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妖の町の洗礼



普通ではない生活を思い出して矜持は少し口角を上げる、彼は力のコントロールに関してここで何かを掴むまでもなくすぐに使いこなしていたので、ここにきたのは別件なのだがそれでも楽しい日々だった。


「じゃあ、いつまでもここに居ても仕方ないから町へ下りよう」


スタスタと歩いていく矜持にレントも地面を踏みしめて砕かないように注意しながら歩いていく。


町へ下りてわかるのは本当に喧騒が絶えないという事、そこかしこから聞こえるガヤガヤとした声はどこか気持ちがいい。


「なんていうか…いいところだな」


「俺もそう思う」


その雰囲気を楽しみながら歩いている二人に近づく影が一つ。


「そこの人間!見たことないから新顔だろ?いっちょ喧嘩しようぜ!」


爽やかに筋骨隆々の鬼がやってきた。


「お!喧嘩か!」「新顔が来たって!?」「ちょうどいい肴ができたな!」


とすぐに外堀が埋められて行く。


「じゃあレント、思いっきりやってこい」


と言葉を残して矜持は周りの円にすすっと混じって行った、何なら思い切り周囲を煽っているまである。


「っしゃあ!やるぞ!俺の名前は隆鬼(りゅうき)!お前の名前は!?」


「ちょ…本当にそんな急にやるのか!?」


まだ流れについていけないレントだがここはもう戦わないのが許される空気ではない。


「やるに決まってんだろ!ここに来るって事はお前強いんだろ、そんでもって俺は今酔ってて気分がいい!やらない理由が無いじゃねーか!さあ名前を言え!」


それのどこが理由なのかと聞きたいが矜持は思いっきりやれと言っていた、ならばやった方がいいのだろう。


「仕方がない…俺の名前はレント!よくわかんないけど思いっきり行くぞ!」


周りのガヤも盛り上がる、人でできた円形のリングの中、向かい合った隆鬼とレント、隆鬼がしっかりとした足取りで威圧するように歩いて迫る、あくまで喧嘩と言われているのでレントも剣を取らず歩く。


互いに譲らない、故に…そのままぶつかる。


「喧嘩、いける口だなテメー」


「そっちこそ、喧嘩はやっぱり…」


「「意地でやるもんだ」」


互いに手を組み頭をぶつけ押し合う、全力の押し合い、しかし地面が少しへこむだけ。


「まだまだあ!」


「こっちもだぁ!」


鬼がさらに力を増したのに合わせてレントは『強化』の魔法を使い一気に押し切った。


「どんなもんだ」


尻餅をついた鬼を見下ろしレントが笑う、鬼もまた笑う。


「負けた…そりゃ勝てんわ…その細腕でどんだけ力あるんだよ…」


一度シン…と静まり返った後大いに場は盛り上がる、そして


「次は俺だぁああああ!!」


と喧嘩をみて昂りが抑えられなくなった他の鬼や、それ以外の妖怪も次々と現れレントに喧嘩を挑む、いやレントを無視してそこらで喧嘩を始めるのも多数だ。


だがそんな中でも決して物が壊れない(・・・・・・)


矜持の言っていたのはこういう事だったのかとレントは理解する。

ここでは物を壊す心配をしなくていいから普通の生活をできそうだがこの乱戦を見ていると自分たちの普通は通用しなさそうだ。


この騒ぎで被害を受けていそうな店主達も笑って参加している、いつまで続くんだと思い始めた頃、空気が変わった。


「ほれほれ、そろそろやめんか、この坊主が進めないだろう」


ぬらりと現れた老人が発した言葉は大声ではないのに周りへと浸透し、その場にいた全員が言うことを聞き撤退し始めた。

その時近くの店で色々買ってから帰るのが礼儀のようで店主たちが乗り気だったのはそういう事なのだろう。


「急な事でびっくりしただろうがここではあれが普通なんじゃよ、手荒い歓迎で済まなかったね…私はぬらりひょんの怒良(ぬら) 六元(りくげん)、ここにいる間君を鍛える、妖怪の長じゃ」


確かな圧を持って発せられたその言葉にレントは頼もしさを覚える。


「はい!よろしくお願いします!」


深く頭を下げて六元に挨拶をした。


「うん、よろしい、ついてきなさい」


早速ついてこいと言われるが矜持がいない。


「あ、ちょっと待ってもらっていいですか?友達がいなくて、さっきまでそこで喧嘩を煽ってはずなんですけど…」


「いや、待てない。どのみち申請があったのは君一人じゃからその子の泊まる場所はない」


厳しいようだがここにきたのは観光では無いのだから当然だ。


「そうですね…すいませんでした」


「ただ…捜索にはあたらせよう、その子の名前は?」


目的を第一とした上で優しさも忘れない、そんな芯を感じさせる六元の言葉にレントは顔を輝かせる。


「矜持って言います!士道 矜持です!黒髪でそこそこ筋肉があって…」


「ああ…あの子か…それなら何も心配いらんだろうよ、行き先もたぶんわかる」


懐かしそうな雰囲気を出しながら少し嬉しそうに笑う六元の姿にきっと矜持は前にここに来た時もその優しさで誰かを救ったんだろうとレントは考える。


「まぁその話は時間がある時にでも聞かせてあげよう、彼の心配がいらないとわかったんだ、君自身の事をしっかりやらんとね」


そう言って歩き出した彼の後ろをレントは気をつけて歩きながらついていった。




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