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港町サザナミにて



「よし、今日も問題ないな」


朝と言えどもまだ少し暗い時間だが寝起きの矜持はそう呟く。

矜持の契約しているニート精霊、ハルディス・ナイトメアの権能は夢と闇、その力で夢の中で培った経験を肉体に反映させることができる。


それによって先ほどまでニート精霊と全力で(・・・)戦った疲労等々がやってきたが自身の動きに問題がない事を確認する。


それを確認すれば今度は他のメンツを起こす作業に入るのでとりあえず横にいるレントを起こす。


「レント、起きろー」


そう言いながら肩を叩くとレントは少し反応するが起きない。

こんな時に人を起こすのは簡単だ、持ち上げて落とす。


「うぉわ!」


持ち上げた時点で独特の浮遊感のせいで唐突にレントが目覚めさせられる。


「おはよう、レント」


「おう…おはよう矜持、できればもう少しいい感じに目覚めたかったって言うのは贅沢か?」


「エリアスとシスカに頼めばよかったか?」


「よくないな、あの2人仲良いのかなんなのか揃うと俺にやたらつっかかってくるし」


なんで2人に好意持たれてるのに気づかないんだこの馬鹿という言葉を矜持はなんとか飲み込み


「そうか、それはそうと残り3人起こすのはお前の仕事な、俺ちょっと壁の外確認してくるから」


「待てよ矜持!今の聞いてたか!?」


「聞いてない、じゃ行ってくる」


好きな人に起こされる方がいんじゃね?という安直な考えでレントに任せたが女子的に寝起きの顔を見られるのはどうなのかとか今更ながらに考える、まあ答えはすぐにわかるかとワイヤーを使い壁に登り周囲を見渡す。


はるか先には港町サザナミがすでに見えている、この時間から行けば夕方には着くであろう距離、天気は快晴。


「天気の方は機嫌が良さそうだけど…」


チラリと覗き見た下ではシスカに抱き込まれ寝転がるレントとそれに文句を言うエリアスとそれを眺めるクリスを見てから


「町があまり悲惨な状況じゃありませんようにっと」


パンパンっと太陽に手を合わせてから壁のうちへと戻って行った。



朝食の後、全員が武装を済ませたのを確認してからエリアスが壁と堀を元の平地にもどす。


「じゃあ、いくわよ!」


昨日のことは振り切ったと言うような強い口調で輝く金色のサイドテールを(なび)かせエリアスが宣言して歩き出す。


実際モンスターウルフに出くわした場合もエリアスはレイピアでしっかりトドメを刺していた。

問題があるとすれば回避できる攻撃に対してもシンが砂の盾を作ってしまって魔力消費がやや多いくらいだ。


「町が見えてきたのはいいんですけどぉ」


「魔物の遭遇回数増えてません?」


「増えてるな…おもにゴブリンとか…」


「まあシスカのおかげで体力的には余裕があるんだし頑張ろうぜ」


夕方、町のまで来た時には前衛のレントとエリアス、それから運動が苦手なシスカは疲労が溜まりに溜まっていた。


それでも町まできたのだ。


「ここからが、本当の依頼だ。疲れてるかもしれないがとりあえず失礼の無いようにちょっと気合いいれようか」


矜持の呼びかけで辛いながらもみな姿勢を正す。

それを見た矜持が先ほど見張り台で手を振っているのが見えた所へ歩いていく。


「どうも、応援で来ました。チーム『スピリッツ』です。責任者の方はいらっしゃいますか?」


「おーう!ちょっと待ってな!今もう1人の奴が呼びに行ってるから!」


「わかりました、ありがとうございます」


見張り台の上からはそう返事が返ってきたので素直に待つことにする。


ほんの数分してから2人の人が歩み寄ってくる、1人は会釈(えしゃく)だけして見張り台の方へと登って行ったので皆も同様に会釈だけ返しておいた。

そしてもう1人、責任者の男が話しかけてくる。


「どうも、チーム『スピリッツ』のみなさん、現場責任者のチーム『センライン』リーダー、金羽のレンガ・石積(いしづみ)です」


その男は圧倒的に筋肉という感想が全ての男だった。大きな体に制服の上からでもとんでもなく筋肉まみれという事がわかる体型、ガタイがいい方の矜持と比べても尚圧倒的な大きさを誇っている。


『スピリッツ』の面々も順に自己紹介をして代表として矜持が握手をする。


「堅苦しいのは挨拶までにして大事な仕事の話をしようか、移動しながら話そう。付いてきてくれ」


そう言ってレンガは踵を返して歩き出す。


「わかりました、みんな行こう」


後ろの4人はそれでいいのか?と思っているが現場において口調などどうでもいいから実力を示せというのが比連職員の基本だ。戦場で口調を気にして伝達に思考を割く時間を少しでも減らせという事になる。


「まず私たちの置かれてる状況だがこの港町サザナミが陸側に外壁を持つ町だというのはわかってもらえたと思う。それと外の魔物の量が異常なことも」


「いくら震災の後とは言えあの魔物の量は異常ですね」


「ああ、君たちは全員魔物の発生原因はわかるか?」


レンガの質問にエリアス優等生のエリアスが即座に答える


「恐怖や欲望などの負の感情がエネルギーとして世界にある魔力に反応したり、あるいは負のエネルギーが塊となって現れる場合と通常の繁殖の2種類ですね」


「ああ、だが外の奴らは外になると外壁の、それも門のあたりに集中してやってくるもんだから毎回かなりの数を殺しているはずなんだ。いくら震災で恐怖の残る町だとしても湧く早さが異常すぎる、何が起きてると思う?」


「森の中にダンジョンができて溢れてきている…ですか?」


今度は矜持が経験則から答えた


「おそらくな」


ダンジョンとは土地の魔物化、おとぎ話のような宝が置かれた夢のあるダンジョンも世界によっては存在するがこの場合はダンジョンの核を壊すまで世界にある魔力に自らの悪意を反映して魔物を作り続ける悪意全開の土地でしかない。


「その考えに至ったからには俺たちの手に負えないって事で世界間通話可能時間に上に報告したら今本格的な応援を編成してくれているらしい。それがくるのがだいたいあと一週間、ちょうど君たちが今回の仕事を終えるくらいだ。

それとは別に町の物資が尽きそうなのもあって補充しないといけないんだが手が割けなくて依頼を出してたら君達が来てくれた次第だ」


世界間通話可能時間とは転移装置を使って世界間の通話を可能にしただけのことだが魔力消費の関係で一日のうち12時からの30分のみしか開放されない。


「わかりました、精一杯頑張らせてもらいます」


「おう、頼むぞ、でここが詰所」


そう言ってレンガが指さすのは土魔法で作ったのであろう平屋


「報告に来てた学生が来たぞー」


「助かった、俺もう休んでいっすか?」


比連校は入れる時点でそれなりのエリートであるため若い職員、おそらく比連校上がりではない職員が少しふざけながら休みを希望した


「俺もそろそろ休暇欲しいです!毎日アホみたいな量戦わされてちょっとブラックすぎません?」


「帰ってゲームしたいです!」


「うるせえそれより顔合わせだ、腑抜けたことばかり言うな!気持ちはわかるが!気持ちはものすごくわかるが!」


レンガが矜持達の到着を伝えると中からそんな事ばかりが聞こえる


「どうもチーム『スピリッツ』です」


また挨拶をして歓迎してもらえる。


「ところで皆さんいつから休みなしで働いてるんすか?」


「もうすぐ1ヶ月かな…」


レントが不意にした質問はその場にいた幾人もの職員に遠い目をさせて答えた人の声は消え入りそうだった。


「おれ…この仕事が終わったら入った給料で豪遊するんだ…」


「俺も子どもとゲーム三昧な日々を送りたい…」


とりあえず全員かなり精神的にきていらした。

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