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魂の知覚



レントがまず始めなければいけない事は自身の魂を知覚する事、力を掌握するにはその力がどこから来ているのかを知らなければならない。


川の水を干上がらせようと下流で躍起(やっき)になっていくら汲み上げても上流から水が流れてくる、ならば上流で()き止めてやればいい。


上流へ行くためには川を辿ればいい、そして辿る川は大きければ大きいほど見失う事はない。


全力を出す、それは命題の壁を超えた者にとって簡単な事ではない、一挙手一投足が大きな破壊を生む彼らが全力になれる環境を作る事が施設の目的だ。


ズムン…ズムン…ぬりかべのべーやんが作った壁を殴る、泥や粘土のように衝撃を受け止めるその壁、踏ん張りを効かせても問題ない妖界の地面、そのおかげで全力を出せているというのに魂の感覚がつかめない。


レントと同じように魂の感覚が掴めずに苦労している人達ももちろん施設には何人かおり、それぞれが思い思いにべーやんの作った壁にアプローチをかけていた。


一度レントは座って目を瞑る、事前に受けた魂についての説明を反芻(はんすう)するためだ。


健全なる魂は健全なる精神と健全なる肉体に宿る、と言われているように精神と肉体と密接に結びついている魂だが…両方の性質を持っていると言える。


精神の高まりという物理法則から離れたものを肉体の強化という形で物理法則に結びつける、そのように物理に干渉する力を持っているのに魂自体に実体は存在しない。

酷く曖昧で存在するのに実在しないという厄介なものだ。


それでも確かに自分の内に存在する、そして干渉する方法は同じような性質を持つ『魔力』だ。


魔力を自身の内側でどれだけ張り巡らせても魂の感触が掴めないのは魂を知覚できていないから、魔力によってそれに干渉する式も何も思い浮かばないから。


何をしても進展しない手詰まりの状況は精神的にかなり辛いものがある、周りの人達も同じのようで場に立ち込める空気は決してよくない。


結局その日は何も掴めないまま終わってしまった。


「ぬぅぅうううあああああ!」


どうしようもなく頭を抱えて悩んでしまう、このままでは遊びに行けない、それはとてつもなく大きな問題だ。


「おいおいどうしたー?悩み事か若人よ〜」


レントのうめき声を聞いていきなり障子を開けて隣のカモミールが現れた。


「すいません…うるさくなって…」


障子一枚でしか隔てられていないのに声が大きすぎたかなとレントが反省する。


「いやいや、壁っていうか障子じゃん?どっちにしろ聞こえるからしゃーないって、てか誰も気にしてない」


「そぉ〜そぉー!誰も気にしないからー」


カモミールが気にしなくていいと笑い、それに安心すると知らない人も会話に混ざっていた。


「ちょっ、誰ですか!?」


「どぉーもどぉーもー、少年…私こそはこの施設の運営しているうちの一人!鬼の亜鬼(あき)さんでぇーす…うぇっへっへっへ…君くらい若くて可愛い子って好みなんだよー、お姉さんといいことしない〜?」


鬼にもいくつか種類があるらしいが彼女は青い肌に黒い瞳を持つタイプのようだ、そしてこれは鬼だからかはわからないがレントよりも身長が高い、そんな彼女に絡まれているレントはその大きな胸に顔を埋められている。


そんな状態で誘われたとなればホイホイとノリそうなものだが…レントにその気は全く沸かなかった。


「ちょ…待ってください!酒くさ!息で酔いそうです!うぇっ…ちょ…本当に無理です…無理です!」


あまりの酒臭さに悶絶していた。


「姐さん、あんたの飲んでる酒は人間にはちょっとキツすぎるんだよ、離してやらないと嫌われますぜ?」


「そうか!酒か!無理って言われてショックだったけど酒が悪いのか!ならお楽しみは今度にして…酒に慣れようか!酒飲みたい奴は集まってこぉーい!」


亜鬼の掛け声で障子が開く音がバンバンと聞こえて人が集まってくる、セラフェリアでは16から飲む事ができるがレントは飲酒をした事が無かったためこの場で始めて酒を飲むこととなった。



「ゔぅ…気持ち悪いぃ…体がグワングワンする…」


初めて飲み会というものに参加したがお酒が入ると何でもかんでも楽しすぎたため調子に乗りすぎてしまったレントはすっかり気分が悪くなっていた。


それでも魔法主体の人たちにアルコールを分解してもらえなかったのだ、理由を聞いたら酔ったまま寝たら案外魂を感知できるかも…との事だ。


深い眠りにつくことで自分の内の魂を感じ取ることがあるらしく酔ったまま眠ることが推奨されている…のだがその前に一度吐きたい…それでも吐こうと思っても案外吐けないもので気持ち悪さを抱えたままレントは眠った。



翌朝、目覚めたレントは腹に物凄い違和感を覚える、下痢だ。そして放屁が止まらない上に果てしなく臭い、結局酔いすぎてしまったために翌日に辛さを残しただけで何も得るものは無いという悲しい初日だった。



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