五君子戦6
紫陽花は困っていた、自身の視覚を共有する事で効果的に幻覚を使うつもりであったのだ。
それが石英のマグマに飲まれてメンバーの大半がやられた為に崩壊した、作戦を全て吹き飛ばす理不尽なまでな力に嫌気がさす、それでも自分にできる最善を尽くすしかない。
まず注視しなければならないのはジンのところ、矜持がいるからではなく単純に一番厳しい。逆に矜持の言っていた通り1対1を貫けばレントは勝てる、雲母とリキュール対エリアスと杏はエリアスの力が不明なため様子見、矜持に合図代わりに厳格で自分の姿を見せると唾を飲むような動作で頷いたため決行。
間違いなくジンは強い、視覚に異常が出ている事がわかれば視覚に頼らない戦い方を選択する可能性がある、故にバレないように、しかし効果的である用途、距離感を狂わせるだけに留める
最高のタイミングで最高の精度を出すために全体を捉えながらその全てを正しく把握する事に全神経を集中させた。
「ルイス!攻撃に集中してくれ!」
変に防御姿勢を入れると先ほどの合図から遠近感を狂わされているジンの相手は逆にやり辛いかもしれないと思い矜持はルイスに攻撃に専念するように頼んだ。
「なら俺に攻撃を一撃も届けさせるなよ!」
「それは無理!」
大分打ち解けたため、あの無茶振りもそれを目指せという事でできなかったらどうこうというものでは無いと知っているため矜持は笑みを浮かべながら返事をする。
ルイスの先天魔法『広域化』は魔力の量で大きく効果を変える、それを完全に掌握する為の訓練をしっかり積んできたのだ、ジンの足元で矜持のワイヤーが、剣の間合いの外からルイスの剣戟がジンへと襲いかかる…しかし
「小細工なんぞに負けてやらんぞぉお!」
雄叫びと共にルイスへと肉薄するジン、前に進む動きは当然後ろに進む動きよりも俊敏であり…距離を詰められる、ルイスへとワイヤーを巻きつけ後退させ事なきを得るがやはり地力の差が辛い、それでもこちらはノーダメージで相手には確実にダメージを与えている、悪い展開ではない、はずだった…
マグマの波が襲いかかってくる…矜持がワイヤーに繋いだままだったルイスを再度引き上げながら空を駆ける。
「ありゃ、君もそれできたのか」
レントから攻撃を受けたのかぎこちない足取りで歩く石英が残念そうに声を出す、その声はそれでも悲壮感などどこにもない。
「士道流『空歩』、俺の技ですよこれは」
「自分に向けて打った魔力弾を足場にする…いやそれはおまけか、加速の為に自分に向けて攻撃するなんて失敗したらダメージ食らうのによくやるよ」
そう、原理は簡単で魔力弾を自分に向かって撃ち足場にするだけの事だ、しかし習得までに力加減を間違えれば怪我は免れない、普通であれば
ヒュンと風切り音が鳴り次の瞬間には石英の横に移動したジンとレントの剣が甲高い音を響かせてジンが僅かに後ろに下がる、レントの方はストックされた斬撃を受けたのかその顔を痛みに歪ませる。
「すまん矜持!合流させちまった!」
「仕方ない!相手だって不利な状況を放置するはずがない!」
寧ろここまでずっとマグマを気にせず戦えたことがレントの頑張りを証明している。
「いや、正直舐めてたよ、僕とジンが揃ったここからが本当の勝負だ」
石英の宣言の重みは矜持にはよくわかる、自分とクオリアもまた前衛後衛で二人揃ったならば無敵の自信を持っている、彼らも同様であるということだ。
「エリアス達は相打ちか…相手はあと2人、こっちは4人なのに不利に感じるな」
矜持の言う通りに誰もが感じている、それほどまでに気勢に差があるのは単純な人数差以前に撃破数の差が大きい、勝つというビジョンが無ければ戦う事などできはしない、となれば希望をチラつかせるのは誰の役目か
「まあ不利に感じるだけだ、もう一度引き剥がせばいいんだしな…レント、頼むぞ」
冷静に状況を判断した上で勝ち目はあると宣言する、希望的観測ではなくやってのけるといってのけるように揚々とそんな事を口にする。
「ふむ…技術は大したものだが力のない奴がよく言ったな」
当然ジンからすればお笑い草だろうだが彼らはさっきから4人と言っているのに、大事な金羽の1人を思考から外しすぎた
「その技術にあなたたちは…負ける」
その宣言と共にレントをワイヤーで遠くへ飛ばす
「何を…」
していると疑問の声をあげかけた声をジンは飲み込む、隣にいたはずの石英が消えたから
どのタイミングでかけられたのかどんな風にかけられたのか、それを理解できなかった。先程までたしかに聴こえていた石英の言葉は本人のものだったはずなのだ、何が起きたのかわからないで動きを止める者が多い中、矜持に頼まれた事をやる、
その一点のみで動いたレントによって石英が…貫かれた。