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魂の知覚2



青い肌にとてつもなく大きな胸を持つ酒乱の鬼、亜鬼(あき)は現在、酒乱の様子も普段見て取れる余裕や色気もどこかへほっぽり出して獰猛(どうもう)な笑みを浮かべていた。


「はっはー!それにしてもレントくんも不幸だねー!魂の知覚ができたら同じシチュエーションを繰り返してその精度を高めて行くのに…そのシチュエーションが死の危機を感じた時…なんてさぁ」


「ほんとそれっすよね、でも自分で頼み込んだ事なんで」


答えるレントの両手は縄で縛られている。


「んじゃぁまだまだ殺すつもりで行くから…死なないでね!」


「任せて下さいよっと!」


実際には危なくなったらぬらりひょんの六元が間に入る予定なのだがそれを知っているのは亜鬼の方だけだ、レントは知らない。

そしてレントは両手を縛られているため避けづらい事この上ないというのに器用にバク転に縛られたままの手を利用するなどして避け続ける。


そして死を感じた瞬間には魂がより強く自身に力を送ってくれるのを感じ取れる、そしてその力を使いギリギリの回避、そんな無茶を続ける。


だがこんな無茶をするには最初に命の危険を感じる無茶をしたという事で…その話はレントが何の成果もあげられないままでいた一週間前、妖界に来てから一週間の日まで遡る。



猶予は1ヶ月半だというのに未だに初歩の初歩、魂の感知が一切できていないレントは焦っていた。


「感知してからもそれをいつでもできるようになるまで時間かかるしねぇ…」


嫌な言葉ばかりが耳に入っては心を締め付ける、耐えきれなくなったレントは自分だけがズルいことをするようでやりたくなかったが、矜持に頼る事にした。


「矜持…恥を承知で頼む…俺だけが周りと違ってお前に頼るなんて不公平なのはわかってる、それでも俺に手っ取り早く魂を感知できる方法を教えてくれ」


真剣に、悲痛な表情でたのむレントに対して矜持は


「いや別にいいだろ、人脈も力のうちだし?ただ俺もやり方をたくさん知ってるわけじゃないから…俺がやったやつで行くぞ?」


「いいのか!?頼む!」


こんなにもあっさり了承してもらえると思っていなかったレントは顔を輝かせるが、次の言葉が浮ついた気持ちをかき消す。


「じゃあ、一回戦うか、真剣に」


訓練施設内だがお茶を飲んでのんびりしていた矜持は膝の上にラティファを乗せて本当にのほほんとしていたのに、真剣にと口にした瞬間からレントは息ができなくなる程の圧を感じた。


同時に自分より強い相手との闘い、レベルアップのチャンスだと思い喜びの気持ちも湧き上がる。


「ああ!頼む!」


この選択を間違いだとは思わない、でも考えが甘かったのは今にして思えば間違いない。



妖界の中でも外れも外れ、周りに迷惑をかけないにしても離れすぎなところまで連れてこられたレントは「なぜここまで?」と思っていた。

その疑問はすぐに消える。


「準備はいいか?」


「ああ、大丈夫だ」


禍々しい…今はそれすら気高く見える大剣を構えたレントは一瞬意識が飛んだと思ったら地面を転げまわっていた。


「は?え…」


「すぐに周りを警戒しろ」


手合わせだと思っていたのに単純なステータスの差で圧倒される、状況を掴めないままに腹に衝撃を感じてまた転げ回った。


「真剣にって言ったろ、腑抜けてると…死ぬぞ」


極めて冷静に、レントに対して怒りも憎しみも無く、ただ純粋に武術とはそういうものだと言うように矜持はそう言った。


そこで初めてレントは自分の考えがいかに甘かったかに気づく、当たり前だ、今まで掴めなかった魂の感覚を手っ取り早く掴むための方法が簡単であるはずなんてなかったのだ。


『死ぬ』という感覚が全身に襲いかかってくる、嫌な汗が吹き出してどうしようもない程恐怖に包まれる、そもそも目で終えないのにどうやって対処すればいいのか、と必死で矜持の方を見る。


「よし、顔つきが変わったな…行くぞ」


矜持からすればあくまでもレントへの手伝い、善意なのだというのがわかる優しい笑み、しかし武の道として死ぬのは仕方ないと考えているだろう彼の動きは…相変わらず目で追えなかった、それでもなんとか近づいているのは線としてみえる、ぼやけたような彼の姿に大剣の腹を向けて防ぐ。


バリィン!と何かが割れるような音がして大剣に軽い衝撃がくる、その一瞬後、肺から空気が全て抜けた。


衝撃だけを通す技、鎧通しなどと呼ばれるそれだ、それによりレントの肺のあたりへ凄まじい衝撃が与えられた。


肺がなぜ潰れていないのかわからないほど圧倒的な痛み、体勢を立て直そうとしたレントの足はすでに足払いにかけられ宙に投げ出され、踏ん張るには空歩(うつほ)を使うしか無いのだが、その判断が遅れた時点で手遅れだ。


しっかりと握られた拳が何倍もの大きさに見えるほどのプレッシャーを放っている、当たれば死ぬ、それが錯覚などではなく事実とわかると、まだ俺は何も成し遂げていないと胸の奥から熱い何かが溢れてくる、迫る拳、今度は何故か目で追えるそれに反射的に大剣を離し両腕をクロスさせ盾にする。


骨が折れる大きな音を聞きながら、この胸の熱さこそが魂なのだとレントは知覚した。




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