妖界2日目
朝食の席で矜持は頭を悩ませていた、今日はどう動こうか…と、読の手伝いがあるというのはとてつもなく心強い、なんせわざわざ聞いて回らなくても近づけばいいのだから。
周りに思考する者が増えるほどに情報が増えるのによく処理できるよなぁ…なんて思考が逸れ始めたところで当の読から声がかかる。
「矜持、逸れてる」
「あ、ごめん…まあ何も起こって無いなら無いでいいからあと数日様子を見るかな」
「ん…付き合う」
正直ただのデートもどきが続くのだろうが、いくら調査の効率がいいからといって一日で切るのは良くないのではないか?と矜持は考えた。
この手の調査は時間制限がない限り慎重に行って間違いという事はないからだ。
「今日はどこにしようか…」
「昨日行ってない所」
それはそうだが宗教という形をとっているという事は勧誘などもするわけである程度人が居る所を探すべきだ、その人たちにも生活がある訳で読の力があれば知覚範囲内に入れば見つけれるため、交通量の少ないところへ行く理由がない。
「矜持が無意識のうちに省いてるところ…比連の訓練所も、人が密集してる…もっと言えば閉鎖的だから、宗教にハマりやすい」
外出禁止などではないが確かにあそこは外部との関わりが薄くなりがちな場所だ。
行くしかない、少しばかり気の進まない理由はあるが…行くしかない。
「一人で行くのもダメ、ちゃんと私も行かないと効率が悪い…私一人だと入りづらい。だからちゃんと揃っていかないとダメ」
「だよな…楽しい場所でもないからラティファはハルディスに任せるから2人で行くことになるな」
「楽しみ、ね?矜持」
「ああ…そうだな」
こっちは正直胃が痛いと思いながら矜持は生返事を返した。
どうせこっちの気持ちなんて最初からバレてるのにその上でこんな質問してきたのだからただの威圧だし返事も適当でいいのだ。
件の訓練施設内、二日酔いによる強烈な下痢と放屁の臭いに悩まされるレントは当然の事ながら魂の知覚が出来ていない。
「助けてくれ…誰か…」
トイレの中でギュルギュルと鳴る腹の音を感じながら悲しみに暮れるレントだが、周りの人達も何事も経験だと魔法を使って治す事はしてくれなかった。
誰のせいで飲む事になったのかと言いたいレントだが途中から楽しくなって度を過ぎて飲んだのは自分であるため諦めて苦しむことにした。
しっかり食べてしっかり水分を取れば昼には調子が戻るとの事なのでそれまでは魂というものについて考える時間だ。
しっかりと考えを固めて形を捉えれば捉えるほどに手のかかる方法は見つけやすいらしい。
だがそんなものは賢い人たちの話で途中からレントは同じ考えばかりが頭に浮かんで意味がなくなって来た。
「世知辛いなぁ…俺ちゃんと帰れるのかなぁ…」
若干のホームシックからくる不安が家族や友達のところへ帰れない自分というのを想像させて精神的に参って来た。
なんとか腹が落ち着いたところでトイレから出る、やはり特別な訓練施設だけありトイレットペーパーも普通に扱えるのだから嬉しい、もともと力の強い鬼向けの物が流用できるため訓練施設がこの妖界に置かれたので当然と言えば当然なのだがその前の苦労を思うとそんな事がたまらなく嬉しい、そしてそれが元の世界でもできるようにならなければ帰れないのだ、悲しんでばかりではいられない、やるんだと自分に言い聞かせる。
「ようレント、気合入ってるな」
耳に届いたのは一緒にこの妖界に来たのにいつのまにか居なくなっていた友達の…矜持の声、それが聞こえた途端気持ちがスッと落ち着き安心した。
「矜持!どこ行ってたんだよ!なんで置いてたんだよまじで!」
「あー…ほんとに悪いと思ってるんだけど、六元さんの姿が見えたから…」
かなり気まずそうに目を逸らす矜持の反応にレントもあ…これ苦労してるやつだ、と察した。
それからもう一つ気になっている事を訪ねる。
「あとその子はどうしたんだ?迷子か?」
ピンクの長い髪、それにどうやって巻きついているのかわからないリボンをつけた琥珀色の目をした妹のエレナと同年代くらい…つまり11.2歳くらいの見た目をした女の子を見てレントが思ったものをそのまま口にした。
「私は読、心を読む妖怪の覚の読、矜持とは将来を誓い合った仲」
フルフルと首を振ってから自己紹介した読の姿にレントは「あー、やっぱ矜持も苦労してるなー」と思ったがそれ以上追求するのも面倒なので
「そっかー」
と生返事だけした。
「いや簡単に納得するな…よ…」
途中で言葉に詰まった矜持の肩には節くれだった老人の手が置かれている。
「納得してはまずい理由がどこにあるんじゃ?はよう覚悟決めて嫁に貰ってやりゃあいいじゃろう?」
いつのまにかそこにいたぬらりひょんの六元がレントが知る好々爺然とした声よりも幾分か威圧感のある声で矜持に問いかけていた。
それでレントは全て納得する、心を読めるって能力のせいで多分苦労してた読ちゃんを何やかんやで矜持が救けてあげて、優しいお爺ちゃんの六元さんが読ちゃんの幸せのために矜持とくっつけたがってるんだろうなー、と細かいところは無視して完璧な推測を立てる。
「すごい、正解」
口にはしていなかったがその考えを読が肯定する。
「だって矜持だし」
「納得」
別にレントの推理力が優れているとかではなく矜持はそういうものだという認識が正しいだけだというのを確認して早速どこかシンパシーを感じたレントと読は握手をする。
「あなたは考えを読まれても気にしてない、話しやすくて嬉しい」
「俺はバカだから考えが読まれるなんてよくあることだし、そもそも大したこと考えて無いから」
ぐっと握手して二人は決して隣を見ない、六元に詰め寄られている矜持を、読は自分にとって都合がいいから、レントは面倒だからという理由で助けはしなかった。