帰ります!
あれから半月。
国宝の返却の旅が終わり、祖国に報告しないといけないのを綺麗に忘れて、ユリナは呑気に図書館で本を読んでいた。
シュエとグレルも、ユリナの隣の椅子に座って本を読んでいる。
三人がのんびりと読書を楽しんでいると、ギイイイと音をたてて図書館の扉が開いた。
現れたのは、漆黒の髪を腰まで延ばした美青年だった。
彼は魔王。この城の主だ。
青年に見える彼は、青二才と言うわけではない。
結構年をとっている。
魔族は子供のうちは人族と同じペースで年をとり、大体20才前後で老いが止まるらしい。
青年期は300年から800年。魔力が高ければ高いほど青年期が長いらしい。
魔王は、346歳。結構じいさんだった。
ユリナの失礼な考えを知ってか知らずか、魔王がスタスタとユリナ達に近づいてくる。
ユリナが内心ビクついていると、魔王はユリナの前で止まり口を開いた。
「残りの五百体の確保が出来た。直ぐに食べたいか?」
魔物の肉の話だったらしい。ビビって損したよ!
ユリナは、笑顔前回で魔王に叫んだ。
「え!もちろんです!」
ユリナがそう言うと、魔王が仄かに笑い(最近。良く笑いかけてくるようになり、何故かドレスを持ってきたり、装飾品等を何時もくれる・・何故だろうか)ユリナ達を、肉の待つホールに案内してから急いで執務に戻って行った。
かなり忙しい、仕事の合間を縫って来たようだ。
そして、ユリナは目の前に広がるご馳走の前に座り、パンと手を合わせる。
「いただきます」
ユリナはそう言うやいなや、ガツガツガツと肉を胃袋に納めていく。
そして、何処かの大食いファイターの様に、あっと言う間に肉料理を平らげてしまった。
「ご馳走さまでした!」
元気よくユリナが 手を合わせると、いつの間にか仕事を終えた魔王がホールに戻ってきていた。
仕事早いな・・と思ったが、魔王の背後にいる宰相が涙目なので、最低限しかしないで戻って来たようだ。
ユリナが宰相を憐れんでいる間に、魔王はユリナの直ぐ側まで来て、ニコリと笑う
「満足したか?」
「満足です!」
ユリナは笑顔でそう言うやいなや、ガバッと立ち上がりる。
そして、貴族の令嬢の様な優雅で洗練された仕草で魔王にお辞儀をした。
因みに、この仕草はマグダリア王妃の真似っこだ。
「では。おいとまします。さようなら」
ユリナがそう言って普通にホールを出ようとすると、魔王が慌ててユリナを止めた。
「ちょっ!待て待て!」
「?」
ユリナが首をかしげると、魔王はユリナに叫ぶ。
「いきなりすぎだ!今宵、舞踏会を開く。そこで、皆に挨拶をしてからにしてくれ!」
「・・・しかたないですね。では、私は部屋に戻ります」
魔王の台詞に、ユリナは不満な顔をするが頷く。
シュエとグレルは黙ったままだが、魔王を睨み付けていた。魔王が何か気に入らないらしい。
「ああ。後でドレスを運ばせるから服の心配はいらない!準備が出来たらメイドを寄越すから待機していてくれ」
「はい。分かりました」
そして、客室に戻って来たユリナは、面倒くさそうな顔でシュエとグレルに言った。
「シュエ!グレル!ゼルギュウムに帰ろう」
「え!」
「いいのか?」
シュエとグレルは(魔王に逆らって良いのか)と言う意味でユリナに聞いたのだが、ユリナの耳には(もうこの国に用は無いのか)と聞こえたらしい。
魔王とは、ここ数週間頻繁に会っていたので、偉い人と言う意識が薄れたのが原因だ。
「観光したし、肉も食べたし、本も好きなだけ読んだし、この国にもう用はないよ」
「了解」
「とりあえず。馬車を回収しなければな」
ユリナが命じれば、国家反逆罪すら行うユリナ信者の二人は頷き、荷物を纏める。
荷物の片付けは、シュエが普段から整理整頓していたので、直ぐに終わった。
「ところで、どうやって逃げるんだ?」
グレルがユリナに聞くと、彼女はバックから魔法陣を取り出した。
クシャリとつぶれてはいるが、伸ばせは問題ない。
「使い捨ての転移を使ってタンペット先生の家に転移。ってかタンペット先生の転移陣しかないから選択肢が無い」
ユリナがそう言うと、グレルは荷物をかるい。音をたてずに馬屋に向かう。
そして、三人が連れてきた馬を回収し、シュエはユリナを連れて馬車に乗り込む。
グレルが馬を馬車に繋ぎ、魔法陣を地面に敷いていると、何人もの兵士が走って来た。
どうやらドレスを持ってきたメイドが、魔王にユリナ達が居ないと報告したらしい。
追いかけてくる、沢山の兵士の背後には魔王もいた!仕事しろよ!
「ユリナ様!お待ちください!」
「ユリナ様!」
「ユリナ様を捕まえろ!」
「ユリナ様!」
「馬車が光ったぞ!」
グレルが馬車に乗り込むと、ユリナは慌てて魔法陣を発動させた。
バアアアと馬車は光。そして、消えて行った。
アッと言う間の出来事だった。
「ユリナァァァァ!!」
辺りに、魔王の悲痛な叫びがこだまする。
買い物の時。ユリナにつれ回されていた魔王の側近は、項垂れた魔王を慰めようと口を開いた。
「行ってしまわれましたね陛下・・・陛下?」
側近は、幽鬼の様にユラリと立ち上がった魔王の目を見て震え上がった。
激怒している!!
「ふざけるな・・くそっ今に見ていろ!お前の素性は分かっているのだからな!必ずや・・・必ずや我が妃に!!」
「えええええ!!陛下!何を!陛下!お考え直しを!!陛下!」
妃!?妃って言ったか!側近は必死で魔王を止めようと叫ぶが、魔王は全く聞いていない。
あの女が妃になれば、発展はするが、国庫が空になりそうだ!!
「まず始めにマグダリアと国交を持つためには・・ハヤワーン王に・・」
「陛下!!!」
結局。側近の叫びは、最後まで魔王の耳に響く事は無かった。
ユリナさん逃げました!
しかし・・逃げた先で・・
アンフェールの話はこれで終わりです!次は最終章!!
そして、次の投稿は10月19日です!




