読とハルディス
レントが酒盛りをしている頃、矜持と読は読の家に戻って晩御飯となっていた。
「どう?美味しい?」
「ああ、めちゃくちゃ美味い」
「よかった」
にこりと笑うその姿はやはり小さい体に見合わずどこか妖艶さを併せ持つため、矜持は視線を外してしまう。
そうすると眼に映るのはとなりで黙々と読の作った料理に顔を輝かせながら食べ続けているラティファで、その純粋な笑みに矜持もつられて笑顔になる。
今が食事中でなければ間違いなくそのふわふわの金髪を撫でていただろう。
「ふふ…見た目は大きくなったけど中身はまだまだかわいい…」
見た目は向こうの方が子どもに見えるが実際ははるかに歳上なだけでなく心が読めるのだから、手玉に取られても仕方がないのだがどことなく悔しさが残る。
その後も耳かきを提案してきたり、お風呂に一緒に入ろなどと提案してくる読をどうにかかわしきって矜持は眠りについた。
ラティファもひっついて寝ているし読も混ざるつもりだがその前にやる事がある。
「ハルディス、出てきて」
読の小さな呟きに応えて珍しくニート精霊が外へと出てくる、その顔は互いに真剣そのものだ。
「久しぶりじゃな、読…元気そうで何よりだ」
ハルディスのその言葉は社交辞令ではなく本当にそう思っている、それだけの感情が込められている。
「おかげさまで、それで…折り入って頼みがあります」
「ああ…任せておけ、私たちの仲だろう。お安い御用だ」
「ありがとう、お互い頑張りましょう。幸い矜持は押しに弱いです」
「ああ、心を読めるというのは心強い、それにお主は矜持以外には本当の姿を理解されず敬遠される…そこを使って押し切ってくれ」
真剣に会話しているのはどうやって矜持を落とすか、心の読める読に対してハルディスはいくつもアドバイスを飛ばしていた。
ひとえにそれは道を作るため、クオリアという彼女一筋を矜持が貫く限り自分は報われない、なら報われる為に道を作らねばならない。
その為の力になってくれそうな一人が読だったからだ。
「空腹は最高のスパイスというが愛もまた同じ…私たちの乾いた心を潤したのだから何として責任はとってもらわんとな…」
「ええ、間違いありません」
「じゃあまた…今夜の夢は矜持との新婚生活にしておく、楽しんでくれ」
同盟の意思確認を終えたためハルディスは矜持の魂へと戻る、彼女にとって矜持と関わる時間というのは基本寝ている間の夢に限られるのだから貴重な時間だ。
そして読にとっても四六時中矜持と一緒にいるハルディスが見せてくれる矜持の夢は完璧な再現度のため楽しみで仕方がないので早速眠りにつく事にする、もちろん矜持の隣で…流石にこれは止められまい。
寂しい事は嘘ではないのだから、彼は寂しがる相手を放っておくことなどありはしない。
それは相手に必ず恐怖される性質を持つ闇を纏ったままの読にさえ優しかった事から間違いない。
見た目も声も怖いはずの読に優しくしてくれた、そんな矜持だから彼女の乾いた心を潤し射止めたのだから。
「次いつ会えるかわからないんだから…ここで決めないと…」
それを矜持はどこまで理解しているのだろう、なまじその問題を少し解決して読が現在不自由なく暮らせるようになっているので彼はなかなか気持ちを受け取ってくれない。
そう思うと矜持に救けてもらったことが素直に喜びきれないと思ってしまう読だった。
翌朝、矜持がいつも通りハルディスとの全力戦闘を夢の中で行なって疲労を覚えながら目覚めたら右側にはラティファが、そして左側には読がいた。
読の寝顔は穏やかで、この世の全ての不安から解き放たれたかのように幸せそうで、こうしてみると普段の物静かながら醸し出される妖艶さはなりを潜め、ただの子どものように見える。
自然と頭に手が伸びて撫でていた。
「いつもこんな感じならもっと素直にお礼とか言えるんだけどな…泊めてもらったりご飯用意してもらったり、本当に感謝してるぞ、読。
ちゃんと帰る前にお礼はするからさ、ごめんな…よくしてもらってるのにぶっきらぼうな態度で、まあこんな風に思ってるのも読にはずっとお見通しなんだろうけどさ、本当にありがとう」
そうして、口からは感謝の言葉が自然と溢れていた。
「ん…矜持…好き」
相変わらず無垢な顔のままで言われるものだから普段よりも破壊力の高い読のつぶやきを受けて矜持はしっかりと赤面する。
照れ隠しにぷにぷにと頬をつつきながら
「ありがたいけど読は俺以外に選択肢が無いだけなんだよな…いつかはちゃんと読の邪魔をしてる闇を根本から断ち切ってやるからな」
少し勘違いした優しさを発揮していた。