不評だよ!虚無君!
気持ち悪がる男達を無視して、ユリナは虚無を掌に乗せる。
嬉しそうに虚無の頭を撫でながら、ユリナは虚無に話しかけた。
「作る手間省けたよ!ヨシヨシ良い子だ・・・・良く生きてたね・・・」
ヨシヨシとユリナが撫でると、虚無は嬉しそうに鳴き声を上げた。
「ムームー」
「何か・・鳴き声も気持ち悪いな」
嫌そうに顔を歪めるイグニス。因みにほかの三人は、ユリナの為に頑張って馴れた。
・・・ユリナ第一主義者達め!!
ユリナは・・・・イグニスが執拗に虚無を嫌がるので不満顔で虚無を隅々まで見る・・・・
「何で、そんなに不評なのかな?色?」
首をかしげたユリナを見て、イグニスは少し恥ずかしそうに、モゴモゴと口を開いた。
「いや・・・その粘液が」
イグニスは、実はナメクジやカタツムリ等が苦手だったりする。
ウニウニ 具合が、そっくりで気持ち悪いのだ。彼は勇気を出してユリナに言ったのだが・・・
「あっ!虚無君!体が安定してない!」
聞いてない・・・・・
イグニスはガックリした。そんなイグニスの肩を、イデアが慰めるように叩く・・ユリナなのだからしょうがない。
そして、イグニスを放置したユリナは、棚をいじくり回し何かを探している。
「ええっと・・・あっ!有った!」
ユリナは、目当ての瓶を見つけ出し瓶の蓋を開ける。
そして虚無にかける・・・
すると・・虚無の体の粘液が消え、体が爬虫類のような鱗で覆われたモノに変わる。
ナメクジアザラシから蛇・・いや、ツチノコ見たいな見た目に変わった。
どうだ!と男達を見れば、何故か呆れ顔でユリナを見ている。
・・・・何故だ!!
「・・マシにはなったが・・・」
「可愛らしく兎とか・・何か無かったのか?」
これも不評。しかしイデアには好評だった。つくづく彼女とは気が合う。
「え?あの つぶらな瞳可愛いでしょ?」
「・・・・・」
イデアは、同意を求めるようにイグニスを見る・・だがイグニスは無言だ。
「・・女は理解出来ないもんだ諦めろ」
そして、サヴァーは無言を貫くイグニスの肩を軽く叩いた。
イグニスは少し涙目だった。実は爬虫類も苦手なのだ・・ナメクジよりはマシだが・・・
そんな、涙ぐましいやり取りをする男達を、ユリナはキッパリ無視して、虚無を机に乗せる。
サヴァーを見て虚無を指差した。
「私は少し此所に籠るよ。虚無君を少し調べないと」
ユリナは虚無を撫でながら、不意に笑いを引っ込める。そして、真剣な顔で皆を見渡した。
「カインの虚無君が、私の虚無君の分裂体か、そうでないかを調べたいんだけど」
「分裂体だと何か不味いのか?」
サヴァーがユリナに聞くと、ユリナは深く頷いた。
「うん。本体にしか命令出来ないからね。
カイン連れている子が本体なら、この子もカインに従ってしまう」
ユリナの言葉に、表情をさっと変えたグレルが慌てた様に叫ぶ。
「不味いじゃないか!」
ユリナは重々しく頷いた。
「うん。不味い。だからちょっと調べる。だから此処に暫く籠るよ。
教王への誤魔化しは宜しくね」
「分かった」
サヴァーが頷くと、ユリナは椅子に座る。長時間かかる様だ。
「私も手伝う」
「俺も!」
シュエとグレルが、ユリナに近付こうとした。その時・・・
二人は、イグニスに首根っこを捕まれた。
「お前らが居ないと、絶対怪しまれるだろう!」
「しかし・・」
怒鳴るイグニスに、尚もシュエがいい募る。
「シュエが部屋に戻れば良い!俺は残る」
確かに・・・・・
何かと動き回るグレルより、ユリナにピタリと張り付くシュエがいれば、問題は無さそうだが・・・・
イグニスが、そんな事を考えているとは知らないシュエが、グレルに怒鳴る。
「何だと!お前が残れ」
自分は側に居られないのに、何でグレルだけ!
そのままギャーギャーと、喧嘩を始めた二人にユリナは怠そうに声をかけた。
「ちょっ喧嘩しないでよ」
ハーとため息をついたユリナは、真っ直ぐシュエとグレルを見る。
二人はピタリと喧嘩を止めて、ユリナを見た。
・・・本当に奴等はユリナ一筋だ・・・・
ユリナは、二人が黙ったところで口を開く。
「シュエ。グレル。部屋に戻って誤魔化して、ユリナは寝てる。とでも言えば誤魔化せる。
二人が、ベッドの脇に控えていたら完璧に騙せるよ・・・私の言う事聞いてくれないの?」
ユリナが、コテンと首を傾げれば渋々ながら頷いた。
「ユリナが言うなら・・」
「分かった・・・」
「・・・こいつら」
イグニスは呆れ顔で呟き、サヴァーはビックリしながら二人を見た。
ユリナは凄いな・・・・
イデアは、パンと手を叩いて楽しげな笑顔を浮かべてから口を開いた。
「決まりだね。頑張ってユリナ。ご飯の時間には呼びにくるね」
「それまでには終るよ」
ユリナは笑いながら、バイバイと手を振った。
「そう。じゃあね」
イデアはそう言うと、研究室を出ていった。
数時間後。
夕暮れの、真っ赤な太陽を眺めながらイデア。イグニス。シュエ。グレル。それからサヴァーが地下室に向かう。
研究室に入ると、数時間前にいた位置から一歩も動いていないユリナがいた。
イデアが、ユリナに声をかけようとした時・・いきなりユリナが、大きな声を出した。
「んーそうか!」
「分かった?」
イデアがユリナの肩に手を置く。
ユリナは、イデアに肩に手を置かれて、初めてイデア達の存在に気づいた。随分集中していた様だ。
「イデア!?うん・・この子は本体だったよ。
分裂した形跡もない。カインの虚無君は別の個体みたいだね」
ユリナは笑顔で皆に結果を告げる。この虚無は、カインの虚無の分体では無いらしい。良かった・・・だか・・・
グレルは、虚無の横に置いていた瓶を指差して、ユリナに聞いた。怪しい紫色だ。
「なあ・・その液体は?」
ユリナはああ。と瓶を持ち上げチャプンと振る。
実は今・・魔術調合していたりする。魔術調合とは、液体や固体の入った瓶を触る。そして、魔力を大量に流しつつ頭の中に効果をイメージ。すると、あら不思議!!イメージ道理の品物が出来上がると言ったモノだ。
魔力の高い者だけが出来る。反則的な薬製造法だった。
「ああ・・少し時間が余ったから作った。此が気化性睡眠薬。気化性弛緩薬。後は・・・」
次々に怪しい瓶を皆に見せるユリナ。
グレルは聞いたのを少し後悔した。聞いてるだけで恐ろしい。
「いや・・・もういい」
顔を青くするグレルとは対処的に、シュエは興味津々に見ている。
彼は薬の調合をしないので珍しいらしい。
「役立ちそうな物だな」
「でしょ?」
楽しげにシュエに笑いかけるユリナに、イグニスが顔色を悪くしながら口を開いた。若干涙目だ。
「さっさと此処を出よう。気持ち悪い」
「ん?分かったよ」
ユリナは又、虚無を気持ち悪がられたと思いムッとしたが、なにも言わずに虚無を瓶に戻し立ち上がった。
ユリナは気づかなかったが、実は日が暮れ暗くなった事で、実験室がライトアップされ、昼間。薄暗く見えなかった材料。爬虫類やら動物やらの骨やミイラがゴッソリ見えていたのだ。
イグニスは、見たくないモノを大量に見てしまい。精神的にボロボロだった・・・
ユリナ達は実験室をしっかり施錠してから、地下室を歩く。勿論 阻害魔術は発動済だ。
そしてサヴァーは、歩きながらユリナ達に真剣な声で告げた。
「決行は明日の早朝だ。十分寝て置いてくれ」
「分かった」
「心図もりをしておく」
「とうとうか」
「了解」
ユリナは明るく頷き、シュエは重々しく頷く。イグニスは長かったと遠くを見る目をして、グレルは一言。問題は・・・・・
「私は?部屋にいればいいの?」
イデアが部屋に居ないと騒がれるかもしれない・・・
イデアがサヴァーに聞くと、サヴァーは首を振った。
「いや。逆上した奴が何をするか分からない。夜の内に、イグニス殿の部屋に移動して置いてくれ」
「分かったわ」
話が終ると、ユリナはニヤリと笑い親指を立てる。
「誰も死んじゃ駄目だよ」
ユリナ以外の全員も、ニヤリと笑い親指を立てた。
「「「「「了解」」」」」
虚無君は男達に不評でした・・・・・
ちょっとだけ・・・・ナメクジよりのアザラシなのに・・・・・
次はいよいよ反乱開始です!




