友達として
並び立つレントは真剣な瞳で、それでいて口角をあげながら口を開く。
「俺があのクソピエロぶっとばすからよ、ルイスは頼んだぜ、ヒーロー?」
こいつは俺の赤いマントを知っている、だからこその激励なんだが…
「悪いなレント、今回マントは使わないんだ」
「なんでだ?」
ヒーローは人を救けるための存在だ、だがそれでは対等な関係は結ばない。
「ちょっとばかり落ち込んでる友達を励ますだけだからよ」
「そうか、じゃあ…そろそろやるか」
「おう」
ご丁寧に呆けて時間をくれたピエロ悪魔と怒りで錯乱しているような悪魔化したルイスに向かってそれぞれ空歩を使い超高速で肉薄した。
「よう、ルイス…ちょっと話しようぜ」
悲しみや苦しみ、負の感情に染められたルイスの心に仙術を応用して意識のリンクを図る、常人には耐えられないであろう負の感情の奔流の中で小さな光が見える、これだけの悪意に晒されても決して消えることのなかったその輝きに手を伸ばす、そしてその手が届いた時
意識が繋がった。
真っ暗な空間の中、頭を抱えてうずくまるルイスの姿だけがよく見える。
「俺は誰より強くなくてはいけないんだ!なのに…どうして…どうしてこんなにも邪魔ばかりが入るんだ!くそっ!くそっ!くそっ!」
なぜルイスがここまで強さに固執するのか俺は知らない、知ろうとしなかったんだ…最初にレントに戦いを挑んだ時から何かあるのはわかっていたのに、カーバン一家の事ばかりを気にかけてルイスにちゃんと向き合っていなかった気がする。
俺はみんなを助けるヒーローになりたい、それは多くの人が笑顔でいられる方がいいと思ったから、その理想を叶えるために鍛えてきた、でも今必要なのは力ではないんだ。
「なんで誰よりも強くないといけないんだ?」
「そんなの決まっているだろう!俺が父さんと母さんの!翼階級の二人の息子だからだ!」
「別に最強じゃなくたってルイスはルイスだろう?」
「違う!俺が強くないと母さんが安心できないんだ!強くなると父さんが喜ぶんだ!だから俺は!」
強さに執着したルイスの原点、それは家族思いの少年の優しい願いだった。
「ルイス、強くなるのは手段だろう?母親を安心させるため、父親を喜ばせるための。
それ以外には何か無かったのか?」
「それは…」
言葉に詰まりながらも必死で考えている、少し待ってから絞り出すように答えたのは…
「友達ができたって爺から報告を受けた時は嬉しそうだったさ…だがな、きっとあいつらは俺の事をそんな風に思ってはいない!俺だって奴らとつるんでいるのはいつか倒すためだ!」
「そんな事はない、お前今まで誰と話してるつもりだったんだよ」
ゆっくりと顔をあげるルイスの顔が徐々に驚愕に染まっていく。
「友達として話しにきた、ルイス、お前は今悪魔に飲まされたよくわからないもののせいで負の感情に飲まれてるだけだ。
でも真っ暗の中でも自分の姿ははっきりしてただろう?」
「なん…貴様…」
「本当の暗闇なら自分の姿も見えないはずだ、今言った本心を!お前の底にある光を強く思え!闇なんか振り払って一緒に帰ろう!友達なんだから!」
涙を流しながら胸に手を当てルイスは心の内を叫ぶ。
「俺…僕は!父さんを…母さんを…それだけじゃない!爺だって!みんなを安心させられる、みんなを守れる人になりたかったんだ!」
「ああ、なろう」
差し出した手をルイスが握る、ルシファーから授かった光はルイスにも伝わり闇が消えていく、最後にちらりとみたルイスの精神世界は彼の家の姿をしていた。
意識が現実に戻ってくるとルイスの体からは負のエネルギーが抜け出ていき元の姿に戻っていくところだった。
気絶したルイスを受け止める、あとはレントの方だけだ。
ルイスの精神へ干渉する間、万一の事を考えて見張りを頼んでいたハルディスに聞いてみる。
「ハルディス、レントの方の様子は?」
「何も問題ない、順調も順調じゃよ、見張りなんて暇な役割任されて眠らなくてもいい私に眠気が出てくるくらいにはやる事がないさ」
「それはよかった、後は任せてくれ」
「まあ構わんが…ただ気をつけろじゃな、知っての通り悪魔は狡猾だ、どんな奥の手を残してるかわからんぞ」
「ああ、わかってる」
ハルディスが俺の魂へ戻っていく中残していった言葉通りどれだけ優勢でもどんな悪辣な手で逆転を測るのかわからないのが悪魔だ、そしてそれを最も警戒しなければならない佳境にレントとピエロ悪魔の戦いは向かっていた。