コンプレックス
ユリナ泣きます!
雪深い山道を行く馬車がゆっくり減速する。
国境の関所だけあって、訪れる人は多いのだろう検問で大渋滞だ。
凄い並んでいる。
ユリナ達を乗せた馬車はゆっくりゆっくり門に近づいて行く。
長かった・・・・
イデアは疲れたように息を吐く。
「やっと・・・やっと、マグダリアに入るのね」
暫くして、ゆっくり動いていた馬車が止まる。
順番がやっと回ってきたらしい、完全に止まってから馬車の木の窓をトントンと軽く叩く音がする。
ユリナが木の窓を開けると、ユリナ達と同年代位の若い男性兵士が、元気よく声を張り上げた。
「通行証を見せてください!」
ユリナはシュエを見る。貴重品はシュエ担当だ。
シュエは鞄から、成人男性の掌くらいの木の板を取り出し兵士に手渡す。
ユリナ達の身分証は木の板に青い文字で、ゼルギュウム国の紋章が刻まれていた。
「ああ」
兵士はペコリと頭を下げてから身分証を確認・・・
その瞬間。兵士は目を間も見開いた。
彼は馬車の面子を驚愕の顔で見渡しす・・・・・何だよ・・・・・
「え!ゼルギュウム国のイデア姫様一行!侍女は!」
「私」
兵士が叫ぶとユリナが小さく手を上げた。馬車は狭い。
「近衛騎士は!」
「私だな」
兵士が再び叫ぶとシュエが静かに答える。
興奮気味の兵士がミンスを見て又叫ぶ・・・・・五月蝿い・・・・・
「まさかの一人!あ!貴方は神族の!」
兵士が乗り込みそうなくらい身を乗り出した。ミンスは目を見開き懐かしそうに目を細める。
「お久し振りですわ・・・随分大きくなって・・・お父君は元気ですか?」
兵士がピシッど背筋を伸ばす
「はい!ミンストレル様!父は今反対側の門番をしています!
王都から虚無の民の話討伐の件は連絡がきています!
殿下の婚約者であるイデア様が巫女になられた事も、どうぞお通りください!時間を取らせて申し訳ありません!」
兵士は元気よく馬車から離れて馬車に向かい頭を下げた。
門は既に開いている。
「お入りください!」
馬車のまま町に入り、事前に予約していた宿屋に向かう。
宿屋に着くと馬車は此処で返却した。転移陣では馬車を移動させる事はできないので。
宿屋に着くと宿屋の一室に荷物を置く、泊まる為ではなくあくまでイグニス達が来るまでの待機する場所として予約したので一室だけしか予約していない。
荷物を置いてから、通信魔術で町に到着したのをイグニスに連絡するとイグニス達は出掛けているらしく、数時間は帰らないらしい(町に行こう!)他国の町に興味津々のユリナとイデアがせがむと、ミンスとシュエは仕方がないと笑って街に出た。
宿屋を出て町中を歩く、民家を見ると真っ赤な煉瓦を使っている家が並んでいた・・・・・
寒いから、暖かい色が好きなのか見る家全てが真っ赤だ。
「〜すごっい!街が真っ赤な煉瓦で出来てるわ!」
「真っ赤っかだね」
住宅街を少し歩き町の中心に向かう。
店だけでなく屋台も多くて歩く旅に屋台のおっちゃんか元気よく声を張り上げる
「おねぇさん!おねぇさん達!うちの兎肉の串を買ってかないか!」
「うちの焼き林檎旨いぜ!」
「いやいや!うちのシチューも旨いぞ!」
「・・・うーん・・・迷う・・・・」
串肉。焼き林檎。シチュー。どれも言い匂いをさせている・・・
食べたいが・・・・・
「私は串肉にするわ!」
イデアはおとなしそうな顔で串肉を屋台のおっちゃんに注文
「私は焼き林檎にしますわ!」
ミンスは焼き林檎を注文した。神職者らしく、肉は食べないのだろう
まだ決めかねている優柔不断のユリナにシュエか財布を取り出しながら
「全て買って食べれば良い。残りは私が食べてやるから」
シュエは屋台で焼き林檎2つ、串肉を2つ、シチューを1つ。
其々の屋台で購入して、串肉の1つをイデアに、焼き林檎の1つをミンスに渡してからユリナに近づく、ユリナは笑顔でまずは串肉の串を掴んで口一杯に肉を頬張る・・・・・栗鼠みたいだ
「ありがとう!」
イデアも渡された串肉を頬張る
ニコニコ幸せそうに咀嚼する
「美味しい!」
焼き林檎を食べていたミンスはカリカリとした食間に目を見開いた。
「あらっ!飴がついてますのね・・・美味しいですわ」
串肉を食べ終わってシチューを一口。物凄く辛い・・・残りをシュエに押し付け焼き林檎をかじる。
ミンスの言葉でもしかしてと思っていたがやっぱりあれだ!!祭りの屋台にある林檎の奴・・
名前何だったかな・・・・・
ガジガシ、ガジガシ。焼き林檎を食べなが考えるが思い出せない・・
まあ・・・いいか・・・・・
しかしユリナは、シュエをチラリと見る。先程の激辛シチューを食べ終えたシュエは平気な顔をしていた。
水も飲んでない・・マジかよ・・・・凄いな・・・
(大分後になってこの時の事を聞いたら、やせ我慢していただけだったらしい)
四人はポテポテ歩きながら商店街向かう、商店街に着くと可愛いモフモフしたモノが目に飛び込んで来た。
どうやら看板にぬいぐるみを括りつけているようだ・・・・・無茶苦茶可愛い!
ユリナは三人の方を振り向き
「次はあの店行こう!」
他の三人に異論はなく、四人は店に入る。店の中もモフモフした白いぬいぐるみで一杯だった。
四人がぬいぐるみを見ようとしていたら・・・・・・
「何でだよ!」
「いや・・・予約が・・・・・」
「誰だよ!」
若い男性と店主が言い合っていた。
誰かと思えばグレルだ・・・・
何してんだよ・・・・お前・・・・
「俺だよ!」
「えっ?・・・イグニス様!」
やり取りをグレルの後で聞いていた長身の男性が苦々しげにグレルを見る。
誰だ・・・・・
「てめぇ!まだ買う気かよ!シュエに十個位にしろって言われただろ!ユリナ嬢も大量に貰っても迷惑だろが!」
後ろの人はご立腹の様で大声で叫んでいる。
しかしグレルは・・・・
「でも・・・・・ユリナが好きそうな」
「イデアも好きそうだよ!一個位譲れ!」
未練がましくグズクス言うグレルに男性は怒鳴る。
どうでもいいが営業妨害じゃないかな・・・
さっきまでいた客達が、いつの間にかいなくなってるけど・・・・・
「いい加減になさい!二人とも!
グレル!貴方は臣下なのですから譲りなさい!」
まだグズクス言うグレルに、男性の後ろに控えていた。
護衛騎士らしき人がグレルの前に立ちビシャリと言う。厳しい顔で
「うぅぅぅはい・・・・・」
渋々納得したグレルが店主から離れる。護衛騎士らしい男性はため息を吐きながら財布を取り出した。
「宜しい。イグニス様、さっさと買って行きますよ!
全く良い歳をした男が・・・あ!・・・イデア様・・」
品物を受け取りクルリと騎士が後ろを向くとイデアと騎士の目が合う、騎士の目線を追って男二人が振り向いて嬉しそうに叫んだ。
「イデア!」
「ユリナ!」
長身の男性はガシッと騎士からぬいぐるみを奪い取り、イデアの前に立って両手でぬいぐるみをイデアに差し出す。
男性はニカッと男臭く笑った。
「イデア!ほら!誕生日プレゼントだ!」
グレルは大きな袋をドンとユリナの前に置いた。どや顔をして
「ユリナァ!誕生日おめでとうぅ!」
イデアは可愛いリボンをほどき袋の中を物色する。
暫くいじり雪栗鼠のぬいぐるみを取り出した。
袋の口をほどいたリボンで結び、グレルに返す。
グレルは反射的に受けとった。
「ユリナ・・・・・」
グレルが捨てられた犬の顔する。
ユリナは呆れながらグレルに言う
「1つでいい。
こんなにいらんよ・・
どこで誕生日プレゼントの事を知ったかは聞かないでおいてあげよう。
プレゼントは有り難く貰うよ・・・・・ありがと!グレル」
ユリナはニパッと笑う
「イグニス様。ありがとう!」
イデアもニコッと笑う・・ん?この人!マグダリアの王太子か!
グレルはユリナから返されたぬいぐるみを持って店主に何やらコソコソ話をしている。
「・・返品できる?」
「すまん・・・旦那」
返品の話だった・・
てか全部此処で買ったのか・・・店主が困った顔で謝ってる。
そりゃ無理だよな。そもそも返品の概念あったのか・・・・・
グレルは袋を見ながらため息をついている・・・・・どうしようって顔だ。
ユリナは少し考え、良いことを思い付いてポンと手を叩く
「孤児院にでもあげれば良いじゃん!イデア様の名前で」
「お!良い考えだ!」
この国の王妃になるイデア名を上げるチャンスだ。イグニスも笑顔で答える。
「えっ!決定なのか!」
「決定」
「うっ!分かったよ・・・」
何か釈然としないと言いたげな顔でいたグレルだが、ユリナの言うことは絶対服従。渋々了承する。
パンパン!音の方を見ると騎士達が出口付近から此方をみている。音は騎士が手を叩いた音だったらしい
「話はそれくらいに致しましょう荷物を取りに宿屋に向かいますよ」
グレルとユリナは急いで店を出る、外には辻馬車(町の中ならどこでも行く馬車)が止まっていて中に乗り込むと、イグニスとシュエとイデアそれからミンスがすでに乗っている。
ユリナは右側の奥に座るシュエの横に座り、ユリナの反対側の隣にグレルが座る、反対側は奥からミンス、イデア、イグニスの順に座っていた。
そこへ護衛騎士が入ってきて、イグニスの隣に座る。
「では、参りましょうか」
護衛騎士が、馬車の壁を軽くコンコンと叩くと馬車が動き出す。
馬車は商店街を抜けて宿屋が多くある地域について荷物を置いている宿屋着くと馬車を止めた。
馬車が止まると全員馬車を降りる、辻馬車の御者に待っているように言って、宿屋の借りている2階の部屋に向かった。
荷物は開いていないのでそのまま荷物を持って階段を降りる(ユリナとイデアの荷物はシュエが持っているので二人は手ぶら。)宿屋の人間に鍵を返して外に出ると待たしていた馬車に乗り込んだ。
御者に行き先を告げてから馬車は再び動き出す。
宿屋が多くある地域を抜け商店街を走り、町の中心に向かう。
それほど大きくない町なので30分もすると大きな建物が現れた。
現世で言うと頃の、地方都市の駅みたいな見た目だった。
馬車が止まり馬車を降りる。御者に護衛騎士が金を払うと護衛騎士は建物に入っていく。
建物に入るとチケット売り場みたいな場所に人が集まっていた。
護衛騎士は改札見たいな場所に立っていた人に羊用紙の命令書見たいなモノを見せている。
駅員みたいな人は羊用紙を読んだ瞬間、ビシッと背筋がのびでユリナ達を別室に案内してくれた。
警備兵が二人も立っている豪華な扉の部屋入る、中は赤黒い部屋の真ん中に白い大きな魔法陣が書いてある。
「へー色も違うんだね!」
ユリナはメチェーリ家の魔法陣を思いだし呟いく。
「マグタマリアの紋章よね雪の結晶みたい」
イデアは呟くように魔法陣の紋章を見ながら言う
「ユリナさん!イデア様!さあ!急いで日が暮れますよ!」
ジッと魔法陣を見つめていた二人を既に魔法陣に入っていた護衛騎士が二人を手招きする。
他の三人は既に魔法陣に入ってる
「「御免なさい!」」
ユリナとイデアは慌てて魔法陣に飛び込むと、勢い余って二人はコケそうになる・・・・しかし、すかさずシュエとイグニスが受け止めてコケるのは免れた。
どちらがどちらを受け止めたかは、言うまでもない。
護衛騎士は、全員魔法陣に入ったのを確認してから呪文を唱えた。
「ロワン・サファル・シス・マグダリア」
パアッと部屋が光に包まれ何も見えなくなる。
暫くして光が消えると先程の部屋と大差ない部屋に立っていた。
「皆様。付いてきて下さい」
護衛騎士が扉を開けて部屋を出る。そのあとにイグニス、グレルが続きイデアとユリナ、シュエとミンスが後を追って部屋を出た。
ユリナ達は部屋を出て廊下を歩く、廊下の壁は赤い壁と黒い紋様。床には黒い絨毯に赤で雪の模様だ・・・何か・・・
「わおっ!魔王城みたい!」
昔に見たアニメの魔王城そのものだ。
ユリナは興奮ぎみに言うと、イデア様がウキウキしながらユリナに言った。
立ち止まり話始める、シュエ達もつられて立ち止った
「確かに・・ラスボスが出てきそう!ワクワクするわ!」
イデアはアニメよりゲーム派らしい。確かにラスボスのいる城は赤黒いのが多いな。
興奮する二人を、不思議そうに見ながらシュエは首を傾げてユリナに聞いてくる
「ラスボス?何だそれは」
「ラストボス。最後の強敵だね。大体は魔王の事だよ」
たまに皇帝とか神様とかの時があるからな。
ユリナがシュエに教えていると護衛騎士が訂正してきた。
自己紹介してないな・・・まあ、護衛騎士でいいか聞く事自体・・・
何かめんどくさいし・・・・・
「魔王はいませんよ」
分かってるよ!寧ろいた方がビックリだよ!とは言わずニコッと笑った。
こういうタイプは相手が納得するまで話し合うタイプだと思う・・・・・
真面目野郎はめんどくさい・・・・・
「てか魔王城ってこんな感じなのか?」
ユリナは声をかけられて反射的に振り向いて答える。
グレルと思ったらイグニスで・・・ユリナの声がだんだん小さくなった。
「知らない・・・です。王太子殿下」
今まで普通に話していたユリナがいきなり大人しくなる。イグニスは声をあげた
「おい!いきなり敬語か!」
「・・・申し訳ございません」
イグニスがユリナに詰め寄ると、シュエとグレルがユリナを守る様にユリナの前に出る。
イグニスの護衛騎士であるグレルがイグニスに、対立姿勢を示した事に護衛騎士の男性が声を荒げた
「グレル!」
グレルは気にせずにイグニスに叫んぶ
「ユリナはなぁ!赤が大嫌いなんだよ!イグニス様真っ赤だから嫌なんだよ!」
「貴方も苦手な事の一つや二つあるでしょう?
ユリナの事は気にしないで下さい。数年もすれば貴方に慣れると思います」
イグニスは固まった・・てか、グレル!酷くないか!
グレルの台詞にユリナは青ざめてグレルを思いっきり殴った。
殴りながら泣き出してしまう
「ハッキリ言うなぁぁ!酷いよぉぉ!言わなきゃ分かんないのにぃぃぃ!ヴあぁぁぁぁぁん!」
泣き出したユリナをシュエは必死で慰める。
シュエが必死で優しく、頭を撫でるがユリナはブツブツ呪いのように言葉を吐き続ける。
グレルはあたふたしながら飴を差し出したり、チョコを出したりするがユリナはグレルに反応しない
「王太子に嫌われる・・イデア様に嫌われる・・王様に嫌われる・・
無実で投獄・・処刑・・ヴッッッ・・・えっぐ・・」
「おい!」
イグニスが声を出すとユリナはビクッと震えながら、イグニスを見上げる。
イタズラがバレた子供の様に・・・・・
イグニスはしゃがみこみユリナに目をあわせてきた。真っ赤な瞳が慈悲深い色に変わる
「お前な・・・何で処刑 何て思うんだよ・・・・・」
ユリナは恐る恐る口を開く
「私は要らない人間なんですよ・・器用ではなく、優しくもなく頭も悪く美人でもない・・・・・
人付き合いは苦手だし、楽しく話したあとに何時も何時もあれを言わなければ良かったとかあれをしなければ良かったとか・・・・・
怠惰で向上心もなく・・・私の代わりなんて誰でも出来ます。
私に存在価値などありません。私が人より優れたと頃など何もないんです・・・・・イグニス様は私をお嫌いでしょ?私なんて・・・私なんて・・・・・排除されます・・よ・・・」
ガシッ。ガシガシガシ。イグニスはユリナの頭を掻き回しながらニカッと笑う
「お前の事はイデアとグレルに聞いてるから良く知っている。確かにドジだがな・・・・・侍女の最大の仕事知ってるか?」
「主のお世話です」
「いいや。主の絶対の味方になることだ・・・・・ムリか?」
「イデアの敵には死んでもなりません!」
ユリナが悲鳴のようにいうとイグニスは嬉しそうにニカッと笑う
「だろ?イデアが王に嫌われてても味方になって慰めて、異界の話をして主を喜ばした・・・・・」
「お前以上の侍女はいねぇよ!自信もて!お前を死刑なんかしたら俺はイデアに殺される」
イデアがユリナに近付き、彼女のくじゃくじゃになった髪を手櫛で整えながらユリナの目を除き込む
「ユリナは本当に臆病ね・・・貴女は私のたった一人の侍女なのよ?イデア・リーベン・ゼルギュウムの名に懸けて守るわ・・だから・・・泣かないで・・・」
イデアか微笑むとユリナは泣きながら笑ってイデアに抱きつく涙はやっと止まった
「私も護る」
「俺も・・いてっ!・・何すんだよ!」
シュエがユリナに誓う。
グレルも言おうとしたがゴンと殴られた
「君のせいだろう!ユリナ嬢に謝れ!」
グレルはユリナに土下座しながら謝罪する。額を絨毯に擦りつける
「ごめん!」
ユリナはクスクス笑い立ち上がる
「私も殴って ごめん。皆様にもご迷惑をおかけしました!」
ユリナはその場にいる全員に頭を下げた。騒ぎを聞き付けて下女やら侍女やら集まって来ていたのだ。
そのすべての人間に謝罪する。
ユリナが頭を皆に下げていると何やら回りが騒がしくなった。チラリと見ると何か豪華なひとが号泣している。色合いからして・・・・・
「陛下!泣かないで下さい!威厳が!」
「レギー こそ・・・泣いているではないか!」
ああ・・・どうしたらいいのか・・・・・
ユリナはひきつった笑いを張り付けて国王夫妻を眺めた・・・・・
どうでしたか?ユリナ・・・・・思い込み激しいんです!
次はガイラちゃんの話です!ユリナ出てきません!




