グレル。怒られる
グレル君の話です!ユリナちゃん達は出てきません!
「イグ様!俺町に行ってくる!」
マグダリア国王太子。イグニス・シス・マグダリア。
彼は深紅の瞳と深紅の髪を持ち、軍人の様な鋭い顔をしている。
イグニスは自分の婚約者へ手紙を渡しに行ったグレルが、池から出てきたと思えば、そのまま町の方に行こうとした事に腹が立った。
返事を寄越せ!イグニスは、素早くグレルの頭を掴み、池の水に顔を押しつけた。
「うわっぷっわっ!何するんだよ!」
グレルは慌てて身をよじり、イグニスの手から逃れた。危うく溺れる所だった・・・・・
「喧しい!イデアの手紙は!?何で町なんだよ!渡すもん渡せ!」
イグニスが叫ぶと、グレルも叫ぶ。
「後で!今持ってない!」
イグニスは、青筋をたててグレルを怒鳴った。
「何しに行ったんだ!」
イグニスに怒鳴られたグレルが、イグニスに叫ぶ。
「手紙は渡したよ!町で買い物したら直ぐにまた、イデア様の所に行くから!」
「何しに行くんだよ!」
「お菓子を買いに行く!」
「はあ!?菓子!?何で!」
イグニスは、不思議そうな顔をしてグレルを見る。
お菓子!?
「じゃあ!夕方には帰るから!行ってきます!」
「おっおい!待て!」
グレルは、イグニスが止めるのも聞かずに去って行った。
それを、イグニスは唖然と見送る。
「イグ様?グレルは?帰ってきたんでしょ?今度は何処に行ったんですか?」
侍女のガイラが、室内からお茶を持って出てくる。
「町に菓子買いに行くってさ。何なんだいきなり・・・・・」
苦笑するイグニスに、ガイラが笑う。
「グレルは甘いもの好きですから」
「それにしたってな・・・」
そして・・町に降りたグレルは、片っ端から菓子を買い漁った。
騎士が大量の菓子を抱える・・そんな光景は物凄く目立った。
だか、彼は気にしない。
グレルは幾つもの菓子屋をまわり、色々な種類を少しずつ買った。
マグダリアは北の寒い土地で、果物や野菜か殆ど育たない。
故に輸入に頼っている。しかし、隣国から入ってきた果物は、干したものや砂糖浸けが殆だ。
ゆえに、この国の菓子はパイよりクッキーが多い。
雪で出歩けなくなる冬は、みんな家でできる編み物や刺繍をするので、輸出品は絨毯や布だ。
今は夏なので、珍しい生の果物が売っていて、それを使った色々な種類の菓子がある。いい季節だ!
グレルは粗方買い漁っると、急いで城に戻って行った。
後日・・騎士が必死で、菓子を買い漁る姿はとても異様な姿だったらしい。
そのせいで、グレルは町で長い間(砂糖騎士)なんてあだ名で呼ばれる事になる。砂糖って!せめて菓子にしてくれ!
グレルは城に戻ると、直ぐ様 池に飛び込もうとしたが、イグニスに止められた。
「まて!もう、夕方だぞ!こんな時間に訪ねるな!」
イグニスが走って池に駆け寄り、グレルの首根っこをひっ掴む。
普通。貴族令嬢の家などを訪ねる時は、朝から昼にかけての時間帯に訪ねるのが礼儀だ。
夕方などに訪ねるのは、失礼な事である。
捕まれたグレルは、池の側に落とされてイグニスから説教を受けた・・・・・長い!
「分かった!分かったよ!明日行きます!」
「分かったならいい・・・・」
その時。三階から怒鳴り声が!
「イグニス様!また執務をサボりましたね!」
上から文官が凄い顔で・・イグニスはゲッと呻いた。
「うわっ!ヤバい!じゃあな、俺は行く!」
イグニスはそう言うと、全速力で走り去って行った。
「イグニス様!逃げるなぁぁぁぁ!」
三階にいた文官が、すごい早さで追いかける。
気にしないでおこう・・・・・恐いし
一人残されたグレルは、側に置いていた菓子を抱え込み、王宮内の護衛騎士の宿舎に帰る。
途中。村を出るときに、何故か付いてきた幼馴染み、ガイラが声をかけてきた。
彼女は今、王太子付きの侍女をしている。明るく機転がきき、人付き合いの得意な性格の上に、キラキラした金髪と濃い翠の瞳を持っていて、誰もが振り向く妖艶な美しさを持つ彼女は、男女問わず城内で好かれている。
「グレル!今日はもう終わり?あら?凄い量ね・・・お腹壊すわよ?」
ガイラは廊下で、大量の菓子を抱えたグレルを見つけて呼び止める。
呼び止められたグレルは、ガイラの方を振り向いて立ち止まった。
「ああ。俺が食べるんじゃなくて、明日ゼルギュウムに持って行くんだよ」
グレルは嬉しそうに笑う。
「イデア様?そんなに食べるの?」
ガイラは大量の菓子を見て、実はイデアが巨漢だったとかならどうしよう!と考えた・・・・上手く誉められるかしら・・・デ・・いやフクヨカな女性に対する、誉め言葉は何だろう。
「いや・・これはユリナに・・」
ユリナ・・ユリナ!ユリナですって!あの女が!
彼女は侯爵家で働いているはずだ。何故、王宮にいるのか・・煮えくり返る心を隠しニコリと笑ってグレルに聞く。
「ユリナ?あの子侯爵家で働いているんじゃなかったかしら?」
グレルは、嬉しそうにガイラに笑う。幸せそうだ・・・・・
「俺もそう思ってたんだけど、今はイデア様の侍女をしてんだってさ!そんでお菓子をやる約束したから・・どれが気に入るか分からないから、色んな種類を買ってみた!楽しみだな!!」
心底嬉しそうにするグレルを見てガイラの心中は大嵐!
ユリナ・・愛しい愛しいグレルの想い人・・もうちょっと・・マトモな子なら、グレルを諦め譲ったかもしれない・・しかし・・・あの子は、人を嫌い一人を好み、家族すら無下に扱い。
弟の面倒をグレルに押し付け、自分は他人の家に入り浸る。
幼い頃、ガイラは嫌いだが頑張って、ユリナの友達になろうとした・・・笑顔で遊ぼうと言ったら・・
「ゆりな!あそぼ!」
「むり しないでいいよ・・ほっといて・・」
ほっといては無い・・酷いよね!嫌でも空気を読んで遊ぶよね!?
彼女はこんな子なのだ。私以外に対しても・・だから友達皆無だった。
当たり前だ・・人が寄るだけで嫌な顔をするのだから・・
収穫祭も一度しか来なかった。
しかし、その一度が最悪だった。
実はグレルは、前日に村のみんなに聞きまくっていたのだ。
告白の仕方を。
皆グレルがユリナを好きなのは知っていた。
だから、明日とうとう・・・と思って皆、グレルに色々知識を吹き込んだ。
村の既婚者から若者まで・・結局シンプルが一番となったが・・
ユリナの両親にも、話はしていたらしい・・おもいっきり結婚前提だ!ユリナの両親は大喜びだったらしい・・
ガイラは・・ユリナは問題ありだが・・グレルの決めたことなら仕方ない・・・キッパリ諦める・・ハズだった。
ユリナを転ばしたのは、此れからグレルと幸せになるユリナへの・・ちょっとした意地悪だった・・・なのに・・・あの状態で堂々と断り・・・
しかもその日の内に、村を出るなんて・・まるでグレルが悪者ではないか!
しかも、戻ったと思えば他に男が・・・・駄目だ!ユリナなんかにグレルは渡せない!
ガイラは荒れ狂う内心を隠し、グレルに笑いかける
「そう・・グレル、一緒に夕食食べない?私今から休憩なのよ」
「おう!俺も今から食べようと思ってたんだよ!これを部屋に置いたら行くから、先に行っててくれ」
ガイラはとたんに、パアッと明るく笑う。ルンルン気分だ!
「分かった!待ってるわ!」
「おう!」
走り去るガイラを見送り、グレルは自室のある宿舎に向かう。
明日を思うと・・・・・顔がニヤけてしょうがない!
「本当に楽しみだ!」
グレルはホクホクしながら、急いで自室に向かう。
グレルは自室につくと、菓子を入口近くに置いてから、食堂に行く。
今は、夕食時なので食堂はとても賑わっていた。
カウンターで、シチューとパンを頼むと、直ぐにおぼんに乗せられて出てくる。
それを持ってキョロキョロしていると・・・・・
「グレル!ここよ!ここ!」
ガイラが、席に座ったまま手を振る。グレルはガイラを見つけると、そのままガイラの隣に座った。
「サンキュー!お前が居なきゃ座れなかったぜ!」
グレルに笑顔をむけられたガイラは、嬉しそうに頬を染めた。
「どういたしまして!」
それから、二人は談笑しながら料理を食べる。
暫くして人が減ってきた時、ガイラは意を決してグレルに聞いた。
「所でグレル・・ユリナの事だけど・・・・・」
伺うようにガイラが聞く、するとグレルは蕩けそうな、幸せそうな顔をしながら・・やっぱりまだ好きなのね・・・・
「ユリナは変わってなかった・・・可愛いかった・・侍女服も似合っててさ!」
そこはどうでもいいよ!
ガイラはグレルの、ユリナ賛美をバッサリ切り捨てた。
「侍女服なんてどうでもいいよ!!ユリナは結婚してないの?シュエだったけ?あの人・・・・・」
グレルは、目に見えて落ち込んだ。あ!結婚したのかな!ウフフフ!
「確かめてない・・・でも・・・愛人でもいい・・・・・」
おい!愛人でもって!ガイラは心のなかで突っ込む。
「二番でもいい!ユリナの側にいられればいい!それに・・・・」
グレルは服をはだけさせて、胸の魔法陣をガイラに見せた。
そこには、白い魔法印が・・・・・
魔法印とは魔術士の認め印みたいなもので魔術士一人一人違う。
ユリナは風の魔術士。なので、風の属性色の白で魔法文字が刻まれる。
グレルの胸の模様は、白いリンゴの紋章が刻まれた。
魔法印は、真相心理で最も好む物が自然に刻まれる。
女性は花が多く、男性は強そうな獣が多い。
ユリナは、食い意地が張っているらしいく食べ物だ。
魔術契約をする場合、その紋章を刻まれる。
グレルの胸にはユリナの紋章が刻まれていた。
それをガイラに見せると、ガイラは驚愕して目を見開く。
魔術契約ですって!!
「それ・・・・・まさか!」
「ユリナと契約したんだ。逆らわず裏切らないってさ」
ガイラが怒鳴る!残っていた騎士達は動けない。怒れる美人は恐ろしい。
「馬鹿!何それ!魔獣契約じゃない!ユリナは何を制約したの?・・・・・まさか!」
グレルは怒るガイラに驚いた。何で怒るんだ?
「ユリナには制約課してない。俺だけが誓った。だってユリナ縛られるの嫌いだし・・・・・」
「やっぱり!ユリナに制約させてないのね!それじゃ奴隷みたいじゃない!」
ガイラの怒りはヒートアップする。
回りは、恐ろしくなって逃げ出していた。
食堂は今、ガイラとグレルの二人だけだ。
「奴隷・・ユリナの奴隷ならいいかも・・・・・」
うっとりして呟くグレルを、ガイラは腕を引っ張り立たせた。食器を放置して急いで食堂を出る。
「ガイラ!?どこ行くんだ!」
ガイラは怒鳴る。入り口にいた野次馬は蜘蛛の子を散らすように消えていった
「黙ってついてきて!」
ガイラはグイグイとグレルを引っ張り、竜騎士団の団長室に連やって来た。
ドンドンと乱暴にノックすると、ガチャリと扉があき団長が出てくる。
「団長!助けてください!」
ガイラが叫ぶ。どう見ても乱暴に引きずられ、服が汚れまくってるグレルの台詞なのに・・・・・・取り敢えず。
「中に入れ。話はそれからだ」
団長は、扉を大きく開けて二人を部屋に招き入れる。
団長室は主に面談や執務をする部屋なので机と椅子、それからソファーが置いてあった。
団長は二人をソファーに座らせ、団長室で執務を手伝っていた副団長と一緒に向かいに団長が座る。
「で、どうした?」
ガイラはグイッとグレルの服をはだけさせて、魔法印を見せる。
すると、サッと団長の顔色が変わった。
「グレル・・・説明しろ」
「魔術契約です!何かガイラが怒っちゃって」
グレルが言うと、団長は魔法印を凝視する。
「魔術契約か?制約は?」
「未来永劫けして裏切らず、逆らわない事をちか・・・・いって!」
ガコン!グレルは副団長におもいっきり殴られた。
涙目になりながら、グレルは副団長を見る。
「何するんですか!」
「君。それはまるで奴隷契約じゃないですか!王太子の近衛がしてい契約じゃないですよ?」
怖いな・・・・・この人
団長は厳しい顔で、グレルの顔を除き混む
「逆らわずが不味いな・・・そいつに王太子殺せって言われたらするだろ?」
団長が、試すようにグレルを見る。
「ユリナは絶対しないです!もし言われたら自害します!イグ様には迷惑かけません!」
グレルは自信満々に言う。
「ユリナはどんな方ですか?」
ユリナについて、副団長が聞いてきた。グレルは考えながら口を開く。
「臆病で、人嫌いで喋るのが嫌いで、人付き合いが下手で、名を覚えるのも下手で、気が利かなくて不器用で足が遅くて・・・・・」
オイィィィィィ!団長と副団長は心のなかで突っ込む。
良いとこ無いのか!!
「良いところは?」
グレルは、嬉しそうに答える。
「可愛いところです!」
団長はガイラの方を見る。グレルは駄目だ。
変なフィルターがかかってる。
「顔は並みです。ちょっと可愛い程度です。」
恋は盲目・・怖いな恋は・・・
「それより!団長!副団長!この契約破棄できませんか?」
ガイラは必死に団長達に、すがるような目をむけた。
だが団長達は首を振る。
「契約破棄は契約をしたものにしか出来ない。グレルが破棄しなければ無理だ」
ガイラは項垂れる。そんなガイラの肩を軽く撫で副団長は慰めた。
「そんな・・団長ならって・・・・・」
「ガイラ・・・グレル!考え直してください!」
しかし、グレルはキッパリと。
「嫌です!ユリナは俺の全てですから!」
瞬間。ワアッとガイラが泣き出した。
副団長は、ポケットからハンカチを取りだし、ガイラに渡す。
「ガイラ・・・」
「うっうっうああん!ユリナなんか大嫌い!」
グレルは、泣きながらユリナの悪口を言うガイラに、文句を言おうと口を開く・・事はできなかった・・副団長こわっ!
「グレル。もう帰れ・・イグニス様には魔術契約の事。自分で言えよ。」
蛇に睨まれた蛙 状態のグレルに、団長がしっしっと追い払う仕草をする。
グレルは大人しく立ち上がり、扉に向かい静に扉を開く。
そして、グレルは小声で団長に言った。
「失礼します。あと皿は片しておくと伝えて下さい。では」
カチャど扉が締まると、直ぐ様部屋に大声が響く。
「ぐっグレルぅー!うっぐヤッパリ私の事なんてぇぇぇぇ」
聞こえない・・なんにも聞こえない!
グレルは直ぐに食堂に戻り、二人分の食器を片付けてから自室に戻った。
部屋に戻ったグレルが寝ようと、ベッドに入る。
すると、グレルの部屋の扉をドンドン叩くやつがいたので、グレルは軽く殴り静にさせた・・・
ガイラは人気者だから、多分明日には城中の人間に詰め寄られるだろう。
直ぐに着替え(かえり血でベットリなので)ベッドに入った。
明日は大変だ。グレルはそう思いながら、直ぐに深い眠りに落ちる。
その日の夢にユリナが出てきて、グレルは幸せな顔で笑った。
明日はユリナと、お茶ができるといいな!
ユリナと・・・・・
どうでしたか?ガイラちゃんは此れから色々とやらかします!
次はユリナ視点に戻ります。




