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転生しても私は私  作者: 柳銀竜
前世の過去 編
62/174

狂喜

 

 金色に光る魔法陣の中。


 そこでユリナは、じっとカインの後ろ姿を見つめていた。


・・涙がにじむ・・・


「カイン・・可哀想だね・・目の前で・・・・・」


 ユリナは、なんと言えば良いのか分からず言葉を切った・・・


 目の前で・・


 あんなに無惨に、父親を殺されて・・・・・

 生まれたときから、可愛がってくれた人が自害して・・


 大好きな・大好きな母親を刺されて・・・

 何時も・・優しく接してくれたお姉さんが死んでしまった。


 助けを求めて、母親の親友の元にいけば、母の親友は瀕死の重症を受けていて・・・


 精神年齢・・・十二歳の子供が経験するにはキツすぎる話だ・・・


 ・・日本なら、確実に精神病棟に入院することになるだろう・・


 ユリナは、今にも泣きそうな位沈んだ顔をする。


 ・・・・・そんな彼女を見かねた老人が、魔法陣に手をついて、ユリナを見上げた。


「早送りするか?」


 老人がユリナに聞くと、ユリナはコクりと頷いた。



 また・グルリと場面か変わる・・・・・


 此処は・・あの洞窟アジトのようだ・・・しかし・・・


「たっ助け・・・」


「ヒッ・・・・・」


「グハッ!!」


「・・・死ね。皆残らず・・・・・」


 辺り一面血の海で、ユウコが死んだ時の光景を連想させる・・・


 死体がゴロゴロ転がっている中で、一人の若者が、血塗れの剣を手に立っていた。

 カインだ・・・見た目。二十歳位に成長した彼がいる。


 彼は混血と言えど神族だ。


 なので、十年に一度のペースで成長する。

 二十歳位と言う事は、あれから六十年位 たっていると言う事だ。


 優しく・・少し甘えん坊だった彼が・・・

 今は、狂喜に満ちた目をしながら、死体の一つを蹴りつける。


 回りで死んでいるのは、全て神族だ。


 彼等は、研究者のような白衣に身を包んでいる。

既に(白衣)とは呼べない、血の衣みたいな代物になってはいるが・・・


 カインは、また一人。死体を蹴ってどかした。

 彼はゆっくり歩きながら、目の前にある。人一人入れる様な、筒状の装置のに近づく。


 それは、透明なガラスのような筒の中に、液体と管が入っている代物だった。


 その管に・・繋がれた女性が一人・・・・・

 それは、死んだはずのミリだった。


 カインは、ミリの入った筒に触れて・・愛しそうに語りかける・・・楽しそうな・・悲しそうな・・そんな・・狂った顔で・・・


「母さん・・皆死んだよ・・奴隷狩の神族達に殺されたんだ。裏切り者がいて・・・・居場所がバレたんだ・・・」


 フフフ・・アハハハハと狂信者のような狂った笑いが、洞窟内に響く。


 裏切り者は・・元貴族の男性だった。


 人間の女性と駆け落ちして、村に来たのだが・・・

 村の暮らしに不満が有ったらしい。


 貴族として、贅沢な生活をしていた彼には、質素な生活は苦痛だった。


 そんな時。教王の部下、奴隷を調達する部隊が彼に、こちら側に寝返れば貴族の地位を与えてやると唆したらしい。


妻と子も、特別に皇都に住まわせてやると・・しかし教王は、彼から情報を引き出してすぐに彼を殺した。


 教王は、約束など守る気は欠片も無かったのだ。奴隷以外の人間を、皇都に入れてくれるわけがない。


 あんな奴を信用した・・彼の自業自得だ。

しかし、そのせいで不意をつかれた村人は皆殺しにされて村は滅んだ。


 男は皆殺しにされ、女は拐われた。


 カインだけが、獣を狩に出かけていたので助かったのだ。


 カインが村に戻った時。全ては終わった後だった。


 時の流れで、薄れていた憎しみが甦る・・・

 カインは、あの惨劇を忘れたわけではない・・・


 成人して、一人前になったカインは、ヘクセライにいる、奴隷制度を良く思わない神族の平民達を集め、教王を玉座から引き下ろすための、話し合いを計画した。

神族の平民達を集め終わり、作戦を考えようと、話し合いの場を設けた所だった・・・・

 話し合いの後に、宴会でもして結束を深めよう。


 そうカインが思い立ち、狩に出かけたのだ。


 カイン以外も狩に出かけたのだが、彼等はカインより早く村に戻ってしまって

・・・・・殺された・・・・


 カインは大物を狙ったため、帰りが夕方になってしまったのだ。


 巨大な鹿を引きづり、村に戻ったら・・村は火の海だった。

そこら辺に、死体がゴロゴロ転がっている。

平民達も、皆殺しにされていた。


 女の遺体はない。男達は戦闘奴隷の子孫・・神族達は恐れたのだろう。


 逆に男尊女卑が激しい神族達は、女など御するのは簡単だと拐った様だ。

皆。容姿の整った女達はだったから、高く売れると思ったのかもしれない・・・

(まずは話し合いをして、妥協点を探しなさい。自分の正義を人に押し付けてはいけない・・・

 人によって・・・立場によって正義は変わる・・・

 皆・・自分の正義を信じてそれ以外を悪と見なすのよ。

 だから。十分話し合い、妥協出来る所だけは妥協しなさい。

 人は死んだら終わり。

 いきなり、力でねじ伏せ殺してしまうと・・どんなに正論を口にしても、遺族達には遺恨が残る。貴方は施政者になるのだから、肝に命じておきなさい。)


 昔・・母がそう言っていた。だから話し合いをするために、殺害とは別の形で復讐するために・・・


 準備を進めていたのに、全て・・失ってしまった。


 正義って何だろうか?


教王の正義は何だろうか?


 彼の正義で、救われる者は居るだろうか?


 生まれで・・・種族で・・・全てが変わる世界。


 不満を言えば殺される。


 行いを諌めれば殺される。


 従わなければ殺される。


 教王より魔力が高ければ疎まれる。


 彼の正義は何だ?


 自分を・・崇める者が人を殺せば無罪とし、自分を・・・崇めない者には罪を着せた。


 神族の平民達の話では、収入の三分の二が税金らしい。

その上。男達を兵隊として連れていかれ、平民は困窮していた。


貴族のみが笑う世界・・・


 そして、人間の大陸に侵略を開始した教王は、恐ろしい事を人間達に宣言する・・


 人間の大陸は、奴隷の大陸だと・・・


 貴様らは人種は、神にもっとも近い神族に、管理されなけれなければならないと・・


そして・・侵略を開始した・・


 勿論。人族は反発した。既に幾つもの国ができていたのだが、今のところ。一番近くにあるマグダリアに、撃退されて進行出来ていない。


・・・一人二人を浚うのは可能だが、軍となると、マグダリアの空襲部隊。


鳥獣騎士団と、竜騎士団が空を飛び回り直ぐに発見され撃退される。


 広い海に、教王好みの金ぴか船はかなり目立つ・・・


 神族は、何十年も大敗していた。


そこでようやく教王は、方針を変える。

彼は、恐ろしい研究を始めた。


しかも・・・・・


「酷いよね・・ここはユウコ様が・・奴隷になった人間達の為に作った洞窟アジトだったのに・・・

 今は実験室だ。ねぇ母さん・・母さんはね、神族を滅ぼそうとしたモンスターらしいよ?史実には、母さんの作った治療モンスターが書かれてた。

 母さんが、多くの神族を助けた史実は抹消されている。

 母さんは教王であった父さんを、たぶらかした悪女らしいよ。

 モンスターで町を破壊した。なんて話も流れてる・・・

 神族は、母さんに救われたのに・・・・・

 母さんがいなければ、逆に神族が奴隷になったかもしれないのに・・・」


 カインは、筒に愛しそうに抱きつく。そして、狂喜を宿した目が光った・・・


「知ってる?国の魔法陣。魔石がいらなくなったんだよ?王宮が、魔力を供給してるんだって・・

 戦争のための研究の、副産物らしいいよ?あと、町に奴隷がいなくなったよ。でもね・・拐われる奴隷の数はあまり変わらないらしくて・・・

奴隷商人達は忙しらしいよ。まさか・・・・こんな・・・魔石代わりにするとは思わなかったけどね!」


 カインは、ミリが眠る筒形の装置から離れ、回りを見せるように両手を広げた。

 回りには、同じように人間と液体の入った装置がある。


 十や二十ではない・・少なくとも百はある・・


 装置は全て、管で繋がっていてその管は洞窟の外に繋がっていた。

カインは、ブチブチ管を引き千切りながら、ミリが眠る部屋を歩き回る。


回りながらカインは可笑しそうにアハハハハハと大きな声で笑った。


 そして、カインは突然。


 ピタリと笑うのを止めて、カインは、ミリが眠る装置に、小走りで走りより離れたくない。とでも言いたそうな顔で、装置を、優しく撫でる。


「封印されて、魔力を搾取されて・・・よくも母さんを・・・でも・・・安心して・・・

 複雑な魔法陣だけど・・いつか・・・・・いつか絶対・・・・

 解放してあげるから・・・待ってて・・・母さん・・・・・」


 カインは、血生臭い洞窟で幸せそうな苦しそうな顔で微笑んだ。



洞窟が制圧された翌日。


 ヘクセライ皇教王国では式典が催されていた。


 開戦式典だ。


 魔石の開発に成功した為。魔方陣を大量に使用する事が出来るようになった。


 教王はこれを、人間の大陸に既に密かに設置していたのだ。その数は数百にも及ぶ・・準備は整った。


 教王は楽しそうに笑う。見ていろ奴隷ども・・


 その時・・・・・


 ドガンドガン!!!


 けたたましい音が響き、幾つかの貴族席が攻撃された。


 破壊された貴族席からは、次々に神族達が逃げ出している。


「何事っなっ!誰だ!!」


 教王が、叫ぼうとしたその時。


 ジャキンと、喉元に剣が突き付けられる。

 カインだ・・・彼は低い声で、ありったけの憎悪を込めて教王を睨み付けた。


「・・・当ててみろ」


「貴様・・・どこの誰か知らないが私に・・ひっ!」


 カインは、剣を喉に食い込ませる・・・・・血が滲んだ


「カイン!!」


 神族達が逃げ惑う貴族席の中から、女性がカインめがけて走りよって来た。


・・ルリアラだ・・やはり彼女は生きていた様だ。

女性は、神族を含め一人も死体が無かった。

 彼女は、カインの側までくると彼に腕を差し出す。


「カイン!お願いこれを壊して!!」


「分かった」


 奴隷の腕輪。これは・・魔力の高い神族を隷属させるため、元教王が作り出した物だ。

もし、付けられた者が外そうとしたら力が抜け動けなくなる。


けして外す事はできない・・


 カインは剣を、教王の喉元に突き付けたまま、魔術で腕輪を溶かした。


「ありがとう・・・カイン」


 ルリアラは、カインにホッとしたように笑い、教王の近衛兵の剣を奪う。


 そして、自分を追いかけてきた男。


 カロル伯爵(教王が爵位を戻してやったらしい・・・・分家は全て粛清された)に剣を突き立てる。


「ル・・・リアラ・・・何で・・・」


 カロル伯爵は、横腹に剣を突き立てられて、地面に倒れ込んだ。


 ルリアラは、倒れ込んだカロル伯爵に覆い被さり、再び剣を振り上げる。


 彼は、余りの憎しみに顔を歪めていた。


「何でですって!!私の夫と、可愛い子供達を!あの子達を焼き殺した癖に!!私が憎まないなんて、本気で思ってるの?奴隷の腕輪までつけて!!」


 ルリアラは、今度は足に剣を突き立て引き抜く。

 そしてまた振り上げた。


「いっだっ!!それは・・君が混乱してるから・・君の目が覚めるまでは・・って・・・」


 いい募るカロル伯爵を、ルリアラは憎悪に満ちた目で睨み付ける。


「私は貴方が嫌いよ!!吐き気がする!!フェイに出会わなくても、貴方を愛する事は永遠にないわ!!」


 ルリアラは叫ぶ。


 そして・・思い切り剣を振り上げ、彼の心臓めがけて突き刺した。


 そしてルリアラは・・・・・


「ゴメンね・・カイン。フェイがいない世界で生きるのは辛いの・・・一人にしてゴメンね・・・カイン・・・・」


 ルリアラは、カロル伯爵を殺した剣で、自分の首を傷つけ・・・自害した・・・・・


「アハハハハハ!!死によったわ!!あの売女!馬鹿なおんギアアアアア・・・・・・・・」


 笑い出す教王の右腕を、カインが切り落とす。


 兵士達や貴族は、誰も教王の元には来ない。

 何故かと言うと、カインが作り出した虚無達が回りを囲っていたからだ。


・・・虚無の情報を改ざんしたせいで、虚無を恐れた者達は、誰も動けない・・・・


「黙れ・・・屑が・・・」


 カインは剣を振り上げる・・・


 カインは次に右足を切り落とす・・・


 次に左足を・・・・・


 次に左腕を切り落とす。


「いだいぃぃぃぃやめ゛でぐれぇぇぇぇ」


 カインは、無言で教王を見下ろし彼を放置した。


・・・教王が動かなくなるまで・・・・・



 数十分後。教王が完全に死んだことを確認すと、カインは息絶えたルリアラを優しく抱き抱えた。


 フェイと子供達の墓に、彼女を埋葬するために・・・・・


 カインは、教王が緊急用に設置していた魔方陣に手を置き、呪文を唱える。


「ロワン・サファル・フェイ」


 魔方陣が光だすと、カインは素早く虚無を瓶に詰める。


 カインの姿が無くなると、慌てて貴族達が教王の元に駆け寄った。だが、皆吐き気を押さえるように、口元を押さえる。


 兵士達ですら其なのだから、殆どの貴族が、教王の成れの果てを見るなり気絶した。


 教王が、次期教王候補を殺しまくったせいで、三公爵家には大した魔力が有るものが居なくなっていた。


 教王がしていた研究は、知っているものが皆殺しにあったらしく、誰一人として戻ってこない。


 何処で研究していたのか。分かっていることはあの化け物・・

カインが研究所に居ることと、前教王リームをたぶらかした悪魔を、その研究所に封印している事だけだ。


 魔力を安定して供給する為の人員も、どのように、魔力を供給していたか知る者達が居なくなり、ヘクセライ教王国は、かつて無いほどの魔力不足になっていた。

魔方陣が使えなくなり、流通が止まってしまい、貴族の力が衰えてしまった。

そして、貴族騎士達が徴兵兵士達を御しきれなくなる。


 初めは数名だった・・・徴兵兵士達が故郷の村に逃げ出したのだ。


 カインが再び来るかも知れない。


魔方陣が使えなくなった為。彼等を連れ戻しに行くと、何日もかかり、その間兵士が不足する事になる。


 貴族達はそれを恐れた。


 そのため、逃げ出した兵士を放置してしまったのだ。

咎められない事を知った、外の兵士達も逃げ出し、皇都に殆ど人が居なくなっていた。


 戦争どころでは無い。


 三公爵家は、治世を安定させるために死ぬもの狂いで働いた。

その為。治世が安定するまで、十年の月日を要してしまった。


それほど国は混乱したのだ。





 雪深い山の洞窟。かつて、反乱軍が使っていて、教王が研究所にしたその場所で、カインはずっと・・

母を・・仲間達を目覚めさせる研究を続ける。


 十年、二十年・・・長い月日が流れる人間の寿命は短い・・


 装置に眠る者達は、次々に寿命を終え死んでいった。


 誰も目覚めない・・・


話し相手がいない・・・


カインは寂しかった・・・


 だから彼は、ミリの髪の毛から二人の女の子を作った。


 クローンだ。


 一人目は直ぐに目覚めた。結構ドジで不器用だったが、数十年もすれば確りした女の子になった。


 今は、鼻歌を歌いながら夕食を作ってる。

 もう一人は、一向に目覚めない・・いつ目覚めるのだろうか・・


 カインは、彼女が眠る装置をそっと撫でながら、焦げ臭い台所に向かい歩きだす。


・・・彼女・・また焦がしたらしい・・・・・


 カインは、クスクス笑いながら台所に向かった・・・・・・


過去編は後二話です!

次はアイツが離れないのは・・です!

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