虚無君は!生物兵器じゃありません!
「私。虚無作れるよ」
室内に沈黙が流れる・・今・・何て言った?
ユリナは呆ける者達に、楽しそうに笑いながら自分を親指で指差した。
・・・かなり自慢げだ。
「だって虚無作ったのは、前世の私だから」
サヴァーは目を丸くして、声すらでない・・だって・・虚無を作ったのは・・・・・
「カインは、前世の私のメモを見たんだろうな。教えた事 無いしね。私はね、カインのお母さんなんだよ。まあ私の前世がなんだけど」
「・・・レインなのか?」
サヴァーは、幼い頃に読でいた。史実について記された歴史書を思い出していた。
その歴史書の中には、異界の娘が出てくる。
史実では教王をたぶらかし、国を傾けた悪女と言う事にされているが、ディオス公爵家では違っていた。争いを毛嫌いする小心者の少女。
彼女が、その少女の生まれ変わりだと言う・・・
サヴァーはじっくりユリナを見た。
すると・・話を聞いていたイデアが、あれ?と首をかしげた。
「え?ユリナは、柳田美里でしょ?」
そう。ユリナの前世は柳田美里であり、レインではない。
ユリナは、ニヤリと笑いながら楽しそうにイデアに言った。
「偽名だよ!ゲームで良く使うやつ」
ユリナは楽しげに、イデアに話した。
いつも一人でやるタイプの、ロールプレイングゲームばかりしていたから、何となく、人に偽名を呼ばれればウキウキする。
ゲームの、主人公になったような気がするからだ。
「へー私はいつもユウコだなー」
「ああ・・大体みんな自分の名前つけるよね」
イデアは余り考えず、自分の名前を入力するタイプらしい・・・
「そうそう!すごい子は英語の・・・」
話が弾み、段々ユリナの声が大きくなる。
ヒートアップしそうなユリナを、イグニスがイデアから引き剥がした。
「脱線しすぎだ」
イグニスは叫びながらイデアの前に立ち、ユリナからイデアを完全に離す。
そうでもしないと、二人は止まらない。腹立たしい程仲が良いからだ。
「そうだ!ユリナの前世のレイン・・いやミリの旦那は、サヴァーの先祖なんだよな?その・・似てるのか?ユリナの前世の旦那に・・・」
グレルは、チラチラとサヴァーを見ながら、ユリナに聞いてきた。
ユリナは・・ん~と考えながらサヴァーをじっと見る。
・・そうだな・・・・
「カインよりサヴァーの方が似てるね。
私の・・ミリの血が、混じってないから良かったんじゃないかな」
サヴァーは、北欧寄りの顔をしている。
だがカインは、ミリの血が混じっているからか、東洋人ハーフみたいな顔をしていた。
いや、神族と人間のハーフだったよ・・・
グレルは、サヴァーがユリナの前世の旦那に似ていると聞いて、グレルは悲しそうな顔をしながら、ユリナを見つめた。
「・・と言う事は好みなのか?」
は?ユリナは間抜けな顔をしながらグレルを見る。何言ってんだこいつ・・・
「・・・好み?綺麗な顔ならそれだけで好みだけど・・ああ!赤い目は好みじゃないから、心配しなくていいよ」
ユリナは考えながら、グレルに話していたのだが、顔が綺麗なら!と言った所でイグニスが嫌そうに顔を歪めた。
それを見たユリナは、慌ててイグニスは好みではないと訂正する。そもそも自分から、王太子なんて面倒な相手に近づかない。
ユリナがイデアを見ると、イデアは可笑しそうに笑っていた。
・・彼女は気にしてないみたいだ。良かった。友達無くしたくはない。
「心配してないわよ。
それにユリナって、自分から口説くなんて面倒な事はしないもんね」
イデアは、ユリナの性格をよく理解している。
その通りだ・・それに・・・
「イグニス様が、私を口説く事もあり得ないよ。
本当に・・フェンリルって一人を愛するとしつこいんだから・・・・」
ユリナは、ハーとため息をつきながら呟いた。しょうがないなと言いたげに。
そんなユリナの言葉に、イグニスはピクリと反応する。
「フェンリル?俺は人間だぞ?」
イグニスは人間だ。
マクダリア王家の先祖を遡っても、フェンリルなんていない。
首をかしげるイグニスに、ユリナはああ・そうだったと、イグニスを見て説明を始めた。
「イグニス様の前世だよ。因みに・・・前世でも、イグニス様とイデアは夫婦だったんだよ。イグニス様の一目惚れ。
イグニス様はフェンリルの族長だったのに、弟に立場を押し付けてイデアと結ばれたんだよね・・・」
ユリナが、フフフと笑いながらイデアとイグニスに教えている。
すると、今まで黙っていたシュエが重々しく、ジットリとした目でユリナに聞いてきた。
・・・何か・・・怖い
「この中に、前世の夫がいるだろう?誰だ」
感が良い彼は、気付いたようだ。ユリナの前世の関係者が、全員ユリナの近くに居ることに・・
「・・・・」
「・・・・」
シュエだけで無く、グレルも無言でユリナを見る。
数秒。二人の重い視線に耐えきれなくなったユリナは、グレルを指差した。
グレルは答えを予想してパアアアと、嬉しそうな顔をする。
「・・グレルが前世の旦那だよ・・シュエはその部下」
「やったああああ!」
「くっ」
勝利の雄叫びを上げるグレル。
そんな彼を、少し・・ほんの少し鬱陶しく感じたユリナは、シュエに優しく笑いかけなが口を開いた。
「シュエの前世は、スレイプはずっと私を庇い守り大切にしてくれたよ・・・グレルの前世、リームと喧嘩した時も一晩中慰めてくれたし、最後に言われたんだよ・・・・次は自分を選べって」
フフフと笑うユリナに、シュエが抱きついた・・凄く嬉しそうだ。
「良くやった!前世の私」
「俺は!俺の前世は?!」
前世の自分を誉め称えるシュエを放置して、グレルはユリナに叫ぶ。
必死の形相だ・・・怖い・・・・
「・・五月蝿いくらい毎日毎日私に愛してるって・・まあ・・今と変わらない」
「・・・そうか・・・」
ユリナに変わらないと言われて、グレルはガックリする。
何か可哀想だ・・何も言ってはやらないがな・・・
「そんな事より!虚無を作れるってどう言う事だよ」
話が一向に進まない事に、苛立ったサヴァーが叫ぶ。
ユリナは忘れてた!とサヴァーに振り向き虚無にていて、詳しい説明を始めた。
「虚無は私。ミリが作ったんだよ。作り方なんて覚えちゃいないけど、虚無を作った時の部屋荷は、まだ材料と資料。作り方を書いたものがあるはずなんだ。
その部屋には、私しか入れない。登録した魔力と、合言葉がないと入れないからね。
多分。ミリが死んでから、誰も入れて居ないはずだから、材料と資料が手付かずのままで、あるはずだよ」
「前世のお前は、物騒な奴だったんだな・・そんな生物兵器を作るなんて」
ユリナの話を、大人しく聞いていたイグニスが、危険物を見るような目でユリナを見た。恐ろしい奴だ。
「と言うか・・・良く作れたわね」
イデアは寧ろ、魔術が無い世界で産まれたのに、虚無なんて凄い奴を作ったユリナを凄いと感じたイデアは、尊敬の眼差をユリナに向ける。
「魔道書を片っ端から読んだからね・・・・・材料も豊富にくれたし」
イデアに誉められて、ユリナはフフフフと自慢げに笑う。
そんなユリナを見ながら、幼馴染みであり愛人2号のグレルが、ヤレヤレと首を振った。
「ユリナ。好きなことは、けっこう凝るよな」
料理を・・凝った物を作ると、最終的に魔女鍋状態になるのが常だ。
凝ったからと言って、良いものが出来るとはか限らないのだ・・・
「当たり前だよ!と言うか虚無は、物騒な生物兵器じゃない!」
ユリナが叫ぶと、イグニスが訝しげにユリナを見た。
「どういう事だ?サヴァーやミンスの話では、人を食べると聞いたが」
「うん食べるよ!」
頷くユリナを見ながら、イグニスは頬をひきつらせる。
・・うんって・食人は物騒だろ!!
「人間を食べて、食べた人間の傷を癒すんだよ。
だから・・食べられても、死ぬどころか大怪我も完治する」
え?訳がわからない・・イグニスは呆れ顔で、ユリナを見ながらため息をついた。
「・・何故・・・食べる仕様にしたんだ?もっと・・・何か、良いやり方は無かったのか?」
パクパク人を食べて、人を癒す巨獣・・・
食べられる奴は、例え傷が癒えても精神的な病にかかりそうだ・・
「だって・・・敵を殺したく無かったんだよ。
敵を無傷で捕まえられて、味方の治療もできる一石二鳥だと思う!」
叫ぶユリナの言葉を聞きながら、イグニスは首をかしげた・・・・・
「一石二鳥?」
「一つの事柄で、二つの特をする事だよ」
一石二鳥について説明を受けて、イグニスは理解したと言わんばかりに頷く。
そしてユリナは、話は終わりだと言わんばかりにソファーから立ち上がった。
タッタッとドアノブまで行くと、ユリナはドアノブに手をかけて振り向き、楽しげに笑う。
「じゃあ。行こうか」
部屋を出たあと、ユリナ達は皆でゾロゾロ地下室に向かった。
地下室は今。牢屋として使われていて、その奥一番古い牢屋の一つの部屋の奥に、ユリナは進む。
ユリナは記憶ではなく、自分の魔力を探って要るので、長い時間で変容した地下室もスイスイ進む。
そして一つ拷問室の前で止まった。
「此処だ」
ユリナは拷問室の中に入ると、拷問器具を取り付けている壁を指差した。
「退けて!これ」
ユリナに言われて、グレルとシュエは拷問を外し壁板を外す。
するとそこに、扉が現れた。部屋が使えないので壁板で塞いでいたらしい。
ユリナは現になった扉に手をおき、触る。そして合言葉を叫んだ。
「開け!ごま!!」
ズルズルズル・・大きな音をたてて扉が開く。
「変な合言葉だな」
「これなら誰も入れない」
ユリナは、合言葉を酷評されたが気にしない。そんなに、合言葉に愛着はないからだ。
そんな事より大問題が・・・・・
「うわっ・・埃っぽい!舞え(微風)集まれ(収風)よし」
ユリナが呪文を唱えると、微風が部屋中を舞う。
数秒間。魔術の風が部屋の隅々まで舞い、埃を空中に巻き上げる。そして風が集まり一ヶ所に埃が積もった。
ユリナは迷う事無く、机の引き出しを開けて、袋を取りだし埃を魔術でいれる。
「魔術で掃除する奴・・始めて見た・・」
「ユリナはズボラなのよ」
魔術は大体戦闘に使われる。今ユリナがした魔術は、結構・・大量に魔力を使う。
普通は、そんな勿体無い使い方はしない。皆にユリナは、生暖かい目を向けられた。
だが・・・そんな視線を全く気にせず、部屋をアサリ始めた。
ガサゴソガサゴソ・・あっ!ユリナは瓶を一つ見つけて歓喜の叫びを上げる。
「あっ!虚無君自体が残ってる!」
ユリナは、瓶を皆に見えるように掲げる。
「まじか!」
「まて!数千年も此所にいたのだ・・・・死んでるかも知れない」
グレルは驚き、シュエは冷静に不安要素をつげる。
ユリナも不安になった。ユリナは瓶を傾け中身を床に垂らす。
灰色の液体はべちゃと床に落ち、ウネウネと動く。
一ヶ所に固まるとモコッと起き上がる。
「ムームー」
アザラシ状のスライムが、ウネウネ動く。
ユリナは、虚無が無事な事が嬉くて笑いながら叫ぶ。
「生きてた!!」
「アザラシ?!」
イデアがムームー言う生物をツンツンつつく。
女二人が可愛いね!ときゃいきゃい騒いでいると、男達が同時に叫んだ。
「「「「気持ち悪い!!」」」」
嫌そうに叫ぶ男達を、ユリナとイデアは不思議そうに眺めた・・・・・
虚無君は兵器扱いでした・・・・・
可哀想です・・・・・
次は虚無くん再登場!です




