都市伝説調査
妖界と人間界に徐々に別れていったこの第43世界は機械系統を発展させ汎用化を取った人間界、魔法などの系統を発展させ個性を伸ばした妖界となっている。
両方を取り入れ、共に発展させたセラフェリアなどの世界よりも劣っている部分がある、と言えば悪く聞こえるがそれを含めて文化としてエリアス達には目新しく楽しかった。
一方で仕事だが難しいものだ、都市伝説という未知の存在をセラフェリアに持ち込まないようにするため現地調査員にも情報の規制がされており、連理の枝によって作られた都市伝説の特徴をまとめた資料が渡されたのみ、遭遇すれば警戒態勢、人間界では失われたはずの力を何か使用すれば話し合いで同行を願い、会話が不可能であれば捕らえるとの事だが…
「これ…名前がそのまますぎて噂話予測できるのも何個かあるんだけど…」
「そうですね、まあそこは仕方ないのでは?『口裂け女』や『ダッシュババア』などは名前の限りでは怖さがわかりませんが警戒はすべきでしょう」
「それよりもぉ…噂話なんてセラフェリアにもあるじゃないですかぁ、どうしてここでだけ実在になるのか、ですよねぇ…」
「そ…そのための調査ですし、それがわからなかったらいつかセラフェリアに『不可視の手』とかが現れたりするかもしれないんですよ!?」
クリスが苦手な噂話の不可視の手というセラフェリアで有名なそれは見えない手がいくつも現れて下水や茂みやトイレなど、色んなところへ引きずり込んで締め上げて殺してしまう、という話でそんな話が出てきたはじめの理由は『子どもが一人で危険な場所に行かないように』という理由だ。
雨の日の川などが最たるものだったが、それを目撃したなどの証言から徐々に噂話として改変された結果、トイレや茂みなど、子ども達が怖いと思う場所が追加されていった形だ。
「たしかにあれが出てきたら実際に被害が出るわけだし…そう思うと大事な調査ね」
「どういう原理で現れたのかをぉ、解き明かさないといけないんですねぇ」
「それを解き明かすのは私たちではなく連理の枝の方ですが、そこに繋げるために頑張りましょう」
真面目な会話…なのだが、赤、緑、金、黒の髪の毛を揺らす彼女達からは楽しいという感情が隠せていない、そして何も起きないまま夜になった。
「ん〜、初日だし続行で…昼間の方が人が固まってるみたいだけど、夜の方が恐怖は掻き立てられるはずだし…幸い一日の時間は変わらないみたいだし一度徹夜する方向にしたいと思うんだけど、どう?」
エリアスの提案に他の3人も思案する。
「足の疲れはぁ…私がなんとかするとしてぇ、眠気は平気ですかぁ?」
「んぅ…被害者の出るタイプもあるでしょうし…わ、わたしは続行に賛成です!」
「そうですね…戦闘力に関してはこの世界の一般人基準から見ての恐怖対象らしいですし続行しても問題ないかと」
全員の合意により作戦続行が決まる、人が居なくなるほどの深夜。
人の意思で作られた存在という事で人の多いところへ行っていたがあまりにも成果が得られないので恐怖を感じる場所から回ることに、クリスが怖いと思う方へ続くと山の中の神社と呼ばれる建物に到達していた。
「こ…こここの雰囲気は…もう本当にダメです…明かりもなしでよくわからない建物で!無理ですぅ!」
半泣き…というよりもはや涙は溢れているクリスの反応にこれ以上は可哀想だと思うほどだ、もちろん他の3人も恐怖は感じている。
ガサガサ…先程から動物であったり風であったりで何度もクリスを怖がらせているそれだが今回は…あたりだった。
「テン…ソウ…メツ…」
白いのっぺりとした一本足の…コロッケに手足が生えたシルエットのそれが全身をぐねぐねと動かしながら近づいてくる。
「都市伝説の方ですね、協力してもらいたい事があるのですが、言葉はわかりますか?わかるのなら止まって下さい」
不気味なそれに対しても気丈にエリアスは比連職員として意思確認を行う、だがそれは…元になる生き物がいたのかもしれないが…それは人の恐怖が生み出した存在なのだ。
「テン…ソウ…メツ…」
止まる気配は一切なく近づいてくるそれに対して一同が攻撃を開始しようとしたところにさらに人影が現れる。
「新手!?」
その速度は速く、新たに敵が現れたのか警戒した四人の前でその人影は白い紙がいくつもついた棒を振りかぶり、バケモノに向かって振り下ろした。
黒い髪は肩口の長さで切りそろえられ、上は白、下は赤、どちらも袖口がゆったりとしているが、それは4人の知識にある和服よりも上下が分離していて動きやすそうだ。
その彼女が振り向く、その顔は怒りに染まっている。
「くぉっるぁー!こんな時間に肝試しでもしてたの!?女の子だけで夜出歩くのも危ないのにこんな人気の無いところに!しかも化け物に襲われてるし!何考えての!」
物凄い勢いで説教を始めた彼女だが、説明しても聞いてくれそうな雰囲気ではない。
そこへ都合よくカモが現れてくれた、今度は頭部が異常に発達した犬のような化け物、あまりの頭の大きさに一口で人間を飲み込めるであろうほどだ。
そしてそれはすぐに土の槍をいくつも刺され絶命した。
「あいつはどう見ても話が通じるような目をしてなかったし、この子に聞いた方が早そうだから殺しちゃったけど…いいわよね?」
エリアスの事後承諾に全員頷く、そしてその全員がすでに迎撃態勢を取っていた。
「は?なに?」
イライラしながら4人の視線の向いた方を見るとつきあがった土の槍がいくつも集まり三角錐を形成し、その中にはチリになっていく化け物がいた。
「え…なにこれ…」
「私たちは先ほどの化け物、『ヤマノケ』と『ヒトクチ』などを含む『都市伝説』について調べに来た者です、話を聞かせてもらえますか?」
調査初日、大きな進歩を得た。