切れる様になってあとは今より速く動かせる様になったらかなり強いからなー、今でも読みが凄くて物理実技で結構な勝率だし」
「そうそう、気づいたら両手足全部ワイヤーに絡め取られててやってられないのよね…この前なんて小石投げつけられたと思ったらワイヤーが繋がっててぐるぐる巻きにされたし…」
「そ…そうだったんですね…」
「だから引く手数多って言ってたの、ほんと卒業したら抜けるのが痛いわ」
「なー、ずっと組んでられたらいいのになー」
「しょうがないですよ…彼女さんと組むんでしょうし」
「「ん?」」
クリスの何気ない発言にレントとエリアスが反応する。
「はい?」
「矜持に」
「彼女?」
レントとエリアス、幼馴染だけあり息ぴったりである。
「クリス、その面白そうな話聞かせてくれない?」
「俺も気になるなあ、それであいつからかってやりたいし」
ふふふふふと不気味に笑う2人がジリジリと寄ってくるのにクリスは口を滑らしてしまったなぁと後悔する。
助けを求めて周りを見るとちょうど支援班の話が終わったようだ。
「矜持さん話が終わったみたいなんで直接聞くといいと思います!」
「オーケー!エリアス囲むぞ!」
「任せて!絶対に逃がさない!」
恋愛ごとが好きな年代らしくケダモノの様に迫ってきた2人をやり過ごせて安心したクリスだがこれは後で矜持に怒られるかもなあと憂鬱になり赤い髪に隠された瞳を少し翳らせた。