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明けの明星



矜持はレントと同時にこの場所に呼ばれたにも関わらず動揺しなかった、理由としては精神世界に慣れていたから。


ただ…目の前の天使の髪や面影からラティファがチラついて仕方がない、というより無関係では無いのだろう。


そんな事を考えていると天使と目が合いくすりと笑ったあとに困ったような顔をされる、きっとそれについても話してくれるのだろう。


「私は元々高位の天使だったんです、大きな災害で明らかにそこに生きる生き物が対応できないものに対処する、時に力を与え、時に啓示(けいじ)を与えて導く、そんな天使でした。


天使は意思のないプログラムで動くものが多い中で高位だった私は意思を持っていたんです、ある時この世界に他の世界を滅ぼし尽くして世界一つ分の負の感情から生まれた魔物が現れました」


名付けるならば星喰い、レントは自身が戦った街喰いでさえあれだけの力を持っていたのにそんなものがいるのかと戦慄する。


「いつも通り力を与えて、倒せば回収すればいいと思っていたんです、でも相手があまりにも強いものですから一人では足りなくて沢山の人に力を与える事になりまして…その時始めて見た結束する力に、力を与えられてなおも自分より強い存在に挑む姿に心を打たれた私は…天使としての仕事の枠を超えて人々に…あなた方の遠い遠い祖先の人や獣人やエルフに精霊に力を貸すようになり、堕天したんです」


それがいい行いだと感じるのはあくまでも人側の視点だからであり決まり事を守らないというのは罪なのだろう、ただそれでも優しい彼女が罰を受けるというのにはどこか釈然としないものを二人は感じる。


「それでもよかったんです、彼らと過ごした時間は楽しかったんですから、例の魔物について説明したら他の世界の治安も守ろうと決起してくれた彼らの輝きが綺麗で…それを実現する為に共に頑張った日々は私の宝物です。


でも…やっぱり堕天しちゃってるんで長くは続かなかったんですよ、そんな風に自分勝手な行動を続けるほどに体は変質していって…それでも…それでも…」


感極まったのかその目からはついに涙が溢れ出す。


「それでも私は彼らと歩む事をやめなかったんです…やめたくなかったんです…徐々に心までが変質し始めて…それでもまだ理性のあるうちに『比翼連理』は出来上がりました」


「じゃあ、そのあとは元の仕事に戻って平気だったって事に?」


レントはそうであってほしいと願うように問いかける、だが世界はそこまで優しくはない。


「いいえ、最初に言ったように私は搾りかす、かつて天使であり堕天使だった愚か者の残滓(ざんし)、幽霊よりも稀薄(きはく)な消えるだけの存在です、私にはもう何もありませんから。


事を見届けた後、私は信頼できる人たちを集めてお願いをしたんです、『私を素材に武器を作って欲しい』と、醜く変質した体を見せて」


「それがレントの剣…」


「そうです…あの大剣は醜く変質した私の体とその蝕まれた心の破壊衝動からできたものです、そして…無事だった部分、体には殆ど無かったのですが無事だった精神は魔力と共に精霊としてその在り方を変えて残りました」


「それって…」


「ラティファ…」


二人が呼ばれたのは目の前の彼女の関係者だったから。


「ええ、力も記憶もなく幼い少女になったあの子と剣こそが今の私の全て、もはや何も持っていない私ですけど力の使い方を伝えるくらいならできます、戦う時に晒したその姿を悪魔を殺す悪魔とまで言われた私の力を、最後の瞬間まで心だけは何とか守った光を、受け取ってくれますか?」


その生を誰かのために使いきった彼女の力を受け取る事の重さがわからない二人ではない、その上でここで物怖じして受け取らないような二人でもない。


「「喜んで」」


「では少しだけ注意を…レントさん悪を倒すのは平和を守るための手段です、それを目的にしてはいけませんよ?」


「はい、肝に命じておきます」


「矜持さん、あなたは組織の事と自分の事でいろいろ考えすぎてしまうところがあります、もっと自由にあなたとして向き合ってもいいと思います」


「うっ…努力します」


少し痛いところをつかれた矜持は言葉に詰まり煮え切らない返事をするが予想済みのようで微笑んでいる。


「何より大切なのは身近な人を、目の前の人を大切にする事ですから、さあ長くなりすぎてもあまりよくないでしょうしお教えしますね


黎明(れいめい)よ、明けの明星(みょうじょう)よ、その輝きを我が身に』


そう唱えて下さい」


「はい!」


元気よく答えるレントに対し矜持の顔は驚愕に満ちている。


「あなたは…あなたの名前は…」


「私の名前はルシファーです、でも矜持さん、あなたと一緒にいるあの子はラティファですよ、あの子の事を、そして私の力を…頼みましたよ」


「っはい…」


「ではこれで私からの話は終わりです、あなたたちの行く道が光に満ちている事を願います」


視界が白に染まっていく中、レントと矜持はまだ言っていないお礼を叫ぶ。


「俺ルシファーさんの力でみんなを守るから!ありがとう!」


「今を生きる者を代表して言わせて欲しい!ありがとう!」


限られた時間の中で必死に叫んだ彼らの声を聞き届け一人残されたルシファーは涙を流す、その体は徐々に透き通り消えていこうとしている。


「えへへ…ちょっと頑張りすぎましたね…でも消えるのってもっと怖いと思ってたんですけど…こんなにも…こんなにも心が満たされてるなんて私は幸せ者だなぁ…」


「ほぅ…では私が現れるのはどうじゃ?不愉快か?」


そこへ現れたのは闇の衣を纏った抜けるように白い肌に光を反射しない闇のように深い黒の瞳と髪をもつ美しい女性、ハルディス・ナイトメア。


「いえ…いえ!とても嬉しいですよハルちゃん!でもどうして…いえ、どうやって」


「舐めるな、精神世界に干渉するのは今の私には容易いさ、例えそれが時間停止する程の世界でも何億分の1秒で反応して入り込むさ、友のためならな」


「ありがとう…ありがとうぅぅ」


「礼を言うのはこちらの方さ、疲れたじゃろう?ゆっくり休め、後は任せてくれればいい、特に矜持の力なら私が保証する」


ハルディスはルシファーを抱き寄せる、もう殆ど消えてしまっているその体を大切に、ルシファーもまたハルディスに抱きつく、その顔からは涙が姿を消し代わりに最高の笑顔があった。


「私幸せすぎてもう死んでもいいわ…ありがとうハルディス…」


最後に笑顔で語りかけて完全に消えたルシファーを見届けてハルディスは軽く笑う。


「本当に死んでいくやつがあるか…」


その瞳には少し涙が溜まっていた。





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