小人族
パォティス王が宰相に(宰相は悪くないぞ!)怒鳴り散らしていたその頃。
パォティス国の国境の道を、一台の馬車が走っていた。
国境の町通り抜けて、次第に岩肌が目立つようになってくると、そこはもう隣国ケントルムだ。
そして、ケントルムの国境の門番に身分証を見せる。そして、すんなり町に入れた。
因みに、ユリナ達が転移陣を使わないのは、ユリナが「転移陣を使うと旅してる気がしない!!」と主張したせいだ・・車酔いが激しいくせに!!
そして宿屋で部屋を借りてから、夕食を食べに街に出た。
街に出ると三人は食堂を探す。何故か人が少ないが、店はしっかり開いているようだ。
そして三人は、良さそうな店を見つけて中に入る。しかし店員は見当たらない。ユリナ達がオーイと呼んでみると、服を引っ張られた。
下を見ると・・膝くらいの身長の女の子(六歳くらい)が立っていた。
「御嬢さん。店の方を呼んで貰えますか?」
ユリナがしゃがみ込んで、女の子に話しかけると、彼女は自分を指差してユリナに言った。
「私が店員だよ!ヒューマンさん注文は?」
店員だったらしい・・
まあ・・平民ならこのくらいの歳になれば、親の仕事を手伝ったりするから可笑しくはない。
因みにヒューマンとは、亜人族が人間と自分達を分けるために作った造語だ。普通は亜人しか言わない・・・あれ?
「ああ。そうでしたか・・ではオススメはありますか?」
ユリナが少女に聞くと、少女は少し考えてユリナに言った。
「なら・・岩兎のシチューなんてどうだい?」
「じゃあ、それを3つ」
「あいよ!アンタ!注文入ったよ!」
・・アンタ!もう結婚してるのか!!
ユリナが驚愕していると、シュエがユリナに教えてくれた。
「彼女は・・子供ではなく小人族だ。
見たところ・・四十は・・」
シュエが、ユリナにコッソリと教えると、女性がユリナ達にシチューを持って(器用に三つ持っている)来ながら叫んだ。
「私は三七歳だよ!まだ四十じゃない!」
・・大して変わらないだろう・・・
シュエはそう思ったが、口に出すことはなかった。ああいう女性にくちごたえをすれば、倍以上のダメージを食らってしまう。
シュエとグレルとユリナは、大人しく椅子に座ると、女性がテーブルにシチューを並べた。
ユリナ達が美味しそうにシチューを食べていると、グレルがパォティスを出る時に、ユリナが書き留めた手紙を思いだした。
「そういや・・あれ・・不味くないか?」
「良いよ・・国宝は返したしさ」
「ああ問題ない」
イヤイヤ。流石にヤバイだろう・・・
聞かれたユリナとシュエは、平然と答える。
気にしない・・もしくは気にしたくないのかもしれない。
「・・お前ら・・本当に、エカテリーナ様が嫌いなんだな・・」
グレルが染々しながら言っている・・
ユリナはもう既に、パォティスに興味すらない。
ユリナが今。興味があるのは目の前のシチューだけだ。
ユリナ達は、パォティスを急いで出てきたので、携帯食位しか持っていなかった。だからこのシチューは、今日初めてのちゃんとした料理だったのだ。
ユリナは、一口食べて顔を綻ばせる・・
「美味しい!肉柔らかいよ!」
ユリナがそう叫ぶと、隣のテーブルを片付けていた先程の定員の女性が、可笑しそうに笑った。
「ああ・・岩兎って名前だから岩みたいに硬い!なんて思ってたのかい?アイツ等は皮が岩で出来てるだけで、肉は柔らかいんだよ?」
定員が岩兎について説明してくれたが、ユリナは欠片も聞いてない。
ユリナはガツガツ食べ続け、シチューをあっと言う間に間食した。
そして、空になった深皿を定員に差し出す。
「おかわり!!」
ユリナは頬に、シチューのカスをつけながら笑う。そんなユリナを見て、定員はクスクス笑いながら皿を受け取った。
「はいよ!少し待ってな」
定員がシチューを取りに奥に引っ込み、ユリナがシュエに布で顔を拭かれていると・・・
ガシャン!!ガシャン!!
奥で何かが割れる音がして、先程の女性の怒鳴り声が響いた!!
ユリナ達が、慌てて奥に駆け込むと・・
そこには・・先程女性定員と小人族らしき男性が、血塗れで倒れていた。
・・ユリナが駆け寄り首に触れる・・しかし・・もう手遅れのようだった。
ユリナは、息絶えた女性を優しく床に置き、ギロリと目の前の男たちを見る。
血塗れの剣を持つ彼らが、犯人なのは確実だ。
「シュエ!グレル!」
ユリナが叫ぶ。
すると、シュエとグレルは腰に刺していた鞘から剣を抜いた。
「分かってる!」
「ああ」
二人は素早く動くと、賊の始末を開始した。
また血生臭い話に突入です!




