いざ施設へ
レントのお別れ会には比連校内で行われるがしっかりと比連校に申請を出して許可を貰いエレナも参加していた。
中学時代の友達を誘っていないのはこの会が実質お別れ会なんてものではなく、事件の打ち上げをレントがいる間にやろうという事で開かれた会だからだ。
なら逆になんでエレナがいるのか?という話になるのだが…
「矜持さん…あれはともかく矜持さんはキャンプ参加できるんですよね?」
「うん、大丈夫だよ」
とまあ矜持に会いにきた感じだ。
「すごい表情ねレント、顔が歪みすじゃない?」
般若のような表情をしているレントにエリアスが近づく。
「複雑な兄心だよ、察してくれ」
矜持になびくエレナの気持ちはわかるのだがやはり気にくわないところがある。
「うん、確かにちょっと複雑そう…そんな可哀想なレントにケーキ持ってきてあげたから」
「お、ありがと。でも俺今自分で食えないから…そうか!ケーキを食わせてくれって矜持を呼ぶんだな!」
「違うから!」
思わずパシリと頭を叩いたエリアスはレントがビクともしないで自分の手にだけ痛みが残る事を理不尽に思う。
「エレナちゃんが楽しそうにしてるんだから邪魔したら可哀想でしょ、矜持の彼女のクオリアさんも何も言ってないのに」
「じゃあどうするんだよ、結局俺食えねーじゃん」
まだ気づかないのかとエリアスは呆れる、たしかに咄嗟に動いてしまった時に怪我をさせてしまうからまともに人が近づく事も今のレントには許されていないのだが…
「食べさせてあげるから、絶対に動かないでね」
しっかりと安全のためにレントの腕は土魔法で手錠をしてしまう、これごと振り回されたら危ないのでしっかり肘まで固定する。
「これなら流石になにも言われないでしょ」
照れて横を向いたエリアスのサイドテールがレントの視界に大きく映る、使われている髪留めは昔レントがプレゼントしたもの、水色のシュシュがエリアスの綺麗な金の髪を束ねている。
「まだ使ってたんだな、そのシュシュ」
「ずっと使ってる…貰い物だし比連関係では使わないけど、家の中とかだと特によく使う…」
「そ…そうか」
幼馴染の甘酸っぱい空気に負けるものかとシスカも参戦してレントへケーキを食べさせる係が二人に増える、楽しそうだからとルイスも参戦してレントの口へケーキを運ぶ。
金髪二人に挟まれた緑の髪のシスカに対して挟まれたんだから金髪にならないのか?オセロじゃないんだから…なんて適当な会話が繰り広げられながらもレントの口へは次々ケーキが入っていく、その顔がだんだん苦しそうになって行くが身振り手振りが使えないため喉が詰まっていると気付いてもらえない。
それに気づいたのは何か起こっても対処できるようにとレントの事をしっかり意識のうちに入れていた矜持とクオリア、その指摘を聞いてすぐにクリスと悠里が動き出し、二人で協力して何杯かジュースを飲ませて事なきを得る、楽しい馬鹿騒ぎは転移の時間に矜持とレントが間に合うギリギリまで続いた。
後片付けは残ったメンツで後でやる事にして転移装置前まで見送りがきていた。
「まぁ、レントの頑張り次第では早く帰ってこれるし予定の事を考えたら猶予は1ヶ月半てところだけど…ちょっと行ってくる」
「絶対にキャンプに参加するから!何が何でも!」
「強くなってもレントはアホね…」
「その明るさがレントさんのいいところですよぉ〜」
「え…えっと間に合わなかったら別の機会にまた行きましょうね?」
「そちらの方が無難かと…」
『スピリッツ』の面々からはレントへの言葉が
「じゃあしばらくの間は『シャークバイト』や『KOO』と合同で依頼こなすけど、みんなを鍛えるの優先で行くから…何かあったら呼ぶわ、何もなくても連絡はするから」
「レントに嫌気がさしたら矜持さんだけで帰ってきてくださいね!」
矜持へはクオリアとエレナが。
家族へは事件後顔を出して謝ってあるし矜持に関しては時間を見つければ容易に帰ってこれるのでそこまで問題はない。
挨拶が終わってしまえば二人の体は光に包まれ転移する。
「なあ矜持、今更なんだけどどんなところに行くんだ?」
「ん?言ってなかったか…コントロールを学ぶための施設はいくつもあるんだけどな、恐竜と戦うところだとか、植物と戦うところだとか竜と戦うところだとか…戦って全力を知ることで力そのものに慣れるって事で基本的に文明から遠ざかるんだけど…今回は施設の中で一番人気の…」
そこで転移が完璧に完了して転移のための大量の魔力を貯蔵されている先ほどまでの部屋から矜持とレント二人だけの殺風景な場所に屋内へ移動した。
「出て目にした方が早いな…」
さっさと出て行く矜持にレントはついて行く、木製の引き戸を矜持がひらけた先、広がっていたのは文明の証、光溢れる夜景。
「妖界、第43世界の人間達がいる方を表とするならここは裏、翼階級以外には立ち入る事が許されない世界だ」
矜持たちが立っているのは山の中腹あたり、声は聞こえないのに喧騒が伝わってくるような賑やかな雰囲気、木と瓦でできたセラフェリアでは和風と言われる建物に提灯の下がった店舗。
そこを歩くのも和風の服装が多い、頭から角が生えた鬼や顔のパーツが無いのっぺらぼうに一本足の傘…唐傘お化けまで実に様々な存在で賑わっていた。
「すげぇ…」
「ここの住人はめちゃくちゃ強くてな、それこそ鬼なんて種族的に大人になってある程度鍛えてるのは翼階級並みのパワーを持ってる、だからここでならお前はふつうに生活できる。
いや…語弊があるな….普通には生活できないけどまあ、楽しもうぜ!」
「ん?…ああ!」
矜持の言葉に少し引っかかるところはあったがレントは楽しそうに笑った。
ということでアンケートの結果で決まってた妖界ですー