ブラック戦闘員の日常
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登録番号401番矢沢雅司35歳。独身は、1週間前に【悪の秘密結社S】本部で簡単な採用試験を受けて無事登録を済ませてブラック戦闘員として働くことになった。
「おはようございます! イー!!」
「おはようございます! イー!!」
この…ブラック戦闘員ならではの掛け声にもようやく馴れてきた雅司は、ここが悪の組織だということに対する罪悪感も…段々と薄れて今では、以前よりも充実した生活を送っていた。
「今日は、決められた班ごとに各自…指示されている区内の見廻り警備をして頂きます。戦闘員初心者は、班の責任者の側を絶対に離れないように! ヒーローたちは、いつどこから我々を襲ってくるかわかりませんからね! 呉々も注意を怠らないようにすること!!」
「「「イー!!」」」
朝のミーティングを済ませて行き先の決まった雅司は、自分がF班ということを確認してその班の責任者である。戦闘員6番の後ろについて現場である台東区へと移動した。現場へ出るのはこの日が初めてだった雅司は、少しだけ緊張していた。
「緊張しなくて大丈夫ですよ。我々が行く台東区には、滅多にヒーローは現れないみたいですから、気楽に行きましょう!」
「あはは。すみません。現場に出るのが初めてなもので…」
雅司が緊張していることに後ろにいた古参の戦闘員58番が気付いたようで、優しく肩を叩いて雅司にリラックスするように助言して笑っていた。
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先輩戦闘員が言っていたように…台東区では、平穏な時間が流れていた。
「オレたち…これから何をしたら良いのでしょうか?」
「ああ、一応順をおって異常が無いかを調べる。そして、ヒーローたちを見なかったかを聞き込み、調査する」
「これだけ何も無さそうでも、色々やることあるんですね。良かったです!」
「そりゃそうだ。高い日給をもらってんだからな! それなりの仕事はしておかないと、この仕事を干されちまったら…飯が食えなくなっちまうだろ?」
すでにこの二人の会話から、ご想像頂けると思われますが…『東京』に住む人々は、どっぷりと【悪の秘密結社S】に依存し頼りきっている状況なのです。
F班は、無事に台東区一帯を夕方までかけて見廻り…特に異常が無いことを確認することが出来たので本部へ戻ることになった。終業時間まで少し時間があったので、控え室で同じ班にいた先輩戦闘員52番に缶コーヒーを手渡されて…妙なことを雅司は質問されていた。
「どうしても聞いておきたいんだけど…あのヒーローたちのこと…正直、お前はどう思ってるんだ?」
「それ、聞いちゃいます?(笑)」
「一応…気になるからな!(笑)」
先輩戦闘員にヒーローたちをどう思っているかと聞かれた雅司は、苦笑していた。
「ハッキリ言って、必要だけど必要じゃないですね。ヒーローたちが、いなくなると戦闘員としての仕事が無くなるので困るんだけど…あんまり張り切って出て来ないで欲しいです。あいつらやること過激すぎるでしょ? こないだもお台場が大変だったし…」
「やっぱ、そうだよな!(笑)なんだかんだ言っても…飯食わしてくれてんのは【悪の秘密結社S】の方で、ヒーローたちじゃねえからな!」
「あいつら陰で皆に空気の読めないヒーローって言われてるそうですよ!(笑)」
「そりゃ、ピッタリのネーミングだ!」
こうして、雅司は初めての現場仕事をゆる~い感じで終わらせて…今日も無事に何事もなく家路につくことが出来たのでした。