捕虜
薄暗い地下の廊下。
そこを・・二人の女性が、音をたてずに慎重に歩いていた。廊下を数分かけて歩き、一番奥に行く。
すると、一番奥に一際頑丈な扉があった。
頑丈で分厚い扉。軍人みたいな屈強な人間が暴れても、全く壊れなさそうな扉だった。
女性二人。ミリとアリンナは、扉の前に来るとそこで止まる。
そして、ミリの前を歩いていたアリンナがポケットから、鍵を取り出した。
ガチャ・・ギィィィィ・・
扉が開くと、二人は中に入る。
中に入ると、奥に人の気配があった。
「誰だ!」
牢屋の奥の暗闇から、若い男声の声がする。
「ちょっと話 良いですか?」
ミリが恐る恐る近づくと、ジャリジャリと鎖の音がした。
二人が、音のする方を見ると、暗闇から疲れきった顔の人族の男性顔が出てくる。
顔を出した彼の方頬は、赤黒く腫れ上がっていた。
戦場での傷は、虚無に食べられたことで、擦り傷一つも残さず治っているはずだ。
だから・・顔の傷は捕虜になったあと、暴行を受けたらしい。
若い男は、ズルズルと鎖を引きづり、牢屋の真ん中で胡座をかく。
壁から延びている鎖の長さは、真ん中まで来るのが限界だ。
男は、胡座をかいてドスッと座ると、ミリとアリンナに、バカにしたような目を向ける。
「此処から・・出してくれるならな」
無理だろ?二ッと挑発するように笑う男性を見て、ミリはヴッと言葉に詰まる。
捕虜を牢屋から出してしまうと、手引きをしてくれたリームが、罰されてしまう。
「うっそれは・・」
ミリはどう言おうかと、あたふたする。
男性は、そんな彼女を可笑しそうに、微かに微笑みながら見てきた。
男性は、興味本意でミリをジッと見つめる・・
そして彼は、何かに気付きハッとして、ミリに聞いてきた。
「・・・お前は・・その黒髪・・・
ここに魔族がいるわけない・・まさか・・噂に聞く人間か?ユウコと同じ?」
ミリは、こくんと頷いて男に笑いかけた。
やはり、異世界人がいるらしい・・・
ミリは、男性の前まであるきボフッと床に座った。
その横にアリンナも座る。
「異世界人は、ユウコさんて言うんですね・・・と言うかそれ言っていいの?」
「あの、虚無のボスなら良いさ・・・
お前は、俺らを傷つけなかっただろ?俺は覚えている・・
虚無・・・だったかな・・あれに食われた奴に、致命傷を受けてる奴がいたんだよ。
あれに食われて、一命を取り止める処か完治してたんだ。
お陰で、死なずにすんだ奴が何人いたか。神族は薬なんて、絶対くれないからな・・
だから、お前には感謝している。
それに、どうせ知らないんだろ?俺達が何故戦うか・・
疑問が沸いたって事は、俺達の言い分を、公正に聞いてくれそうだからな・・・・・」
男性は、優しい目でミリを見ながら今までの事を話始めた。
奴隷制度の話から始まり、神族の傲慢さや非道さ、教王の離宮を作る為に、大量の奴隷を確保しようと、人間の大陸に進出したこと。戦争全てに戦闘奴隷がかり出されたこと・・
・・ひどい話だ・・たしか・・
「そう言えば・・・北に、結構でかい建設途中の建物あったな・・・」
「奴隷もいました」
この男は嘘はついてない様だ・・・
たしかに北に大きな、王宮並みの建物が作られている。
かなり離れているが、皇都から見えるほど巨大だ。
その建物を作るために、数百人の奴隷がかり出されていた。
しかし・・其れほどの人数を何処から連れてきたか。
流石に飢饉でも、これ程は集まらない・・・
ミリは合点がいった。
初めは、飢饉でもおきてしまい、食い積めた農民が反乱したのかと考えた。
しかし、其れにしては人数が少ない。
次に、反乱軍は全て人間だと聞いて侵略かと考えた。
しかし・・戦闘服に統一感がない。
奴隷の反乱・・地球の南北戦争みたいだ。
あれは奴隷側が勝ったがな・・
「そうか・・・で・・あんた達の要求は何?」
「解放だな・・全ての奴隷の・・」
突然。男性は疲れたように息をつく。
話すのもキツいみたいだ・・
腕も細い・・・食事を貰ってないかもしれない・・・・・
「人間の大陸に逃げられない?」
解放されたいだけなら、故郷に帰ればいい・・
「無理だ・・・魔術の縛りがある・・・・・教王が奴隷登録オーブを、初期化しなければ逃げられない」
魔術の縛りか・・・
「あんた達の要求は分かった・・教王に話してみる・・これ食べて」
ミリは、ポケットをあさり非常食(おやつとも言う)の干し葡萄入りクッキーを、男性に差し出した。
男性はそれを奪うように受けとり、飢えた獣のように、十枚くらいのクッキーを一気に食べた。
そして、喉をつまらしてしまった男性の背を擦る。
水も持って来れば良かった・・
「やっぱり食事貰ってないか・・」
「ゴホッゴホッ・・水しか貰って無い・・・ありがとう・・・ボス・・・」
ボス・・ミリは嫌そうに男性を、見てそっと耳打ちした。
「美里・・偽名はレイン。ボスは止めて・・・」
猿みたいで嫌だ。ミリが顔をしかめているのを見て、若い男はらアハハと笑う・・・可笑しくないよ!
「アハクッ・・すまん。ミリ・・・いやレイン!ありがとうな。もう、行け・・・護衛を連れてないとこを見ると、独断だろ?」
ミリとアリンナはハッとする。
二人は慌てて扉に向う・・早くしないと、眠らした牢屋番が目を覚ましてしまう!
「じゃあね。色々ありがとう」
二人は急いで扉を開ける。
素早く部屋の外に出ると、牢屋の鍵をかけて急いで去って行った。
・・・・・静かになった牢屋の中で、男性は笑う・・・・・
「ヤナギダ・ミリ・・・か・・・」
彼女は、自分達のボスと同じ存在。
彼は彼女に、心から期待する・・頼んだぞ・・・ミリ・・
翌日の昼下がり・・・
ミリは朝目覚めると、簡単に支度を済ませて、自室を出る。
ミリは、アリンナを連れてリームの執務室に向かった。
あの捕虜男性との、約束を守るために・・
ミリは、執務室についてノックをしてなかに入る。
中に入ると、リームは既に仕事を始めている。
椅子に座り、書類を見ていた彼の前まで行くと、ミリはリームに頭を下げた。
「教王と話がしたいです!場を作って下さい!」
「駄目だ」
ハッキリ断られた・・・・
「・・リーム様・・・」
「駄目だ」
とりつくしまもない・・何でだよ!
「教王様は忙しい・・諦めろ」
「戦争を、止められるかもしれないんです!」
ミリが叫ぶと、リームは忌々しげにミリを見上げた。
青筋がたっている・・
「試しに私に言ってみろ」
「はい!直ぐに、人間の大陸を攻めるのを止めればいいんです!そうすれば・・」
リームはハーとため息をはき、ヤレヤレと首を振る。
「話にならない・・部屋に戻れ」
「でも!」
尚も食い下がるミリを、リームが怒鳴り付ける。
「くどい!行け」
「・・はい・失礼しました・・・」
怒鳴られたミリは、シュンと肩を落とす。
アリンナは、落ち込むミリと一緒に執務室を出ていった・・・・・
執務室にミリが居なくなると、リームはバンと椅子を蹴倒して立ち上がる。
そして・・隣に立っていたスレイプに、切羽詰まった顔で叫んだ。
「スレイプ!レインを監視していろ。間違っても教王に直訴しないように」
「分かった!行ってくる」
スレイプも切羽詰まった顔で、書類をバンと机に置いて、執務室を飛び出ていった。
執務室に一人残るリームは立ち尽くしたまま、頭を抱える。
あの発言は良くて不敬罪・・・悪ければ反逆罪だ。
彼女は、何だかんだ言っているが・・・彼女は身分を嫌う。
シュンとしていたが・・基本単細胞・・・私の怒りなど直ぐに忘れて、何かしらしでかすにきまっている。
スレイプに任せて置けば大丈夫。
だが・・何だろうか・・この胸騒ぎは・・・
数分後・・事件はおこった・・・
捕虜とお話をしました!
次は教王に・・・・・




