神族の吟遊詩人
新展開です!
よく晴れた日の朝。
ユリナは、せっせと自室で縫い物をしていた。
実は、一週後に16歳の誕生日を迎えるイデアの為のプレゼントを作っているのだ。
やっぱり手作りが良いかな・・
てなノリで・・・
この国には・・というかこの世界には誕生日を祝う習慣はない。
16歳を迎えた年の、初めの春の宴に成人の儀式をするくらいだ。
ユリナには前世の記憶がある。
前世では普通に誕生日を祝っていたので(まあ、プレゼント何か貰った事はなくもっばらケーキのみだった上に、12月生まれだったからクリスマスと合同だったがな)何もしないのは寂しい。
ユリナの生まれた日は、アジーンの四週間目の火の曜日。
この世界の暦の数え方は、春のエナ。ズィオ。トゥリア。
夏のワーヒド。イスナーン。サラーサ。
秋のウーノ。ドゥエ。ドライ。冬のアジーン。ドヴァー。トリー。
皆女神の名前だ。
春の女神は再生を。
夏の女神は力。
秋の女神は豊穣を。
冬の女神は死を司っている。
3人の女神はそれぞれ姉妹で、3人でワンセットだ。
曜日は光。火。水。風。土。闇。の六日間に休息日と呼ばれる一日が加わる。
まあ、休息するのは聖職者位だが・・・・・
ユリナは産まれた時の母の話から日にちを知り、タンペットに暦を教わって自分の誕生日を知った。
イデアも同じで、母の話から日にちを知ったらしい。
不思議な事に、ユリナとイデアは産まれた年だけではなく、日にちまで同じだった。
何か・・駄目だ!声に出すと何かフラグが立ちそうだ。
ユリナはチクチク縫う。
ひたすら縫う。数時間かけて出来た物は・・・・
小さな・・・掌サイズの兎(因みにこの世界での動物の呼び名は、日本と一緒だ)の縫いぐるみを作った・・筈だった。
だが・・
耳のサイズを間違えた・・ナニコレ・・・・・
「ユリナ。入るぞ。」
ガチャリと音がして、シュエが部屋に入って来る。
シュエは、暇さえあればユリナの部屋に来るのだ。
五月蝿くしないからいいけどさ。
そしていつも本を数冊持って来ていて、ユリナと一緒に読書をする。
・・楽しいのかな・・・シュエは・・・
シュエは部屋に入ると、ユリナの手の中の縫いぐるみ見た。
ジッと見ている。
「・・・熊の縫いぐるみか?良くできてる・・」
シュエ!!兎だよ!熊じゃねぇ!
「ハァァァ・・駄目だ・・・明日・・・町で買うか・・・・・」
熊のように見える兎なんて・・主であるイデアにあげる事なんて出来ない・・・・・
材料はもう無いし疲れた。
もう作る気力も無い。
ユリナは、不思議生物の縫いぐるみを手にとってゴミ箱へ。
しかしその手を、シュエがジッと見つめる・・目が何かマジだ・・
「ユリナ・・捨てるのか?それ」
「うん・・イデア様にあげようと思ってだけど・・・見た目が・・・・だから、手作りなんて止めて、贈り物は店で買おうって思って。で、これは、いらないから ポイする」
ポイとゴミ箱へ・・・入る前にシュエがガシッと掴む。
「貰っていいか?」
「どうぞ・・・・・」
「大事にする」
イヤイヤイヤ。ゴミですから。
そんなもんが欲しいのか・・・・シュエは大事そうに、縫いぐるみを上着の内側のポケットに仕舞った。
そして、ゆっくり ユリナに近づいてくる。
ユリナが座っている ベッドの前までくると、散乱している布と糸を片付け始めた。
・・・・・本当に甲斐甲斐しいな・・・
「今から買いに行くか?」
シュエは手際よく片付け、適当に放り投げていた袋に仕舞う。
糸屑や小さな切れ端を、ベッドの近くにあるゴミ箱(机の横とベッドの横に、ゴミ箱がある)に捨てから、ユリナの手にある針を取り針箱に仕舞う。
あっという間片付け終わった・・・・・スゲェ・・
「今から?」
突然町に誘うシュエに驚く。シュエから何かに誘う事は殆どない、いつも いつも、ユリナの都合にシュエは合わしてくれていたから。
「今日は1日休みだろう?それに今。珍しい、神族の吟遊詩人が町にいるらしいぞ。」
ユリナは、神族と聞いてピクッとした。
「え!神族の吟遊詩人!凄い!」
神族の吟遊詩人は、聖歌しか歌わない。
しかし、声と見た目が美しい事で有名だ。
神族は、自分達の大陸からほぼ出ない。だから、神族の吟遊詩人なんて死ぬほど珍しいのだ。
ユリナは必死な顔で、シュエに抱き付いた。
「行く行く行く行く!」
シュエはニコリと笑う。数日前、神族の吟遊詩人の話を聞いたときの反応を見て、ユリナが喜ぶと思い誘ってみたらしい。本当に好い人だ!ユリナにとってのみだが。
「では、行こう。支度しろ。私はこのまま行くから」
シュエを上から下までみる。準備万端だ。
そういうば本も持ってない、私が断るとか思わなかったんだな。
シュエって、私の思考を完璧に読んでるからな。
まあ・・・それは良いか・・用事などないし!
街に行く事が決まったユリナは、服を脱ぐシュエがいても関係なしだ。
そしてシュエは、ユリナのクローゼットを普通に開け、普通に服を選んでいた。
良妻ならぬ良夫!結婚してないけどな!
「此と・・此と・・靴は此だな・・ユリナ。立て」
「うん」
ユリナが立つと、服を上から着せられる。
シュエが釦を止め、服を整えてから、ベッドにユリナを座らせた。
シュエはユリナの履いていた靴を脱がし、別の靴を履かせ靴紐を結ぶ、
シュエは、再びユリナを立たせてスカートの形を整えた。
準備完了。
シュエはユリナの手をとる。
「では、行くか」
「うん!」
ユリナ達は町に行ため城を出た。
その道中。嬉しそうにユリナのとなりを歩くシュエを、ビクビクしながら近衛騎士達が眺めていた。
シュエ・・普段何しているの
そして途中でエカテ様に出くわし(私も行く!)とごねられたが、タンペットが何処からともなく現れてエカテを連れていった。
・・あれは、勉強から逃げてきていたみたいだな・・
エカテの顔色が悪いし・・タンペット先生の授業厳しいからキツイみたいだ。
「ユリナ!どこ行くの!」
ユリナがエカテを憐れんでいると、ユリナの背後の柱からバッと、イデアが出てきた。
町にいる娘ような、服装をしている・・・まさか・・・
「部屋の前で聞いてたんですか?」
「・・チッ・・・あの気配イデア様だったか・・・・」
「一緒に行きます?」
「うん!行く!吟遊詩人たのしみ!」
やっぱり聞いてんじゃん!まあ、良いけどさ・・・
シュエは良くないみたいだけど・・・
そして、仲良く(仲良く?)三人で町にくりだした。
町に出ると凄い賑わいだった。回りは人人人人。
胸焼け思想だ・・見るだけでげっそりする。
反対にイデア様は楽しそうだ。色んな形の看板を楽しそうにみている。そして一つの看板で目を止めた。
「ユリナ!シュエ!其処の店に入ろう!」
可愛い看板で店の中には、可愛いモフモフした縫いぐるみが沢山置いてある。
「うぉっ!いいね!行こう!行こう!シュエ!」
「ああ」
店に入るとモフモフが一杯。
兎に熊に猫に犬。モフモフ触っていると一つの猫の縫いぐるみを見つけた。
真っ白な体に青い釦の目!一目惚れだ!!可愛い!!しかし!今日はイデア様のプレゼントを買いに来たのだ!
しかし・・
名残惜しくて値段を見た・・ぅぎっ・・・クソッ・・・・チクショウ!! 何でこんなに高いんだよ!宝石でもついてるのか?!
一通り悪態をつくと、 気を取り直してイデアへのプレゼントを選ぶ。
え〜と・・イデア様のプレゼント此方の白い兎にしよう。
可愛いし値段も手頃だ。
「ユリナ!何を買うの?」
「内緒です!イデア様は?」
ユリナは、口に人差し指を当ててニッと笑う。
「えっ!内緒よ!」
イデアもニッと笑い、少し離れた所で品定めを始めた。
「決まったか?ユリナ」
シュエが、ユリナにこっそり聞いた。イデアに聞かれないように。
「うん!すぐ支払いする。そういうばイデア様お金持ってるの?」
後半は声をあげてイデアに聞く、他の客は迷惑そうだ。
・・・ごめんなさい。
「お兄様に貰ったから。心配しなくていいよ」
「ならよかったよ。ああ。はい。シュエ!」
ユリナは、小さいくて四角い紺色の箱をシュエに手渡した。
「これは?」
シュエは受け取り箱を開ける。中には小さな、青い宝石のついたピアスか入っていた。
「今日お礼だよ。この店装飾品も売ってたから、宝石ついてるけど小さいから私でも買えたんだ。
イデア様の侍女になって給料上がったしね。」
シュエは今しているピアスを外し、ユリナに貰ったピアスをつける。
そして今までしていたピアスを、藍色の箱に入れて箱を内ポケットにいれた。
「ありがとう。大事にする」
シュエは、幸せそうに耳をさわりユリナを見る。
「どういたしまして」
ユリナは、シュエを見ながら楽しそうに笑った。
「ユリナ!会計終わったよ!行こう!」
イデアがユリナを呼ぶ。呼ばれたユリナはシュエの手を握りしめてから、イデアに向かって歩き出した。
「うん!」
店を出ると、三人は町をブラブラ歩く。
途中ユリナはスリにあい 財布をスラれかけたが、シュエがガードして無事だった。
スリを働こうとした男は地面にキスしている・・顔は血みどろだ。
シュエが、思いっきり殴ったせいで・・・・・
三人かわ広場まで来ると、歌が聞こえてきた。
人混みで近寄れず、遠目で分かる事はのは全身を白い布で覆った成人女性らしき者が、立っている事だけだ。
砂漠に住む女性が肌を守るために着るような、そんな衣装を身に纏っている。
耳を済ますと、綺麗なソプラノが辺りを満たしていた。
「むかし むかしの物語。世界の神が 、異界の神に懇願す。力を貸していただきたい 。
虚無の民が命を奪う 行きとしいけるものを食い尽くす。
命が消える 命が消える 、救うためには巫女がいる 。
清く強く優しい魂 、希望と未来と光を秘める美しき魂 。
異界の民の魂を 、行きとしいけるものが死に絶える。 そんな未来を待つだけの 我が世界に、汝が世界の魂を 我が世界のに 。
どうか 、 どうか 魂を 、異界の神が汝の世界に盟約す 、 哀れな汝の世界のため。兄弟世界の 我が魂を 、汝が世界に譲ろうぞ !しかし 異界に渡るのが 叶うものは魂のみ !我が世界の死した命の魂を !汝が世界に届けよう 長き時がたとうとも 汝が世界に届けよう !」
ユリナは何とも言えない顔になる。
凄い!物語になっている。なんか変な感じだ。
・・・なんだろう・・・・この感じ・・・
ユリナがイデアを見ると、イデアも何とも言えない顔をしていた。
「イデア様・・私・何か変な感じだ」
「ユリナ・・・私もよ・・・」
シュエを見ると、彼は普通の顔をしていた。回りも同様だ。
何故・・・私達だけ・・・・・
「何を言っているかは分からないが、美しい歌声だな」
シュエの言葉に、ユリナとイデアは驚く。今・・何て言った!
「「え!」」
ユリナとイデアには、普通に理解できる言葉だった。
ユリナ達は、共通語だと思っていたが違うみたいだ。
暫くして歌が終ると、ワッと拍手が起こる。
女性の回りを硬貨が舞って、女性の回りはお金だらけになっていた。
凄いな・・・・・
女性を何となく見ると、こちらをジッと見ている。
ユリナとイデアは固った。
何故か動けない。シュエはユリナとイデアが固まる事を不思議に思い。
「どうした・・・何だ・・・」
シュエがユリナにどうしたのか聞こうと口を開いた時。
先ほどまで、歌を歌っていた神族の吟遊詩人が、人を掻き分けてユリナ達の前まで来る。
三人の前まで来ると、止まって口を開いた。
「地球の方ですか?」
ユリナとシュエの方は見もしないで、イデアに問いかける。
「はい・・前世が日本人で・・・・」
神族の吟遊詩人は、ホッとした声を出した。
「日本。地球にある国ですね。神に伺っております。ようこそ異界の巫女。長い 長い間お待ちしておりました」
神族の吟遊詩人の言葉に、イデアは驚いて声を上げる。ユリナは絶句した。
「え!どういうこと!」
吟遊詩人は、緩やかに言葉を紡ぐ。
「話は後にいたしましょう。この国の王と話さなければ。王宮に参ります。緊張するでしょうが私がついていますから・・・・・」
イデアは、吟遊詩人に身分を明かした。
町娘にしか見えなくて、ごめんなさい。
「あの・・ね・・私はこの国の第二王女だから、大丈夫よ」
吟遊詩人は、ビックリして目を見開いた。そんなに驚かなくても・・・・・
「え?第二王女?王女ならもっと早く見つけられたのに!巫女は平民だと神が言っていたのに・・・・・」
悩み出す吟遊詩人に、イデアにイデアが言う。
「転生前は平民だよ」
前世は間違いなく平民です!だから間違ってないよ!
「・・そう言うことですか・・・」
吟遊詩人は納得してくれた。よかった・・・神様 嘘つきにならなくて・・
「行きましょう・・・その前に・・・・・」
神族の吟遊詩人はユリナの前に立ち止まり、ユリナの胸に右手を置いた。
吟遊詩人の目は、ユリナに対する嫌悪に満ちた目をしている。
吟遊詩人が手を離すと、手の中に丸い灰色の光が現れ揺れていた。
その丸い光の回りには、金の粉のような光が舞っている。
瞬間。ユリナは倒れた・・・がシュエが慌てて受け止めたので、地面に激突は免れた。
シュエがユリナを揺するが反応がない、意識を失っているようだ・・・・・呼吸もしていない!
「ユリナ!ユリナ!ユリナぁぁ!」
シュエがどんなに叫んでも、ユリナはピクリともしない。
そんなシュエを無視して、神族の吟遊詩人は何事も無かったように呪文を唱える。
「穢れた異界の魂に!纏う神の粒子たちよ 我が元に!」
灰色の丸い光に纏う、金の粉のような光が、灰色の丸い光から離れ神族の吟遊詩人の左手に集まる。
それを、イデアに近づき彼女の胸に入れた。
「巫女様。これは穢れた魂に奪われていた貴女様の力です。
これで巫女様は本来の力を発揮出来ますよ。では行きましょう。この魂は冥界に送ります」
彼女は、灰色の光を汚そうに見ながら吟遊詩人は呪文を唱えた。
「魂を神の身元に・・・・・」
灰色の光の正体に、気づいたシュエが吟遊詩人に叫ぶ。
「まて!止めろ!」
シュエは叫びながら止めようとしたが、吟遊詩人の手の中に合った魂は跡形もなく消えてしまった。
・・辺りにシュエの叫び声が響いく。
「ユリナぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ユリナは消えた。
そのシュエはユリナの身体にすがり付き泣き叫び、イデアは呆然と立ちすくむ・・・・・
神族の吟遊詩人は笑う。いい気味だと・・・・・
どうでしたか?
主人公が死ぬという衝撃の展開です。
ユリナはどうなるのか・・・・・
次も宜しくお願いします!




