逃亡
過去編 後 三話です!!
カインは絶叫した!!
血塗れで動かないリーム・・カインは目の前の光景に呆然と座り込んだ。
なんで・・・こんなことに・・・・・
「父さん・・」
倒れている父に声をかけるが・・
ピクリとも動かない・・・
そんなリームの亡骸を、前教王は苛立たしげにゲシッとケリ蹴りつける。
そして彼は、血走った目でカインを見て剣を振り上げた。
「何て事を!何処までも私の邪魔を!死ね!!この混血が!!」
だが・・見えない壁に阻まれる。
バチッ!!と剣が弾かれ、前教王は尻餅をついた
「くっ!」
カインの回りには、膨大な密度を持った魔力が湯気のように漂っていた。
リームの与えた魔力は、すでに違和感なく、カインの魔力と溶け合っている。
他人なら、こんなに直ぐには溶け合わないが、親子だから直ぐにカインの魔力に馴染んだのだろう。
「くっ!凄まじい魔力だ!近づけない・・・・・」
前教王もカロル男爵も、私兵達も近づけないほどの、膨大な魔力を放つカイン・・
・・・今なら殺せる・・
アイツラを・・・
殺してやりたい・・・だが・・・
カインは。母の側にしゃがみこんだ。アリンナは死んでいるようだが、母はまだ息がある・・・・・
「ユウコ様なら!!」
カインは、治癒の適性がない珍しい神族だった。
どうしても、治癒術だけは使えなかった。
自分では治癒はできない・・
しかしユウコなら、治癒術が使える。復讐はいつでもできる・・・
・・今は母を・・・・・
カインは、胸に忍ばせていた魔法陣を地面に叩きつけ呪文を叫んぶ。
「ロワン・サファル・ユウコ!!」
呪文を唱えた瞬間。
二人の体は、目映い光に包まれ消えたていった。
その直後。
ゆっくりアリンナが立ち上がる。彼女はわざと呼吸を止めていのだ。死んだと思わせておけば、頭の良いあの子の事だから、ユウコに助けを求めるだろうと考えて。
この傷では助からない。どんなに・・・・・高度な治癒術を用いても無理だ。
それに・・血も流しすぎている。
アリンナが死ねば、ミリは死ぬ。しかし、大切な・・大切な私達の王子様を助けるためならば、主は許してくれるだろ。
だから私は・私のやるべき事をするだけだ。
アリンナは、死んでいるスレイプから剣を奪い取り、前教王に向かって振り上げた・・
「死ねぇぇぇぇ!」
転移陣の光が消え、向かうはユウコの住む洞窟。
其所は、穴を掘って作ったような壁に木の床。
反乱軍の時代とは違い、資金が豊富(緑茶が平民の間でヒットし、輸入貿易で儲けた)なので、火魔石で作った温水暖房を設置している。
だから、雪深い山中にも関わらすとても暖かい。
ユウコはこの洞窟をいたく気に入っていて、反乱軍の仲間がいる村に住まずに、此処に住んでいる(彼女はフェンリルと呼ばれる、神族と変わらない位長命な魔獣種の男性と結婚して、ミリと同じ契約をした)
フェンリルの旦那も、静かなこの場所を気に入っていた。
それに、月に一度。かつての仲間や子孫達と、宴会をしているので孤独と言う訳でもない。
そして転移した場所には、何時もと全く違う光景が広がっていた。
カインは、母を抱き締めながら絶句する・・な・に・・これ・・・
洞窟の中は血塗れだった・・・
壁も床も・・色んな物が散乱し、床に剣が刺さっている・・
隣の部屋では、剣を降り下ろす音に悲鳴・・・血が吹き出す音・・・
ここも・・襲われている!!
「カイン?・・無事だったのね・・・」
背後からいきなり声がして、カインは振り向く。
すると・・血塗れのユウコが、ズルズルと腕の力だけで這いずって来る。
・・足は潰れてしまっていて、ユウコの回りには、血の池ができていた。
「ユウコ?!何が!」
カインが母を抱きしめたまま、近くまで這いずってきたユウコを見る・・ダメだ・・助かりそうにない・・
「ゴホッ・・ハアハア・・時間がないから手短に言うわ・・ね・・カロル男爵が、元戦闘奴隷を操る魔法で・・・私達を襲ったの・・・いきなりだし・・仲間だったから・・・傷つける事が出来なかった・・」
ユウコは、血を吐きながらカインに何が起きたか説明した。
スレイプがかけられた、あの魔法か・・・でも・・
「スレイプは・・抗って」
ユウコはふっと笑う・・子供はこれだから・・・
まあ・・強いものしか近くに居ないから・・・仕方がないか・・
「スレイプは・・精神力が強かったからだと思う・・・私達の仲間も・・・何人かは抗ったけど・・・・・縛りが強くて・・・・自害がやっとだった・・・・・ガハッ」
ユウコは次の瞬間。大量に血を吐いた・・・
カインは母を優しく横に置き、ユウコの手を掴む・・冷たい・・・これでは・・・・・
「リーム・・と・スレイプは?」
ユウコは、途切れに聞いてくる。カインは、泣きそうな位顔を歪めた・・・口に出すのも・・・嫌なのだ・・・
「・・・死んだ」
ユウコは、微笑みながらカインを見る
・・・頭を撫でてやりたいが・・腕が上がらない。
そして、カインの向こう側に寝かされているミリを見た。
僅かに動いている・が・・・・・・
「ミリは・・・生きている・・・見たいね・・・・・
でも・・・私にはもう・・・・・治癒をするだけ・・・の体力が・・・ないの・・・・・ごめん・・なさい・・・」
ユウコは、カインを見ながら涙を流す・・助けられなくて御免なさい・・と。
その時。ミリの意識が戻り、彼女が目を開けた。
そして・・・
ゆっくりユウコを見ると、途切れ途切れに声を出す・・・・・
「・・・・ユ・・ウコ・・・・・お・願い・・・」
「母さん!!」
これ以上体力を使えば・・・死んでしまう・・・
カインは、必死で母を止めようとした・・・しかし・・・
ミリは必死で・・もうほとんど分からない位の・・・弱々しい声でユウコに願った。
「・・・カイ・・ン・・・・安・・全な・・・場所に・・・・・」
「母さん?母さん!母さん!ねぇ!母さん!」
ミリは事切れた・・・・
カインは必死に、母に呼び掛けるが反応はない・・
ユウコはカインを、残りの力を振り絞り突き飛ばした。
・・・・・魔法陣の中心へ・・・・・
「・・・カイン・・ごめんね・」
ユウコは魔法陣に手をつく。
カインは、いきなり突き飛ばされて・・・・状況が飲み込めない・・・・・
「えっ!!ユウ・・・・」
瞬間。カインの足元の魔法陣が光った・・・・・そして、ユウコは力の限り叫ぶ。
「ロワン・サファル・ルリアラ!!」
カインが光に包まれる。
光が収まると、部屋にカインの姿は無かった。
「生・・きて・・・ね・・・・ミ・・・リの・・・・・分も・・・」
そう言い残し・・ユウコは魔法陣の上にのし掛かる。
もう彼女には、魔法陣を消す力は残ってはいない。
魔法陣があれば、一瞬で何処にでも移動できる。
ユウコは、此処にいる兵だけでも足止めするために、自分の流した血を使い、魔法陣を塗り潰した。
・・親友の息子を守るために・・・
「カイン?どうした・・・血塗れじゃない!!」
カインは、ルリアラが村長を勤める村にいた。
そして、村の魔法陣の上で必死で叫ぶ
「・・・・・母さん!!母さん!!ロワン・サファル・ユウコ!!何で・・・・・何で!!」
洞窟の魔法陣は、既にユウコの魔力を持つ血によって消されている。
どうしたって発動しない・・・そんなことを知らないカインは、狂ったように叫び続けた。
突然!バシッと音がしてカインの頬に鈍い痛みが走る。
カインの乱れぶりに、見かねたルリアラがひっぱたいたのだ。
彼女は、持っていた籠を地面に置いて、カインの両肩を掴みながらしゃがむ。
そして・・・カインに目を合わせた。
「落ち着いて!何があったの!カイン!」
叩かれたことで、幾らか落ち着いたカインが、ルリアラに王宮の惨劇を告げる
・・・苦しそうに俯きながら・・
「・・・前教王とカロル男爵が、私兵でスレイプと父さんを殺した。
母さんは、刺されたけど・・重症だけど治療をすれば、なんとかなりそうだったんだ。だけど・・誰が敵だかわからない。だから、ユウコの所に連れて行ったんだ・・・・・そしたら」
カインは言葉を切った。
・・あの光景を思い出す・・多分・・ユウコも・・・
「洞窟が血塗れで、ユウコも重症をおっていた・・・
彼女は致命傷だったんだ。治療をする力がもうないと・・・俺に・・謝ってた・・・
そしたら・・・母さんの意識が戻って・・母さんが・・・俺を安全な所にって!!それで・・・ユウコが・・・・」
そこでカインは顔を歪めた。多分・・母は・・・・もう・・・
カインの話を聞いたルリアラは、顔色を変えて、カインの腕を力一杯引き上げる。そしてルリアラはカインを、無理矢理立たせると、カインをズルズル引きづり、ズカズカと転移陣のある部屋を出ていった。
そして、部屋を出ると力一杯叫ぶ!
「フェイ!!逃げるわよ!!大型船を用意して!!村人皆 乗れるやつよ!!」
近くの部屋から、ヒョコリと頭に一人、両腕に一人づつ片足に一人子供をへばりつかせて、赤子を抱き抱えたフェイが出てきた。
子守りの最中だったらしい・・・
「え?どうし・・・」
「説明は後!皆を呼んでから纏めてする!時間がない!!早くして!カイン!行くよ!」
フェイは、訳の分からないまま村人を集めに行った・・
集会場にしている広場には既に数人が来ている。
カインとルリアラは、その中心で立ち止まった。
まだ少し、時間がかかりそうだ。そう言えば・・・カインは、伝えなければならない事を思い出して、ルリアラの服の袖を引っ張っる。
「・・奴等には、戦闘奴隷を操る魔法がある。解除方法を知ってるか?」
元貴族・・・しかも実家が使っている魔道具だ。
何か知っているかもしれない・・
カインはルリアラに、すがるような目を向けた。
・・・心配らしい・・・
ルリアラは、ニカッと凶悪に笑いカインの頭を撫でる。
「知っているわ。使い方も・・・・あれは、ある程度遠くにいれば問題ないのよ。
奴隷が逃げるなんて、考えもしなかった貴族が作ったからね・・・・・」
村人が全員が揃ったと同時に、ルリアラは今回の簒奪について、村人達に説明した。
説明はザックリ簡潔に。時間が無いのだ。こうしている間にも・・前教王が私兵を連れて攻めてくるかもしれない。
「荷物は最低限の物にしなさい!!死にたくなければね!!」
「本当に・・攻めてくるのか!!」
「リーム様は?!」
「バカが、前教王を解放したんだよ!多分。あれが投獄されていた施設の、点検時期を狙ったんだと思う。あとリームは死んだよ・・ユウコも・・・スレイプも・・・ミリも生きては居ないだろうね」
ルリアラが説明すると、皆一目散に散っていく。
奴隷を経験した者は居ない。
だが、皆祖父や祖母に聞いて、どれだけひどい目に遭うか知っている。
なので・・・皆必死で走り数分で荷造りを終えた。
そして、ありったけの食糧と、僅かの金銭を船に積み船を出した。
陸が、豆粒くらいになった頃。
カインが、遠見魔術で陸を見てみた。
すると、見覚えのある服装の兵士が此方を悔しそうに見ている。
カロル男爵家の私兵達だった・・・男爵自身もいる。
「・・・くっ」
カインは、父が殺された時の光景を思い出した。
アイツが・・・アイツが・・・
沸々と怒りが沸き上がり、知らず知らずのうちに手すりを握りしめていた。手すりがミシリと音をたてる。
「カイン・・・今は逃げるんだよ・・・・・大人になって力を付けたら・・・・・復讐してやればいいんだ」
「うん・・・分かってる」
ルリアラは、グシャグシャとカインの頭を撫で回して苦笑した。
ただ殺すなら・・あいつらと同じだ。
・・・何としても・・地獄を見せてやる・・カインは復讐を誓った・・・
その頃。人間達の集落の港で、海を睨む男がいた。
カロル男爵だ・・遠目に見える船を見ながら、悔しそうに顔を歪める。
「くそッ!ルリアラ!!」
悔しがるカロル男爵の後ろにいた前教王が、慰めるように彼の肩を叩いた・・・・・心配ないと・・・
「どのみち・・・準備が整い次第。人間の大陸に進行する。
直ぐに会えるだろう」
カロル男爵の顔が、希望に満ちたものに変わる。
・・・・扱いやすい奴だと笑いながら・・・・
「はい。教王様」
「では・・裏切りもの達を粛清しよう」
私に逆らうものも・・・
私を裏切るものも皆殺し・・
ヘクセライの・・暗黒の時代が始まった・・・・・
逃亡でした・・・・・
カインの地獄はまだまだ続きます。
次は狂喜です!!・・・カインが壊れます・・・




