ユリナの望み
王都の転移陣のある建物にある、王族用の転移陣が目映い光を放つ。
数分後・・・・
光が収まると、そこには四人の男女が立っていた。ユリナ達だ。
ユリナ達は、直ぐに転移陣を出て部屋を出る。そして、王族用の通路(抜け道のようなもの)を通り外に出た。
時間は正午を過ぎて、温かくなった頃だった。その為、通りは暖かい内に買い物を済ませてしまおうと言う、平民達で大変混雑していた。
「うっわっ・・人多っ!!」
ユリナが人混みを見て、ウンザリした声を出していると、イグニスが城の方角を見ながら呟いた。
「さっさと城に行かないとな・・・・」
「俺 馬車を調達してくる!」
イグニスの返事も待たずに、グレルは走って馬車乗り場に急ぐ。すると直ぐに馬車を捕まえてきた。
四人はグレルが手配した馬車に乗り込み、城に向かって走り出す。
一時間程走ると、城の門が見えてきた。門まで来ると、門番兵士が馬車を止める。
「止まれ身分証・・・殿下!!失礼しましたお通りください!」
門番は、初め町の辻馬車(基本的に平民達しか乗らない)が、城に近づくのを警戒して止めたのだが・・・
ヒョコリと、窓から顔を出したイグニスに驚きながら、慌てて道を開けた。
辻馬車で、城に帰って来る王子なんて普通は居ないから当然の反応だ。
・・・可哀想に・・・
城に入ると、門番から連絡を受けた宰相が凄い勢いで走って来た。かなりの老体なのに結構早い。
「イグニス王太子!ご無事で何よりでございます!直ぐに謁見の間にお越しください!陛下が待っておいでです」
宰相は、息切れすらせずに言い切った・・凄い・・
イグニスは、宰相に対する驚きを隠し(前。老体扱いしたら三時間は説教された)
宰相に頷いた。
「分かった。直ぐに行く」
イグニス達は急いで。しかし、王族らしく堂々とした足取りで、謁見の間に向かって歩きだした。その数分後。
謁見の間に到着すると、イグニス達に気づいた衛兵が中に向かって叫んだ。
「イグニス殿下が到着しました!」
衛兵が叫ぶ。すると返事もなしに、ゴゴゴゴゴと大きな音をたてて扉が開いた。
「お入りください!」
衛兵に促されイグニス達が謁見の間に入ると、既にマグダリア王が玉座に座っていた。
全員中に入ったのを見たマグダリア王は、厳かな口調で口を開く。
「良くやってくれた」
王がホッとしたような顔で、イグニス達を見下ろす。すると、王のとなりに座っていた王妃がにこやかに笑った。
「皆 無事のようで・・安心しましたわ」
にこやかに笑う母に、イグニスはニコリと笑う。
そしてすぐ横にいる文官に、教王の蝋印の押された親書(サヴァーの初めての親書だ)を渡す。
渡された文官は直ぐに、マグダリア王に親書を渡した。
「父上。ヘクセライの新たな教王からの親書です」
マグダリア王はイグニスの発言を聞きながら、渡された親書を読む。王は親書を読み終ると、側に控えていた文官に親書を渡して呟いた。
「・・・そうか・・・・」
王が、染々呟いたその時・・・・
王妃が何かを思い出したように、イグニスの後ろにいるイデアに向かって話しかけた。
「ところでイデア姫。貴方の姉の婚姻が決まったわ!!直ぐに式を挙げるらしいから、ゼルギュウムに直ぐに戻って!
あとイグニスも一緒に行ってちょうだい!それと、イデア姫との結婚の日取りも、さっさと決めてきなさいな」
早く孫が見たい!とイグニスにせっつく王妃を放置して、イデアは目を丸くした。
姉が・・エカテリーナ様が結婚!?
「早くありませんか?!
エカテ様は、婚約者すら居なかった筈です!!」
エリザベス王妃が、娘をシュエと結婚させるために縁談を全て断っていた。
だから、婚約者は居ない筈なのだ。
「お相手はパォティスの王カルクルス・セシル・パォティス様です。
結婚が早まったのは、婚約期間をすっ飛ばしたからですわ・・・・
カルクルス様が強行したようです。
ゼルギュウム王も、母が投獄された娘を、さっさと嫁がせてしまいたかったらしいから・・・・・
あり得ないくらい早くなったようですよ」
王妃はハアーとため息を吐く。
うちの息子と、イデアの婚姻は渋った癖に・・王妃は苦々しげに、心の中で毒づいた・・・・・
「大丈夫かしら・・・・」
イデアはかなり心配だった。
もしや、父が娘を早く片付けるために、愛のない婚姻を迫ったのではないかと・・・・・
イデアが心配していると、シュエが淡々と・・なんの感情もない声でイデアに話しかける。
「大丈夫ですよ・・カルクルス様は、エカテリーナ様を愛していますから」
「え!?」
イデアは目を丸くしてシュエを見る・・今・・・何て言った・・・・・
「昔から、カルクルス様には、嫌と言うほど嫌がらせを受けましたから・・・・
全く・・・そんなに好きなら、さっさとモノにすれば良いものを・・・」
シュエは、初めこそ淡々とした口調であったが、段々と忌々しげな顔になる。
それはそうだろう・・・・
エカテリーナに、散々ひどい目に合わされ、しかもカルクルスにまで嫌がらせを受けていたとなれば、腹が立って当然だ。
「・・シュエ」
「大変だったんだな」
イデアとグレルが哀れんだ目で見ていると、イグニスが何かを思い出したように、マグダリア王に話しかけた。
「そう言えば・・父上!国宝はどうすればいい?」
突然話題が変わり、いきなり息子に国宝について聞かれたマグダリア王は、む~と考え込んだ。
「ん~。各国の使者を呼びつけるのもな・・・・・」
マグダリアが各国の国宝を借りられたのは、ミンスが各国に話をし続けたからだ。
ミンスが居ない今。使者を呼び出すのは難しい。
マグダリア王が唸っていると、ユリナはが遠慮勝ちに小さく手をあげた。
「陛下・・あの・・発言良いですか?」
ビクビクしながら手をあげるユリナ。
その姿を見て、中々慣れないなと苦笑いしながら、マグダリア王はユリナに話しかけた。
「聞こう」
「ゼルギュウム王陛下の許可が出たらですが・・・・・私が各国に届けても宜しいですか?」
ユリナの言葉に、イデアが目を見開いた。
「ユリナ?!」
イデアがユリナに叫ぶと、ユリナは申し訳なさそうに目を伏せる。
「イデア様・・・私・・・元々世界を旅して見たかったんです・・イデア様とは離・・・」
「私も行く!」
ユリナが言い聞い終わる前に、イデアが叫ぶ。
ユリナに離れたくないと駆け寄るイデアに、イグニスが悲鳴のように叫んだ。
「イデア!」
「イグニス様・・結婚遅くなるけど・・・」
イデアはユリナに抱きつきながら(シュエはイデアがユリナの唯一の友人なので、かなり妬ましいが抱きつくのを許している。もし他の人間なら無理矢理引き剥がすのだが)申し訳なさそうにイグニスを見た。
イグニスは、イデアをユリナから引き剥がし(イグニスもシュエと同様に、恋人が他の人間に抱きついたことに嫉妬したらしい)抱き締めると力一杯叫んだ。
「嫌だ!結婚してからで良いじゃないか!父上!
ゼルギュウムの王女より、マグダリア王太子妃の方が国宝を返却するには良いでしょう!」
イグニスはイデアに言った後。
ガバッとイデアを抱き締めたまま、父であるマグダリア王に振り向き叫ぶ。
マグダリア王は、若干鬼気迫る息子にビビりながら口を開いた。
「いや・・良いのだが・・ゼルギュウム王次第だな・・・・・
念のためにお前の婚姻の儀式の準備と、ゼルギュウム王宮に我が王宮との間に、直通の簡易的な転移陣を設置してくれるように頼んでおこう」
簡易的な転移陣は、戦時中の駐屯地に設置される様なもので数ヶ月しか使えない・・使い捨ての転移陣だ。
長期的な転移陣を、他国に設置するのは問題だが簡易的なら問題はない・・・・・筈だ。
そんな中。話を聞いていたシュエが、ユリナの横に侍りながらマグダリア王に向かって微笑む。
「私はイデア様の護衛ですので、もちろん着いていきましょう」
シュエが言う。すると、それに続くようにグレルがシュエとは反対側のユリナに侍り、口を開いた。
「俺も!俺はイグニス様の護衛だから着いていきますよ!」
イグニスは婚期が遅れる恐怖の中。イグニスは苛立たしげに、シュエとグレルに叫ぶ。
「貴様ら!お前らはイデアと俺の護衛だから行くんじゃなくて、ユリナの側にいたいだけだろ!!」
マグダリア王はギャイギャイ叫ぶ三人を、ため息混じりに見ながら疲れたように呟いた。
「・・まあそう言う事だから・・行きなさい」
マグダリア王が、五人に退室の許可を出す。
それを聞いたイデアとユリナが、喧嘩をしている各々の恋人を引き剥がして、マグダリア王に頭を下げる。
「失礼しました」
五人が退室すると、ゴゴゴゴゴと音をたてて扉が閉まった。
許可は得た。次はゼルギュウムだ。ユリナは、クックックと不気味な笑い声をあげながら廊下を歩く。
イグニスは、余りの不気味さに背筋か寒くなった。そして、普通にユリナに笑いかけるイデア達を見て思う・・・・・
ユリナは、どうしてこんなに好かれるのか・・・・・
イグニスは、不思議でたまらなかった・・・・・
ユリナの望みでした!
これで念願の世界一周旅行に一歩近づきます!




