サヴァー 承認される
体育館程の広さがある広い謁見の間。
そこで返り血で、血塗れになっている衣装を纏ったサヴァーが、つい先程まで虚無の腹の中に収まっていた(ユリナは、謁見の間につくと、虚無達が飲み込んだモノを吐き出させた)反乱を起こした平民と兵士の前に立ち、厳かに語り始める。
「私はサヴァー。サヴァー・ディオス。
三公爵家の一つ。ディオス公爵家の元当主。この反乱は私が起こした。
私の祖先は・・・奴隷解放を成した教王だったが、教王パープスト・ヴィルシェンとカロル伯爵の祖先の反逆により、私の先祖は殺され、奴隷制度は復活してしまった。
虚無を操るカインは、ヴィルシェン家とカロル家に殺された。奴隷解放を成した教王と、神族と人間の両方を守ろうとした異界の娘の息子なのだ。
彼が扱う虚無。あれは敵を倒す為ではなく、敵味方関係なく癒す為に作られた。
それに、カインは貴殿方を傷つけるためではなく、教王の出方を見るために襲ったと、町を襲われた少年が言っていた。
私は、人間蔑視の社会を変えたい。
完全に無くすには、時間がかかるが、私は反乱の責任を取るためにも、教王になる。
異論がある者は・・今申し出てくれ」
サヴァーが、虚無の粘液で汚れた平民や兵士達を一人一人ゆっくり見る。
すると・・・・
兵士の一人が、思い詰めたようにおずおずと口を開く。
「・・私は実は、奴隷の友人がいます」
彼は魔獣の殲滅作戦の時。共に戦った戦闘奴隷と友人になっていた。
平民兵士の彼は、貴族である騎士に使い捨てのように使われ、何度も死にかけた。
そのたびに、彼に助けられ助けて・・・・としているうちに、友人関係になっていた。
しかし。奴隷と堂々と仲良くすれば、どんな嫌がらせを受けるか分からない。
自分だけならば構わないが、家族も巻き添えになる危険があるのだ。
だから彼は、その友人とこっそり友人関係を続けていた。
彼が言い終わるのを待って、他の兵士がおずおずと手を上げて口を開いた。
「私は南部の者です。人間の大陸に恋人が・・・・・」
大陸南部は、今も人間の大陸と盛んに貿易をしている。貿易の為に、人間の大陸に行く神族も少なくない。
彼は元々船乗りで、人間の大陸に行った時に、現地の酒場で知り合った女性と深い仲になっていた。
人間の大陸で、兵士が彼女との生活を初めて数ヶ月程のたった所で、故郷から連絡が来て徴兵されたのだ。
だから彼は、人間を奴隷と言い切るカロル伯爵や教王が大嫌いだった。なので、ディオス公爵につくと心に決めた。
しかし、虚無に食べられたショックから立ち直った平民達は、ディオス公爵を責めるように睨みながら叫ぶ。
「今の教王は俺達を見捨てた」
「あんたは何をしてくれるって言うんだよ!」
サヴァーは、次々に喚く平民を真摯に見つめる。
そして、語りかける様に平民達に話始めた。
「全ての町を修繕する。町の破壊の程度により税金も免除する。集めた兵士達も故郷に帰そう」
サヴァーは一度、言葉を切り平民達の反応を見る。
すると平民達は、食い入る様にサヴァーを見ていた・・・話を聞いてくれている・・・サヴァーは再び口を開いた。
「税金も、収入の半分から3分の1にし、懲役もするが原則一年間とする。そして、前教王と考えを同じにする貴族は一族纏めて粛清する。
平民の文官登用も、数十年はかかるかもしれないが・・・必ず実現させて見せる」
「オオオオオ!!」
サヴァーの言葉に、平民達は歓声を上げた。
平民達も、奴隷制度には反対だったらしい。
しかし平民の一人が、あ!と声を上げた。
・・・すっかり忘れていたけど・・・
「そういや・・・カインは?」
「そうだ!カインはどうするんだよ!」
平民達から次々に上がる声。それを聞いたサヴァーは、自信満々に平民達に笑いながら、シュエの背後にある腕を引っ張った。
「説得する!この異界の魂を持つ娘がな!」
ユリナはいきなりシュエの背後と言う安全地帯から、兵士や平民達の前に引っ張り出されて、呻きながら目を見開いた。
「ひぇっ!」
ユリナは、涙目で腕を掴むサヴァーを助けを求める様に見上げた。
だが、そんなユリナを無視して、サヴァーはグイッと兵士や平民達の前に押し出す。
サヴァーは後ろを振り向かない。
凄まじい殺気を二人分・・いや三人分感じるが、絶対振り向いてはいけない気がする。
「彼女は、歴史で悪女とされたカインの母。
レイン・・・ミリの生まれ変わりだ。必ずや説得出来るだろう!」
サヴァーが、自信満々に笑い兵士と平民達に言う。すると、平民の一人がイデアを指差した。
「巫女は、あの方では無いのですか?ひっ!」
イデアを指差した平民は、イデアの凄まじい殺気に気づき、悲鳴をあげてあとづさる。殺気は、サヴァーに向けられたモノだが・・・・それでも生きた心地がしない。
ユリナの保護者達とイデアに、殺されそうな位 睨まれているサヴァーは、内心泣きそうになりながら、兵士と平民達に説明を続けた。
・・・・・若干早口で・・・・・
「確かに巫女はイデア王女だが、それは祖先のを投獄された教王が、ミリに悪意を抱いていたからだ。
ミリの生まれ代わりである。ユリナを害するために、自らが処刑した混血の娘を、操り騙し目障りな異界の娘の生まれ変わりであるユリナを、害するように仕向け、全ての神族にイデア王女の巫女の力を、ユリナが奪ったと嘘をついた。
神族達に自主的にユリナを殺させる為であり、前世の彼女に害された先祖の仇を討つためでもある。実際、ユリナは力を奪ってはいない。
神に聞いているから、間違いはない。
しかも悪女とされるミリだが、彼女は多くの神族を救った。
虚無は・・・殺し合いを嫌う彼女が編み出した、癒しの巨獣なのだ」
サヴァーの言葉を、聞いていた兵士と平民達は、尊敬の眼差しをユリナに向けた。
・・・英雄を見るような目を向ける。
あの時のミリ・・ユリナは、ただ自分が手を下すのが嫌なだけだった。
そんな目をされるほどの、高潔な考えはユリナは持っていない・・・
恥ずかしくなったユリナは、サヴァーの手を渾身の力で、振りほどきシュエの後ろへ逃げた。
サイドはイデアとグレルが固めてくれているが、シュエを含めて凄まじい殺気を出しているので、ユリナは逆に怖かった・・・・・
三人は、ユリナを無理矢理前にだしたサヴァーに怒りを感じているらしい。
サヴァーの話を聞き終え、兵士と平民達は安心したような顔で、次々に笑いながら立ち上がった。
「・・・そうだったんだ」
「俺達は、町を復興できれば良い」
「旦那が帰ってくるならいいよ!!」
立ち上がった兵士と平民達は、サヴァーを見て両手を振り上げる。
そして、彼等は彼女等は声を揃えた。
「「「「「「「ディオス公爵陛下!万歳!!」」」」」」」
「「「「「「ディオス教王陛下万歳!!」」」」」
今まで、苦労をしてきた兵士や平民達は、安心したような笑顔でサヴァーを称え天に拳を突き上げた・・・・
サヴァーの演説終了です!
次は保護者二人とイデアちゃんにサヴァーが睨まれながら・・・・・




