牢屋で・・・・・
「ごめん・・アリンナ」
薄暗い牢屋の中でミリは、殴られて気絶しているアリンナを、抱き締めながら呟いた・・
全ては自分だ。考えなしの行動が悪い・・
話せば分かってくれると・・勝手に考えてしまった。
そしてミリは、アリンナの頬に優しく触れる。
「癒しを・・駄目か・・・」
ミリは、牢屋に放り込まれた時に、付けられた首輪を見る。
それと同じものが、アリンナの首にも付いていた。
二人が、牢屋にぶち込まれてから数時間。
何度も何度も・・癒しの魔法を使ってみたが、全く発動しない。
多分・・この首輪が、魔法を妨害しているみたいだ。
そう言えば・・・
昨夜。話をした、あの捕虜の男性もつけていたな。
「癒しくらい・・させてくれないかな・・・」
暗闇で、ミリは呟いた・・・
誰に言った言葉でもない・・・
しかし、隣の独房から聞き覚えのある声がした・・・
「無理だろう?嬢ちゃん」
「あれ?捕虜の兄ちゃん?って事はここ昨夜の場所か・・・」
昨日。話をした捕虜の男性だった。
男性は、心配そうな声でミリに聞いてくる。
「ああ。ビックリだ・・何したんだよ」
ミリは、ため息を吐きそうな顔で声を出した。
・・低く唸るような・・落ち込んだ声だ。
「教王様に、人間の大陸攻めるのを止めてって言った・・結果がこれ」
ミリが言うと、隣の独房から呆れたような声で、捕虜男性がため息をついた。
捕虜男性は、ミリ達がいる方の壁に向かって話しかける。
・・・結構壁が薄いので、声がよく聞こえる・・・
「・・馬鹿正直だな・・・何て言ってた?」
「人間ごときが!!と大激怒してた。教王様にとっては、私も道具みたい・・・・」
・・暫く沈黙が流れた。
そして、さっきよりも更に呆れたような・・・
嬉しいような・・・
複雑な感情を込めて、男性がミリ達がいる方の壁に向かって話しかける。
「・・・秘密りに、どうにかしてくれと言う意味で言ったんだかな・・・・」
・・・そう・・
彼とて、いくらなんでも直談判等するとは考えても無かった。
ミリの虚無のお陰で助かったのは、人間達だけではない・・
神族の兵士達とて、重症を負った者もいたのだ。
そんな者達に、彼女は好意的に見られている筈だ・・・
そこから、戦争を止めるよう働きかけてほしいと彼は考えていたのだが。
自分は・・今、捕まっている自分は確実に首を晒す事になる。
でも・・・他の仲間が助かるならと、ミリに願い出た結果がこれだ・・・
「ごめん・・私は馬鹿なんだよ・・」
ミリは申し訳なさそうに、捕虜男性のいる方の壁に向かって、頭を下げた。
見えないから、下げなくても良いのだが、癖の様なモノなので仕方ない。
・・・日本人だから・・・・
すると壁の向こうで、頭を掻き毟るような音が暫く続く。
余りに続くので、ミリは彼の頭皮を心配した。
・・・禿げてしまう!若いのに・・・
心配したミリが、口を開きかけた・・・その時・・
「・・ああ・・命の恩人を、死なしちまうとはな・・・」
ミリが口を開くより早く、頭を毟るのをやめた男性が、吐き捨てるように言った。
・・・ミリは固まる・・死なせる?・・今・・死なせるって!!
「・・まさか・・本当に・・・」
「明日の朝。公開処刑らしい・・・
仲間の半分は、今朝。処刑された・・
今。お前達がいる牢屋は、今朝死んだ奴等がいた場所だ」
教王が言っていた事は、本気だったらしい・・
本気で、私を処刑するつもりの様だ。
「・・本当に処刑するんだ・・裁判も何もないんだね・・」
ミリは、日本を思い出す。
・・・日本では、どんな悪人にも裁判は開かれる。
裁判はたしか、三回受ける権利があった筈だ・・
確かに三審制度・・だったかな・・・・・
一審で地元で裁判をして、不服なら控訴。更に不服なら、上告する事ができる。
最後は、首都の最高裁判官に判決をしてもらう。
しかし。この国は、位の下の者には裁判もしない。
確か・・・・
アリンナに聞いた話だと、一方的に罪状を読み上げてから処刑らしい・・
酷いものだな・・
「まあ・・裁判が有るのは、御貴族様だけだろうな・・・」
裁判が、どうこう考えていたのが、口に出ていたらしい。
ミリは肩を竦めた・・嫌な世の中だ・・・
「身分社会ってやだね。私達の国は、身分無かったからな・・」
この世界に来てから、皆。身分身分と喧しい。
そして、メンドクサイ。
初め私は、やたらめったら頭を下げていた。
リームにスレイプ、貴族達に衛兵達、侍女や女官に下働きの女性にもだ。
そして、リームに怒られた。
私は貴族扱いなので侍女と衛兵、下働きに頭を下げるのは、駄目らしい。
ミリは、嫌な顔をしながらぼやくように呟いく。
それを聞いて捕虜男性が、可笑しそうに笑った。
何だよ・・・・・
「アハハ・・ユウコも言ってたな!しかし、平民が王なんかになって、政治なんかできるのか?」
捕虜男性は可笑しそうに笑うと、最後に疑問系で聞いてきた。
確かに・・・・
義務教育の、概念すらないこの国では不思議だろう。
此処って、読み書き出来なくても生活に困らないしな。
・・・でもな・・・
「平民は平民なんだけどね。大体名家とか、金持ちとかしかなれないかな。
選挙に金がかかるし・・勉強もある程度はタダだけど、もっと高度な勉強しようとしたら、親が死ぬほど稼がないと駄目だしね。奨学金とかもあるけど・・結局借金だし。貧乏なら、死ぬほど頭が良くないと駄目だね」
日本でも、完璧ではない。
政治は汚職もあるし・・・・
汚職を指摘した政治家が、後で又別の政治家に汚職を指摘しされて、政治世界から退場。
・・よくある事だ・・・
「・・ままならないな・・・」
捕虜男性はユウコの話から、なんて夢の様な世界だと思っていた。
・・しかし・・そうでもないらしい・・
ごく一部が、権力を独占するのはどんな世界も同じみたいだ。
まあ・・裁判があるだけ、日本の方が何倍もマシだがな。
「まあ・・・そうだね・・・・」
二人はしんみりしながら、暗い牢屋の天井を見た。
・・・本当・・・権力者は・・
その時。意識を失っていたアリンナが、ガバッとミリの膝から飛び起きた。
ガシッとミリの肩を掴むと、ミリの顔を除き混む。
腫れ上がった顔が、お化けのようで怖い・・
「レイン様!!お怪我は!」
「ないない。寧ろアリンナが怪我人だよ?」
そう・・ミリの傷は、投げ込まれたときにした擦り傷くらいのモノだ。
寧ろ、反抗したアリンナの方が重症だった。
実は彼女が気絶したあと、兵士は反抗され腹立たしかったのか、気絶した彼女の脇腹や足等を蹴り付けていた。
相当 痛む筈だ・・・
「申し訳ありません・・私が・・」
痛くて痛くて仕方ないハズなのに、ミリを労る。
そして、自分のせいだと顔を歪める。
・・・罪悪感が半端ない・・・
「ストップ!悪いのは、教王の性格を調べづに突っ込んだ私!」
「すっストップ?」
あっ!ストップは地球の言葉だった、
しかし、気になる所はそこかよ!
まあ・・誰が悪いとか言う話から、脱線したから良いか。
ミリは、自分の肩を掴んでるアリンナの手を引き剥がす。
アリンナは小さく「すみません」と謝ってきた。
余程力を入れていたのか、肩がジンジン痛い・・多分痣になってるかな・・・・・
「止めろって意味だよ。過ぎたことは仕方ない・・・
それより・・・鍵あけとかできる?」
ミリから見ると、アリンナはスーパーマン。
文武両道。礼儀作法は完璧、その上顔も性格も美人さん。
私と正反対だ・・・
だから、ミリは鍵あけくらい・・アリンナは申し訳なさそうに・・
あれ?アリンナ?
「・・申し訳ありません・・無理です・・・」
「・・ごめん」
目を伏せるアリンナ・・ミリは思わず謝る。
そのくらい、申し訳なさそうな顔だった。
「・・無茶言うなよ・・元諜報部の俺にも無理なのに」
壁の向こうで、溜め息混じりの声がした。
え?!まじか!
ミリは興奮の余りに、壁に突撃する。
ドン!!
隣にいた捕虜男性は、興奮ぎみに聞いてくる。
ミリに若干・・いや・・かなり引いた・・
「凄っ!格好いい!ねぇ!どんな事したのさ!教えて!」
「え?えーと・・貴族の邸に忍び込んだり・・」
捕虜男性は、ビビりながら大人しく答える。
何なんだ・・一体・・・
「それで!それで!」
ミリは、楽しそうに聞き募る。
その時・・・・・
ミリ達がいる方の牢屋の扉が、ガンガンガン!思いっきり蹴られた・・・・・
「うるさい!静にしろ!」
牢番の兵士に怒られた。余りに五月蝿かったらしい・・・
ガンガン扉を蹴る音が止まり、ガツガツと五月蝿い足音が去ると、ミリは小さな声で、隣の牢屋いる捕虜男性に苦笑いしながら話しかけた。
・・乱暴だよ・・・
「怒られたね」
「まあ・・話は終わりだ。逃げられない・・・」
捕虜男性が、移動する音がして暫くすると寝息が聞こえてくる。
寝つきが、恐ろしく良いようだ・・・
ミリは壁から、初めにいた位置に戻り胡座をかく。
そんなミリに、アリンナが言いにくそうに口を開いた。
「レイン様・・・リーム様達は来ましたか?」
「ううん・・来てない・・」
「そうですか・・・」
見捨てられた・・
二人は静かに目を伏せた・・・
その頃・・・
王宮にあるリームの執務室では、リームと数人の衛兵が睨み合っていた。
衛兵達は無作法にも、リームの執務室に乱入しら、彼に槍を向けている。
槍を向けている兵士の一人。上官らしき衛兵の一人が、怯えながら口を開く。
「リッリーム・ディオス・・はっ反逆罪で拘束しますじゃなくする!大人しくヒッ」
兵士は噛みまくり、最後は悲鳴が漏れついた。
何なんだ・・・そのビビりよう・・・
「何を怯える・・・良いだろう拘束されてやる」
リームがスッと椅子から立ち上がり、衛兵達の前で止まる。そして、両手を差し出した。
衛兵はその腕に、銀色の手錠の様なモノをガシャリとはめる。
「はいっ行きギャ」
衛兵が鎖を引っ張ろうとすると、ドロッと溶けた。
衛兵が悲鳴をあげる。幸い触る直前だったので火傷は免れた。
「ああ・・焼け落ちてしまったな・・・私の魔力では無理のようだ」
実はコッソリ、魔力を必要以上流していたのだ・・
そのせいで、魔力を吸収する仕様の手錠は、吸収しきれず溶けてしまった。
「リーム様・・・」
スレイプは、殺意に満ちた目を衛兵達に向けながらリームを呼んだ。
殺したいだろうが・・まだ我慢しろ・・
リームは、目線でスレイプを宥めてから、馬鹿にした様な半笑いで衛兵達を見る。
衛兵達はあとづさった・・ヒィィ!!
「仕方ない。何処に連行するのだ?」
上官衛兵がビビりなからも口を開く
・・半泣きだな・・・・・
「しっ処刑場です。速やかに処刑せよと教おヒッ」
ビビりながら、教王からの命令だからと、衛兵は必死に説明する。
すると、ニヤニヤしながらリームは衛兵を見た。
・・・悪魔のような笑みだ・・・・・
「・・・可笑しいなぁ?平民や奴隷ならともかく。三公爵家ディオス家の当主である私が、裁判を受ける事もなく死罪・・・
しかも反逆罪だ。陛下を斬り付けでもしない限り・・そんな事にはならないはずだか?」
リームは、衛兵達を上からしたまでじろじろ見る。
衛兵達は、その視線に絶えきれずヒッッッッと叫びをあげながら弁解をした。
リームの怒りが、増すばかりとは考えずに・・・
「ヒッわっ我々は、命令されただけです!」
「お前達・・宰相の親類だな?たしかリウム家・・・」
リームは、衛兵達の顔をジックリ確認する。
そしてリー ムは、横目でスレイプを見ながら短く鋭く命令した。
「制圧しろ」
「はいっ」
スレイプは直ぐに動く。最初に、リームの直ぐ近くにいた上官衛兵の槍を奪い、柄の部分で思いっきりつく。
そして上官衛兵は、痛みの余り床に倒れこんだ。
「グッ強い・・・」
上官衛兵が気絶すると、次に上官衛兵がやれた事で逆上した衛兵が、スレイプに槍を降り下ろす・・・・・その前にスレイプが、衛兵の足を払い足にグサッと槍を刺した。
「くそ!人間の分散で!いって!」
スレイプは、衛兵を刺してから槍を抜き、死角から突っ込んできた衛兵を、持っていた槍で凪ぎ払う。
そして、床に倒れた所でグサッと肩を差した。
「いでっ!!きっ貴様!!タダですむと思うなよ!」
スレイプが槍を手離し、少し後ろに下がる。
するとリームが、血を流して床に倒れ混む衛兵の前にしゃがみこむ。
リームの顔は楽しそうに笑っていた。
・・・怖い・・・・
「いや・・タダですむ。これから陛下には、退位を願い出るからな」
唖然とする衛兵達を、心底楽しそうにリームは見た。
やっと・・この日が来た・・
「何時までも、あんな老人に従ってはいられない。
自分勝手に国を引っ掻き回すなど・・奴隷とて初めは、売られてきた人間を保護したのが始まりだ。
・・それを拐うなど・・退位させる準備は出来ていた。
スレイプ!リフルとルルガに連絡しろ。明日!明朝決行だとな!これは私が始末・・」
リームはスクッと立ち上がり、腰に差した剣に手をかける。
・・・・・次の瞬間・・・・・
バシュバシュバシュ!!
目の前が真っ赤に染まった。
・・・床には首がコロコロと転がっている・・・・・素早い・・・・・
スレイプは遺体を見もせずに、剣を振って血を払い鞘に納めている・・・・・
犯人はやはりこいつか・・
スレイプは、何事もなかった様に平然としながらリームを振り向く。
「では意ってくる。何処で落ち合う?」
「屋敷の隠し部屋で」
「了解」
スレイプはそれだけ言うと、執務室を出ていった。
彼は今反り血で血塗れだ・・とても目立つ。
彼は囮になるために、先に部屋を出たようだった・・気が利く奴だ・・
リームが耳をすませると、廊下がとても騒がしくなっている・・・
剣がぶつかる音もしていた・・・・戦っているみたいだ。
リームは直ぐに、床に魔力で魔法陣を書く・・・転移陣だ・・・・
「さぁ・・・私も行くか」
パアアアと床が光リームは消えていった・・・
牢屋でのミリでした・・・・・・
次はリームさんが大活躍です!




