サヴァーの覚悟
白い月が、真上に輝いている真夜中。
三日間。こっそりと続けられたシュエの、厳しい・・厳しい訓練を終え。
一回り逞しくなったキリクが、裏門にいた。
ユリナ、サヴァー、イグニス。シュエとグレルもいる。
勿論。サヴァーは警備兵に気付かれないように、阻害魔法をかけているから見つかる心配はない。
「じゃあな・・行ってくる!」
キリクは、警備兵に気付かれないように、こっそりと小さく皆に手を振った。
「おう!気を付けてな!」
グレルが、キリクの頭をぐりぐりなで回す・・・数分して、ようやく解放された時には、キリクの頭はグシャグシャだった。
ユリナは、グシャグシャになったキリクの髪の毛を手櫛で調えよし!と笑う。
そして、キリクの肩をポンポン叩きニカッと笑った。
「頑張ってきてね」
肩を叩かれたキリクを見て、シュエはウムと頷き重々しく言う。
「お前の実力なら、もう心配はない」
最後にサヴァーが、冗談混じりに笑ながらキリクの背中をポンと叩いく。小さく油断だけはするなよと笑って。
キリクは、彼等らしい見送りに笑いながらも、任せろと言わんばかりに笑う。
「うん!皆もな!」
それだけ言うと、キリクは城の外壁に張り付き、器用に壁をよじ登る。
少なくとも、五メートルはある壁を。である。
シュエの厳しい訓練の成果だ。何か・・兵士と言うより、密偵みたいになった気もするが、まあ・・いいか・・
そんな・・・猿みたいなキリクを見送った後。六人は、秘密利に王宮に戻り廊下を歩く。
そして・・・・誰にもバレないようにある部屋に入った。
数日前、サヴァーがキリクを連れ込んだ部屋だ。此処ならば、二重三重に魔術を施しているので、誰にも話を聞かれる心配はない。
部屋に入ると、すっかりサヴァーに馴れた(地道に・・いっそ哀れに思えるほど優しく、優しく語りかけ続け、やっと・・・やっと警戒を溶いてくれた)ユリナが、真っ直ぐサヴァーの目をみて聞いてくる。
「んで?作戦は?」
サヴァーはユリナに聞かれて、真剣な顔で皆を見渡し口を開いた。
「キリクが噂を流す。民衆が暴れる。平民の鎮圧に兵が出払った所で、イデア達が奴隷を解放する。
そして、俺達と一緒に教王を討つ」
サヴァーの言葉にイグニスは驚く。
「殺すのか?」
サヴァーは貴族。平民ならば殺すしか選択しないだろうが、貴族は王族を敬う・・彼ならば、投獄することを選択すると思っていたが・・・
そんなイグニスを、サヴァーは残酷な笑みを浮かべて見る。
決意の籠った目だ・・・・・
「殺す。生かしたから、俺の祖先は殺された」
そう・・彼は・・・投獄など甘い事をしたから殺された。
彼とて貴族。簒奪等したくはない。
しかし・・・神族とディオス公爵家の未来のために・・
苦々しい顔をするサヴァーに、ユリナは近づき頭をよしよしと撫でた。
サヴァーだけでなく、イグニスとイデアもユリナの突然の行動に目を丸くしている。
シュエとグレルだけは、サヴァーを羨ましげに・・少し殺意を込めて見つめていた。
「王が死ぬのは仕方がない。サヴァーの責任じゃない・・・
王が美味しいもの食べて、綺麗な服を着る。それを平民が容認するのは、王族貴族が国を良くする責任を、果たしてくれると平民が考えているからだ・・
平民が税金を払うのは、守って貰うためだ。
一人でできない事をして貰うため。でも教王は、平民を見棄てた。
義務を怠ったんだよ。殺されて当然だ。
サヴァーは・・辛い?止めたい?どうする?」
サヴァーは、小さく首を振った。
「やる。今さら止められない。この為に・・何十年も準備をしてきたんだ」
ユリナはサヴァーを撫でるのをやめ、部屋の奥にあるソファーに座る(立つのは疲れたらしい)
ソファーに座ったユリナは、コイコイとサヴァーを手招きした。
手招きされたサヴァーは、急いでソファーに近づき、喜んでユリナの横に座る。
不満顔のシュエ達を他所に、ユリナはサヴァーの頭をナデナデしながら、子供に言い聞かせるような・・・優しくも暖かい声音で語りかけた。
「そうか・・止めないのか・・なら・・・殺すんだね・・
始めに死ぬのは、暴動を起こした平民かな?次は平民兵士、下級貴族、上位貴族より、彼等の死人の方が大量に出るだろうね・・・・
それに大量の奴隷が死に、大量の孤児がでるだろうな・・この国は大混乱になるだろうね・・・」
サヴァーは、ユリナの言葉に胸を痛めた。自分のせいで、家族を喪う者が出る・・・
愛する者を無くし、職を無くし、家を無くし、不幸を生み出す事を、ユリナに頭を撫でられながら改めて理解させられた。
苦しそうな顔をするサヴァー。
そんな彼を見て、イグニスはユリナを睨む・・
彼は王族なので、サヴァーの苦しみは痛いほど分かる。全てを救う等。不可能だ。何かを成すためには・・誰かが犠牲にならなけれはならない。
そしてそれは、どうしても弱い立場の者達が犠牲になってしまう。
どうしようもない事実・・・
そんな、痛い場所をグリグリ抉るユリナに、イグニスは軽く殺意が芽生えた・・・
・・まあ・・怖い二人に睨まれているから行動には出ないが・・・
「・・・それでも・・俺はやる。教王を討ち、祖先が成せなかった偉業・・・奴隷を解放を・・どれ程犠牲を払おうとも・・・必ずや成功させて見せる!」
決意を込めて、サヴァーはユリナに宣言した。
今まで悩まなかった訳ではない、散々悩み苦しんだ・・
しかし、あの教王に国を任せておけば、この国は滅びる。
協力者も出来た。今しかないのだ。
「そうか・・うん・・・・」
ユリナは、グシグシとサヴァーの頭を撫でながら、ニヤリと笑った。
「よし!偉い!良く言った!私が取って置きの情報をサヴァーにあげよう」
ユリナは、サヴァーの耳にコソリと呟いた。
「え!?」
ユリナは驚愕で固まるサヴァーと、固まるサヴァーに、驚く者達にニヤリと笑い口を開いた。
「私。虚無作れるよ」
ユリナの衝撃の一言に、一同は固まった。
・・・・ユリナお前は何者だ!?
サヴァーの覚悟でした。
次は虚無を・・・・・




