脅威
今日からの調査のために家を出る矜持に読とヒカルが熟睡している中一人起きているクオリアだけが見送りの言葉を送る。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
しばらく人間界に滞在するということもなく、夜には帰ってくる予定であるため軽い挨拶だった。
一方で妖界の里の方へ行けない羽階級の人たち専用の宿兼比連支部のある、人間界と繋がる門の前では羽階級たちが前日の成果もあり気合が入っていた。
そこへ矜持が歩いてくる。
「えっと…何でこんなに集まってるの?」
単純に疑問を投げかけた矜持に対して返ってきた答えは1つのチームは緊急時連絡用に使う魔法の登録に、エリアス達は友達だからなんとなく、そしてその他数チームは凄腕と聞いて会ってみたかったからと答えた。
そしてその凄腕との噂を流しまくっていた矜持が最初に案内をしたエルド達は脳筋に見えて固有魔法が矜持の行う文書の調査に有用な『思念読取』のエルドを同行させてほしいとの事だった。
「正直俺は助かるけど、その辺は朱さんの意思次第で」
とだけ言って矜持は朱の方へと視線を向ける。
家の場所を知られるわけだから警戒して断っても構わないのだが朱はさんざんエリアスたちと話して比翼連理という組織についてある程度理解している、故に答えは
「問題ないですよ!」
当然了承だった。
エルドは実際かなり頼りになった。
世界は違っても言語は同じはずだと言うのに、どうにも読みづらい文字ばかりが並べられていたからだ。
内容的にかなり大事なのか、秘密なのか、簡単には解読できないようにと細工してあるのだがそこに込められた思念を読み取るエルドによって矜持に資料の情報が届けられていった。
「出た!」
朱の声が響く、そしてドタドタと矜持とエルドが資料を眺めていた一室まで走ってくると
「化け物が出た!倒しにいってきます!」
と宣言して走り出した。
「俺たちも行くぞ!」
「はい!」
矜持とエルドもそれを追いかける。
「速いですね」
「それに迷いもない、これは都市伝説を比連が見つけられないわけだ」
「職員が被害者になってラッキーでしたね」
「ああ、エリアスたちが襲われなかったら都市伝説の手がかりが得られないままだっただろうな」
そして朱が止まったところ、またしても森の近くで…その手に持った白い紙のついた棒、御幣を都市伝説の化け物…白いうねうねとしたよくわからないものを殴打すると、サラサラとそれは消えていった。
「あああへふはああへああ!」
「なに!なんなの!?」
現場に残された男女二人組の男の方が体をうねうねと不気味に動かしながらよくわからない動きを始める、あまりにも不気味な姿だが…矜持が安定の魔法を使うと落ち着きを取り戻した。
「もう大丈夫です、こんな人気のないところに来るなんて危ないですから気をつけてくださいね?」
「え…はっはい!ありがとうございます!そういえばなんでこんなところに来たんだろう…」
よくわからないといった感じで二人が帰っていく中、朱が呟く
「さっきのは…くねくね…てことは矜持さんが居なかったら、見ただけでアウトだった…」
サァーっと顔を真っ青に変えて呟くその姿はただ事ではない。
「あー、わかる、そういうタイプの搦め手系は相性あるし大変だよね」
「そう…なんですけど…今まで私だけで対処できる相手だっただけに…一人で対処できなかった相手っていうのが怖くて…」
「俺たちがきた事で都市伝説の方にも変化が出てるのか?」
再び考察に入ろうとしたところへエルドから声がかかる。
「矜持さん!上から何か来てます!」
次の瞬間、昨夜倒したはずのヒトクチが矜持を飲み込む姿が朱の目に映った。
大きさも、速度も圧倒的に上と一目見てわかる化け物だ。
いつのまにか気絶していた朱が目を覚ました時、その化け物も、矜持もそこにはいなかった。
エルドの話は朱には受け入れがたい話だった、あまりにも突然すぎると。
「と…とにかく一度戻りましょう、矜持さんのことも報告しないといけませんし…」
あまりにも突然すぎたその事実はエルドの口から説明されても矜持を知る者は誰も受け入れられなかった、だが同時に当たれば即死系統の魔法もある事は確かで、いかに強者であろうと不意を突かれ…相手の攻撃を受け止めようとした場合にそれを食らうとどうしようもないのは確かなのだ。
ガード不可の即死系は当たらない以外の道がないのだから…だから受け入れたくなくても…エルドの口から語られた矜持の失踪…おそらくの死亡は信じるに値するものだった。