見合いの相手その②が現れた!
水の長が、ラピスの家を訪ねた日から数日間。
ラピスは、見合いを断るために行動を開始した。
最悪な貴族の中で、更に最悪な部類の奴等には、必ず後ろ暗い事があるはずだ!
ラピスはテディを使い、出来るだけ多くの情報を収集していた。
犯罪の証拠でもあれば、即座に水の長に匿名で送りつけてやる!!
ラピスがそんなことを考えながら、森でテディを待っていると・・血塗れのテディが、ヨロヨロと飛びながら近づいてきた。
しかしテディは、途中で力尽き地面にドサリと落下する。
「テディ!」
ラピスが駆け寄ると、テディは小さくピキッと鳴く。
そして動かなくなった・・・死んでしまったらしい・・・
ラピスが目に涙を浮かべ、テディを抱き締めていると・・
ガサリと音を立てて、一人の男性が現れた・・見合いの相手その②だ!
「ああ・・これは貴様の契約獣か・・」
「何で・・」
テディは隠密が得意で、鼻も効く。バレる訳がないと考えていたが・・見合いの相手の背後を見て納得した。
風竜の契約獣がいるなら・・何処に居ようと匂いでバレる。
「我が家を嗅ぎ回っていたから殺した・・何者だ貴様は」
「・・・・」
ラピスは、テディを抱きしめながら男を睨みつつ、頭をフル回転させた。
早く逃げなければ殺される・・
ラピスがゆっくり立ち上がり、ソロリと後に下がり逃げようとすると、男性にガシッと腕を掴まれた。
男性はラピスの腕を掴むと、ラピスを睨み付け恫喝する。
「・・・言え!」
「イタッ・・ラピス」
痛みに堪えきれず、ラピスが自分の名前を口にしたのだが、名前を口にしたのにも関わらず、ひねり上げる腕を離してくれない。
「貴様がラピスか・・・・我が家の財産でも物色してたのか?」
見合いの相手その②は、侮蔑に満ちた顔でラピスを見下す。
物色していたのは財産ではなくて、犯罪歴だ・・
「違う!どんな人か調べようと・・・」
ラピスはそう言って反論するが、男性は反論すらも気に入らないらしい・・
ラピスの腕をひねり上げる指に、更に力を込めた。
「・・尻軽のくせに・・」
「痛い!痛い!」
ラピスが叫ぶが、男性は意にかえさない。暫くそうしていると・・・
男性は、ハッと何かに気付きラピスを睨み付けた。
「まさか・・この前の話も聞いていたのか?答えろ!」
ギリリッと男性がひねり上げると、ラピスは泣きながら頷いた・・骨が折れそうだ。
「・・いっ・・はい・・・」
ラピスが頷くと、男性は力一杯腕をひねりあげる。
その時。かなりの激痛と共に、腕がボキッと音を立てて有り得ない方向に曲がった。
腕が折れたみたいだ・・死ぬほど痛い・・
そして、ラピスの腕をへし折った男性は、ラピスを睨み付けながらドスの効いた声でラピスを恫喝した。
「いいか!長やアルジェント様に見聞きした事を教えたりなどすれば、貴様の両親共々殺す!
いいな!それと・・この見合いは断れ!断らないと貴様の両親を殺す!いいな!」
「はい・・」
男性はラピスが頷くのを確認すると、ラピスを固い地面に放り投げ足早に去っていった。
男性が完全に見えなくなると、ラピスはテディに駆け寄る。
ラピスは無事な方の腕で、テディの遺体を抱きしめると涙を流した・・
「テディ・・ごめんね・・・」
数分後。
シルクが草木を掻き分けて現れた。元々シルクと逢うために、ラピスはこの場を訪れていたのだ・・・・
いつも道理の時間に来たシルクは、うずくまるラピスを見て不思議に思いながら近づく。
するとそこには、血塗れのテディがラピスの腕のなかにいた・・テディはピクリともしない。
「・・ラピス?どうした・・テディ!?テディどうしたの!」
「私のせいで・・死んじゃったの・・」
シルクに気付いたラピスは、泣きながらシルクに言った。
テディはラピスとって、家族以上の存在なのだ。
しかも、自分が危ない事を頼んだせいでこんな事に・・・・
「・・大丈夫!まだ息はあるよ!風の癒しを・・」
シルクは、ラピスに抱き締められたテディの呼吸を確認しすると・・微かに呼吸をしていた。
まだ助かる!!
シルクはラピスからテディを受け取り、回復魔術を施した。
シルクが呪文を口にすると、穏やかな風がテディを包み込む。そして・・彼の傷がみるみる癒えていった・・
「ピギャ!ピギャピギャ!!」
傷が癒えたテディは、意識を取り戻してラピスにすりよってくる。心配させてごめんね!と言っているようだ。
そしてラピスは、嬉し泣きしながらテディに抱きしめる・・良かった!!
「テディ!!シルク!ありがとう!」
ラピスは、テディを抱きしめながらシルクに笑う。
シルクには・・感謝しても感謝しきれない・・・
シルクが優しく笑いながら、涙を流すラピスの顔をハンカチで拭いてから、ラピスの頭を優しく撫でた。
その時。シルクがふとラピスの腕を見ると・・・
「ううん。良かった。助けられて・・・ラピス!君の腕・・折れてるじゃないか!風の癒しを・・・これでよし。
・・それで?何があったの?
僕に話せないなんてないよね?」
シルクが笑顔でラピスをジーと見る。ラピスは言葉に詰まった・・・
「うっ・・え~と」
「ラ・ピ・ス?」
シルクが更に笑顔でラピスに言うと、ラピスが音をあげた。
「言うわよ!言えばいいんでしょ!」
そしてラピスが、状況を説明すると・・シルクは凶悪な笑顔で呟いた・・・
「・・アルジェントとオール・・殺そうか?」
シルクが、洒落にならない顔でそう言った。
すぐさまラピスは、必死でシルクとめる・・マジでヤバイ!!殺りそうだ!
「ちょっ何言ってるのよ!返り討ちになるよ!シルクが死んじゃったら・・う゛・・」
ラピスは、リアルに殺されたシルクを思い浮かべてしまい。再び泣き出してしまった・・
シルクは泣き出してしまったラピスを、慌てて宥める。
「ちょっ泣かないで!ラピス!大丈夫だよ!僕は強いからさ」
シルクがエッヘンと胸を張る。
ラピスは、そんなシルクを見てクスクスと笑った・・・子供みたいだ。
「そうだよね・・シルク・・風の上位竜種だもんね」
そう・・・
亡くなった長老とラピス以外誰もしらないが、シルクは風の上位竜種。
しかも、長に匹敵するほど強い魔力を持っている。
確かに、心配するだけ無駄かもしれない。
ラピスが笑っていると、シルクが突然真剣な顔になり、真っ直ぐラピスを見ながら口を開いた。
「ねぇ・・ラピス・・僕のお嫁さんにならない?」
「え!」
ラピスが驚いて目を丸くしていると、シルクは優しい笑顔で語り始めた。
「僕はずっと君が好きだった・・君は臆病者で優くて人付き合いが苦手で・・そして・・人と話すのが苦手な僕にいつも笑いなが話しかけててくれた・・
自分も苦手だからって・・
皆が馬鹿にする魔術研究も、君は凄いって言ってくれた。
僕はさ・・これからの長い竜生を君と生きていきたい・・そして世界を巡って旅をしよう!本や昔語りの真実を探しに行こう!・・・嫌?」
シルクがそう言ってラピスを見る。すると・・・ラピスはちぎれんばかりに首を振った
「・・嫌なわけない!!一緒に行こう!」
ラピスはシルクに抱きつきながらそう叫ぶと、シルクは安心したように笑った・・断るわけ無いのにね・・・
「ありがとう・・ラピス」
「ありがとう・・シルク」
二人は暫くの間抱きしめ合う。
二人に存在を忘れ去られていたテディが、いい加減にしろ!とシルクの頭を攻撃するまで二人の抱擁は続いた。
その日の夜。
夕食の直後(夕食前に話すと夕食抜きになりそうだから)に意を決して両親に話しかけた。
「お父さん。お母さん。話があるんだけど・・・・」
「何だ?」
「どうしたの?」
両親は、普段自分から話しかけるなんて、皆無の娘が話しかけてきたことに驚きながら口を開いた。
一応。話を聞いてくれるようなので、ラピスはホッとしながら確りした口調で二人に言い放つ。
「縁談断って」
ラピスがそう言うと、ラピスの両親は目を見開きながら口を開いた。
見合いの相手その②は最低です!
必ずや奴等には人誅が下るでしょう・・・・・アイツの手で・・・・・




