可愛い子はだいたいの格好が似合う
切り替えの済んだエリアスを連れて4人は街とは離れたところに位置する宿へと入る。
翼階級になれていない職員のために街から離れた場所に建てられているそれは宿に支部としての役割がつけられたものだ。
「4人部屋でお願いします」
手帳で現在受注している人間界側での、都市伝説調査の依頼を表示しながら悠里がそう言って受付の人と話を進めていく、その様子を残りの3人はしっかりと学んでいた。
「やっぱりこういう時にも自分が未熟なんだなーって感じる…」
「レントさんの成長もあって考えさせられますよねぇ…」
「でもでも!クオリアさんもレントさんの方がおかしいって言ってましたし!気にしないでおきましょう!」
思い人との距離を感じるエリアスとシスカを励ますためにクリスはクオリアの言葉を使う。
「そうなんだけどさ…クオリアさん…凄いなぁ…」
「先に命題の壁を越えた矜持さんの理想に感動して自分もその手伝いのために命題の壁を越えたなんてぇ…」
「それだけ相手のことが大切って凄いですよねぇ…」
自分たちの想いに自信が持てなくなるほどだ。
「途中からこちらの観察をやめて話し始めたと思ったら何をまたすぐに落ち込んでるんですか…命題の壁を越える人たちが全体の何%だと思ってるんですか、あの人たちは頭のネジが最初からどこか緩いんですよ」
それが外れたら命題の壁を越えるんだと言う悠里の言い方は少し悪いがその通りなのだ。
「それよりも先に顔合わせに行きますよ、今日わたし達が到着するという事で待ってくれているようです」
「それは待たせたらまずいですね!すぐ行きましょう!」
話を切り上げ既に調査に乗り出している正規職員たちと顔合わせに行ったエリアスたちは矜持の言った通り、みんな普通にいい人、という印象だった。
「あ、てかみんなって矜持さんの知り合いなんだよね?あの人まじ凄くね?もう世界が違うって言うの?俺らとはスケールが違うわまじで」
若いが自分たちよりは確実に歳上の男性職員、エルドが楽しそうに話す、実際階級が上で矜持は翼階級、さらに銀翼ともなれば相当凄いのはわかっている。
友人が褒められて嬉しいはずなのに、どこか自分たちでは不釣り合いだと言われているような気がしてエリアス達は素直に喜べなかった。
「こらエルド!その言い方だとこの子たち素直に喜べないでしょ!」
スパーンとミチルと言われていた女性職員の手がエルドの頭を叩く。
「痛ってーなミチル!友達がすげーって言われて喜べない奴なんているわけないだろ!」
「ごめんねみんな、こいつバカなの、それで調子に乗って矜持さんに手合わせしてもらって…あれはもはや指導だったけど…本当に尊敬してるだけだから許してあげてくれない?」
どこかレントとエリアスを思い出させるようなやりとりだ、矜持がこの二人の名前を覚えていた理由も何となくわかった。
「いえ、エルドさんに悪気が無いのはわかってますから」
本人から聞いたわけではないがやはり翼階級になっても友達としての付き合いは信じていいのだとエリアス達はやっと確信した。
それはそうと話題に上がっている矜持は読の家にて居心地の悪さを感じていた、というのも当然だ。
「見て見て矜持、読の髪を祈理ちゃんと同じ髪型にしてみたんだけど可愛いと思わない!?」
「可愛いって思ってくれてる、クオリアの髪型も似合ってて可愛いだって」
仲良くなりすぎな気がする二人の中に混ざってからかわれている様な状況なのだ。
読の家に帰って早々にクオリアが告げた言葉は
「私この子なら矜持と付き合っててもうまくやっていけると思う!」
だった。
現状ではセラフェリアの方に情報管理などの面で読の受け入れ体制が作れないので不可能なのだが、それでも読にとっては朗報だった。
「それで心を読む事に関してだけどヒカルにも協力してもらったの、矜持が居なくなったら本当の姿を見せる事ができなくなって、この子が一人ぼっちになるなんて許せないじゃない?」
それは矜持もずっと思っていたことだ。
だが機械ができただけでは根本的な解決にはならないため比連が機密情報の管理などの面で読の入国を許すとは思えない、そしてそれは正しい選択だという事は矜持にもわかる。
読自身の身を守るためにも能力を完全に消す事ができるようになるまではここにいた方がいいのだ、特に内部からの裏切りがこの前起こった直後、レイガスの事だから全員を撤退させたという事はありえないという予想を立てている者も多い。
それを見つけるために有用である読の力は即ち外敵に狙われるという事、あまりにも危険すぎる。
「でもそれだけじゃ足りないだろ、俺が考えつく危険なんてクオリアならわかってるだろうに」
「そうね…正直厳しい、どうすればいいかわからないのは確かだからヒカルにも気長にやってもらうつもり、案外薬で消せちゃうかもしれないし」
「たしかに…ヒカルも比連でかなり評価されてるらしいもんな、精霊と融合させられた人を治した功労者として」
「そうそう、そのヒカルならなんとかできるかもーって感じね、ところで暗い話になったから明るい話がしたいんだけど、私も和服着たんだけどどうかしら?」
ガラリと話を変えたクオリアのペースに一気に巻き込まれこの後矜持は居心地が悪くなった。