ミリ改めレインさん!
暗い部屋を蝋燭の灯りが照す。
一番豪華な服を着た二十代位の神族の男性が、魔法陣の中で倒れている女性。
・・ミリに近寄り手を差しのべた・・・・
「異界の娘」
ミリは、差しのべられた手を見ながら混乱して動けない。
いきなり現れた五人の男に、ミリは恐怖を感じていた。
耐えきれなくなったミリは、バッと立ち上がる。
困惑が恐怖を上回ったのだ。
ミリは、手を差しのべていた男性に掴みかかろうとする。
しかし、ミリは男性を直視してしまった・・その瞬間。
ミリは奇声をあげた。
「・・何なの・・何処よ!ここは!・・・・・
私は・・スクーターに乗ってて、軽トラが・・・あんたら何よ!・・・あっ!何その服!!コスプレ?!格好いい!」
ミリは興味津々で、神族の男性を見下ろした。
男性は立ち上がり、ミリに優しく微笑みかける。
「ここは神族の大陸ヘクセライ。
君の世界から見るとここは異界だ。」
ミリは興奮して鼻息が荒くなる。
異界!異世界!!
嗚呼!憧れの異世界!!
あれは・・・有るだろうか・・・
ミリはズイッと男性に近づいた。
・・男性は若干引いた・・酷い・・・・・
「魔法は!?魔法はある!?ねぇねぇねぇ!!」
男性は苦笑いしながら、詰め寄るミリの肩を押さえて離す、彼はミリを宥めながら肯定した。
「落ち着け・・女が男に詰め寄るなどはしたない真似はするな。
魔法だが・・確かに有る。君の世界にもあるのか?」
男性は、ミリの肩から手を離しながらミリに聞いた。
魔法があったなら、使い方も知っているはずだ。
しかし・・ミリは首を降る。
「ううん。無い・・・あっ!無いです・・・・・申し訳ありません」
ミリは元気に返事をしてから、段々敬語になって小声になる。
・・どうした・・・
「・・・何故・・いきなり敬語になる」
神族の男性が、不思議そうにミリを見る。
態度が突然怯えるような、怖がるようなものに変わっていく・・・やはり・・・
「何か・・偉いさんみたいだから・・」
彼は、他の四人に比べ服の布が多いし装飾品もつけている。
しかも、目の前の男性が話す間は、後ろの男性達は口を開かない。
老人も要るから多分、目の前の男性はいいとこのお坊ちゃんな何かだろう・・・・・
ミリは、段々この場に慣れてくるにつれて、今・・自分の状況が余り良くない事に気づいた。
ミリは異世界に来てしまい、召喚した人達。
しかも、その中でも一番偉いさんみたいな人に詰め寄る私・・・・・
不味い。ここは日本ではない・・・
異世界人の私に、人権等あるか分からない。
機嫌を損ねたら、殺されるかも知れない・・
そんな状況で愚かにも私は・・
ヤバイ・・・殺されるかも・・・
男性はハーとため息をつく・・
彼の心の中で、ミリの評価がガクンと下がった。
彼は期待していたのだ。
異界人なら、自分を偏見の目で見ないと・・・
彼はヘクセライ大陸。
ヘクセライ教王皇国の公爵家の一つ、ディオス家の若き当主。
彼は、公爵家の歴史の中でも、類を見ない程の高い魔力を持っていた。
そのため、幼い頃から回りは媚びる者と神のように崇める者ばかり・・・
両親ですら、彼を尊いと敬って接していた・・・
王を選出する三公爵家。その当主の中でも、一番の魔力を持つ彼は、ほぼ次の教王に確定している。
なので彼は友すらいない・・
あ!1人いる・・・だが・・まあ・・・・公に出来ない者だ・・・
彼は幼い頃に身につけた、仮面の笑顔をミリに向けた。
「確かに私はここにいる者の中で一番位が高いが・・・異界の娘。私はリーム。リーム・ディオスだ君の名は?」
リームはミリに笑顔で名を聞いた。
この娘も回りと同じ・・・
権力に媚び無駄にへこへこする・・・・・見ていて不快だ。
名さえ分かれば、魂を縛る事ができる。
ミリはリームをチラミした。少しビビりながらも、口を開く。
「異界の娘でいいです。私ごときの名などお耳汚しです・・・」
リームは内心舌打ちをする。面倒だ・・・
「いやいや。そんな事はない・名は?」
ミリは内心焦る。
二次元脳を持つ彼女は、名前を教える事の、危険性を危惧していた。
途中から、胡散臭いくらい優しく笑うリームを見て寒気がしたのだ。
名前を教えたら・・きっと魔法で奴隷にされる・・
どう誤魔化すか・・・
「わっ私はレインと申します」
とっさに何時も、テレビゲームで使うプレイヤー名を偽名にした。
リアルで呼ばれるのは、嬉しいかもしれない・・・って自分!
目的が違うだろ!
ミリが、心の中で叫びをあげる。
顔だけは、ひきつった笑いを浮かべていたが・・・・・
そして・・・
リームは、ニヤリと人の悪い顔をした・・・こいつ!!
「スクラーヴェ・コントラクト!異界の娘・レイン!服従せよ!」
金色の光が、ミリを包み消える・・・
それを見たリームは、驚愕して固まった。
「魔法が効かないだと!」
ミリはホッとする。やはり名前を使った隷属魔法があったようだ。
・・偽名で良かった・・・
しかもあの男性・・リーム・・・だったかな・・・が勘違いしている。
・・・やっぱり私に、酷いことする気みたいだ。
「あの~今のは?魔法ですか?何の?」
私は、馬鹿のふりをすることに決めた。 まあ・・・元々バカではあるから苦労はしないだろう・・・うん・・
「あっああ・・・加護をな・・レインこちらに」
イヤイヤイヤ!!
おもいっきし(服従)とか言ってたよ?誤魔化せると思ってんのかよ!!
・・・と心の中で叫び、階段を昇るリームについていく、その後ろから他の四人が無言でついて来た。
・・・怖いよ・・・・・
リームが階段を登り終ると、扉の前で止まる。
ミリと他の四人も階段で止まった。
「扉を開けろ」
リームが、扉に向かって鋭く命令する。すると、扉から若い男性の声がして扉が開いた。
「はい。お疲れ様でした」
ガチャリ。扉が開かれ、真っ赤な光が差し込んだ。
ミリは余りの眩しさに目を細める。
夕日に慣れてきて、回りの景色が見えるようになると、ミリはパアアアと顔を輝かせた。
「凄い・・・・・」
扉の先には、神秘的な世界が広がっていた。
夕暮れの真っ赤な光の先には、丸くくり貫かれたような空間があり、そこには小さな花畑のような場所がある。
その花畑では、小さな羽のついた妖精が、金色の燐粉を撒き散らして飛んでいた。
色とりどりの花に、燐粉と妖精が舞っている姿は、凄く綺麗で神秘的だ。
その回りに立っている、真っ白い五本の柱があることで、可愛らしい花畑が、荘厳な神々の世界みたいな、空気を醸し出していた。
ミリが、目の前の神秘的な光景に見とれていると、リームがミリの腕を引っ張った。
「・・レイン!!聞いているのか!」
リームは忌々しげにレインを睨む。どうやら何回も呼んでいたらしい。
・・・ごめんなさい
「申し訳ありません」
「私が見ても、美しい光景だから見とれるのは分かるが・・ここは人目につく。来い」
ミリは、リームに腕を掴まれたまま廊下を歩く・・他の四人はミリが、花畑に見とれている間に居なくなっていたようだ。
代わりに扉を開けた銀髪の男性が、リームについてきている、彼はリームの従者のようだ。
三人が廊下を歩いていると、数人のメイドさんとすれ違った。
皆リームを見ると、頭を下げるが頭を下げた時。
従僕が目に入ると・・・なんか・・・・汚いものを見るみたいな・・・・目をしていた。
・・・・理由は分からないが・・・何故だろうか。
どのくらいだろうか・・・
結構歩き、運動不足の私の足が悲鳴をあげた頃。
豪華な扉の前で、やっとリームが止まった。
「レイン。君は暫くここで生活してもらう。アリンナ!」
リームが扉に向かって言うと、部屋の扉が開き、1人のメイドが中から出てきた。
20才くらいの若い女性だ。
「はい・・ディオス公爵閣下」
女性、アリンナはリームに頭を下げる。
リームは見下ろしながら口を開いた
「部屋は整ったか?」
「はい。整っております」
リームは、ミリの手を離して解放して後ろにいるミリを見る。
「レイン。このアリンナが君に付く侍女だ・・・侍女の意味はわかるか?」
分かります!!
そこまでバカではない・・・しかし・・ここは・・・・・
「ん~分かりません」
リームはミリに見下す様に言った。
段々隠さなくなってきたな・・・おい・・
「君の、身の回りの世話をする者だ。アリンナ」
リームがジロッと、アリンナを見るとアリンナは深く頷いた。
「はい。異界の方。私はアリンナでございます以後よろしくお願いいたします」
アリンナは、ミリに近づき深く頭を下げる・・あれ?
一向に頭を上げない・・何でだ
「レイン。君には侍女の扱い方も教えなくてはな・・アリンナ頭を上げろ」
リームに言われて、アリンナは頭を上げた。
それ・・命令しないといけないのか・・・面倒だ。
「まあ・・・それは明日だな・・・今日はもう日が傾いているから。
教王陛下に謁見は明日にしよう。今日は休め。アリンナ明日の三の鐘迄に支度をすませろ」
リームがアリンナに言うと、アリンナは軽く頭を下げて返事をする。
「はい」
「私はこれで。レインゆっくり休め。」
リームは、それだけ言うとその場を去って行った。
リームが見えなくなると、アリンナは頭を上げる。
見えなくなったら、頭を上げてもいいんだね。
アリンナは、扉を開けてミリを見る。
「異界の方。お入りください」
ミリは開けて貰った扉から部屋の中に入った。
・・・結構部屋の中も豪華だ・・・居心地悪いよ。
ミリが部屋に入ると、アリンナも部屋に入る。
アリンナはミリを、部屋の真ん中にあるソファーに座らせた。
「異界の方。お食事はどうなされますか?」
アリンナはソファーの向かいに立って頭を下げる。それを見てミリは苦笑いした。
「いるよ。あっ!あと頭を上げて!それと私はレイン名前で呼んで!アリンナさん」
ミリはニッと笑ってアリンナに言う、そしてアリンナもニコリと笑った。
「承りました。レイン様・・私の事はアリンナと。さんはいりません」
ミリはニコリと笑い拒否した。
私は主になるから良いよね・・・
「い・や。私の心の安寧の為に、我慢して」
ミリはアリンナに、イタズラっぽく言うとアリンナは肩を竦めた。
・・・我が儘でごめんね
「・・分かりました。お食事は何になさいますか?厨房からいただいて参りますが」
訂正を諦めたアリンナが、ミリに聞く。するとミリは元気よく答えた。
「肉!!」
「・・肉ですか・・分かりました。いただいて参ります。少々お待ち下さい」
アリンナは、そこそこ若いミリの台詞ひビックリしたが、直ぐに真面目な顔に戻り、一礼してから部屋を出ていった・・・
何か変なこと言ったかな・・・私・・
数分後。アリンナが、フランス料理に使う丸いあれが乗った皿を持ってきた。
・・・いい臭いが部屋に充満する・・・・・ジュルリ・・・旨そうだ。
「レイン様。雪牛のステーキをお持ちいたしました」
アリンナが皿を持ってミリが座っているソファーに近づく、持っていたステーキをソファーの前にある机に置いた。
アリンナが被せている物を外すとそこには、分厚い肉がデーンと現れた。
ミリはナイフで、目の前にある肉を切る。
雪牛って何だろう?とは思うがミリは美味しければ、牛でも鳥でも蛙でも気にしない。
「ん!おいひい!!」
ミリは行儀悪く食べながら喋る。いただきますも言わない・・
ミリはモシャモシャ食べる、十分もしないうちに肉塊はミリの胃に納まった。
「あ~美味しかった・・米が欲しいが無いんだろうな・・・」
アリンナはミリに、口を拭くためのナプキンを私ながら首を傾げた。
「米とは?」
「私の国の主食」
ミリは、米と肉では僅差で米が好きだ。しかし、家具の感じからしてここは麦文化っぽい・・・麦は水が余りいらないが、米は大量の水がいる。
技術が未熟な世界なら、雨が多い地域しか作れない。
雨が多い地域は木製の家が多いが、ここはざっと見た感じ石造りの建物だった。多分無いと考えたので肉を選択した・・・・・
「後で料理人に聞いてみます」
アリンナは少し考えて諦めた・・・やっぱり無いか・・・・・
「ありがとう!アリンナさん!無理しないで良いからね」
ミリが笑うとアリンナは微笑んだ。
・・・・・好い人っぽい
ミリはステーキを食べたあと、うとうとしだした。
腹が膨れて眠るなど幼児のようだ。
恥ずかしいが、眠気が凄くて抗えない・・・・・
そんなミリに気付き、アリンナがミリに声をかける。
「レイン様?お休みになられますか?」
ミリは目を擦りながら、アリンナに言って立ち上がる。
「うん・・・寝る・・」
「では、此方に」
アリンナは、奥の部屋の扉の前に行き扉を開く。
ミリが部屋に入ると、キングサイズのベッドが置いてあった。
ミリはベッドに遠慮なく入る。
アリンナがすぐ横に立ってミリの指示を待っていた。
「もう下がっていいよ・・お休みに・・・アリン・・」
グー・・ミリは直ぐに夢の世界に旅立った・・恐ろしく寝つきがいい・・・・・
「お休みなさいませ」
アリンナは静かに扉を閉めた・・・・
偽名を使いました・・・・・
彼女は警戒心が強いので・・・・・
次は教王に謁見します!




