舞踏会
続きの部屋に入ると、底は大ホールだった。幾つものテーブルとソファー。
そして、全員がホールに入ると穏やかなピアノの音色が響く。
ピアノの音色がホールに響くと、中央の開けた場所で、色とりどりのドレスに身を包んだ女性が、着飾った男性達とダンスを始めた。
女性達も男性達も眩しくて、ユリナは、うんざりしながら呟いた。
「舞踏会ってすごいね」
ユリナがそう呟くと、後ろにいたグレルがユリナにフッと笑う。
因みにシュエは、ユリナの横だ。
「踊るか?」
「踊らない」
スパッと切り捨てられた。まあ・・予想はしていたが・・
グレルは、心底ガッカリする。ユリナは、ガッカリするグレルを放置して、スイーツの乗った皿が置いてあるテーブルを眺めた。
食べたい!!しかし・・淑女はがっついたり出来ない。
今だけ男になりたいな・・
「・・分かったよ・・あれ食べたいのか?」
グレルは、先程ダンスを断ったユリナ怒るようすもなく(何時もの事だ)スイーツの盛られた皿を、親指で指し示した。
「お願い!」
「おう」
ユリナが嬉しそうに頷くと、グレルは笑ってスイーツを取りに行った。
その時・・・・・
美しく(若干ケバイ)着飾った女性達が近づいて来る。
かなり・・香水臭い・・
「あら?貴方は、ゼルギュウムのシュエ様ではありませんか!」
女性達の一人・・一際派手な女性が、シュエに近づく。
「メチェーリ家の!!」
「素敵な方ですわね」
どうやら回りの女性達は、派手な女性の取り巻きらしい。口は出すが、派手な女性より前に出ない。
「そちらで、お話致しませんか」
派手な女性が、シュエの腕に自分の腕を絡ませようとしたが、シュエに避けられた。
「いや。友人を待っているので遠慮する」
シュエが言うと、派手な女性が若干ムッとしてシュエを見る。色気が効かない男性は初めてらしい。
その時。両手に大量のスイーツを持ったグレルが歩いてきた。
「ユリナ。持ってきた・・公爵令嬢・・」
グレルは派手な女性。公爵令嬢を見つけると、ゲッと嫌そうな顔をした。何かされたのか?
公爵令嬢はシュエは、シュエから目を離しグレルを見る。
すると、明らかに侮辱するようにクスクス笑いながら、グレルを見下した・・嫌な感じだ。
「あら?ご友人は、成り上がりの平民でしたの?いけませんわ・・貴方様に釣り合いません。あら?貴女は?」
公爵令嬢は、今気づいたと言わんばかりにユリナを見る。ずっといたのにね・・私・・
しかし。挨拶しないわけにはいかない・・ユリナは、ドレスの裾をつまんで淑女の礼をした。
「ユリナ・ウイングと申します。」
「ウイング?聞いたことが無いわ。男爵かしら?」
知っている。彼女はユリナが平民だと知っていて、嫌がらせをしているのだ・・
その証拠に、彼女は嫌らしく笑っている・・本当に嫌な人だ。
「いえ・・平民です」
「平民?平民・・そう・・」
益々・・嫌な顔になる公爵令嬢 。
嫌な人に捕まったようだ。
その時。何か謀った様なタイミングで、中年のオッサンが近づいてきた。
「此は此はシュエ様!こちらでお話を!」
「いや私は・・・」
「グレル殿も此へ」
「ちょっと・・・」
シュエとグレルがお偉いさん(絶対公爵令嬢の親だ!髪と目元がそっくりだ)に連れて行かれそうになり、必死で抵抗していた。
「行って。騒ぎが起こればイデア様が困るから」
王家に次ぐ地位。
公爵の誘いを断れば、イデアにどんな嫌がらせをするか分からない。
「くっ!直ぐに戻る」
「ユリナ!何かあれば呼べよ」
「うん」
心配そうな二人が公爵に連れていかれ、その場を去ると・・・女性達が豹変した。
「ゼルギュウムでは、たかが平民がそんな大きな顔をするの?」
「こんな・・猿みたいな小娘がどうやって、シュエ様を誘惑したのかしら?」
「はしたなくも、体でも使ったのではなくて?」
「全く平民ごときが・・・・」
「何とか言いなさいよ!」
「・・・そうですね」
女性達に口撃されたユリナは、大人しく頷いた。肉体関係はあるので、違うと否定は出来ない。
「あら?認めるの?」
「平民は平民ですので」
ユリナは、平民と言われて怒る事が理解できない。
平民の何が悪いのか・・どこが悪口なんだろうか。
「そう・・なら平民は貴族に従うわよね?」
「・・・?」
嫌な予想しかしない・・・ユリナ無言で公爵令嬢を見上げた。
「貴女は、イデア様と中が良いのでしょ?」
「これを・・あの方の飲み物に混ぜなさい」
「・・これは・・もしかして・・・」
「毒よ」
嫌な予想的中だ!ってかそんなヤバイ話ここでするのかよ!バカじゃないのか!
「あの女・・邪魔なのよ」
「本来なら・・私が王太子妃になるはずだったのに・・・」
「命令よ殺りなさい」
「・・・お断りいたします」
本気でバカだ。
万が一。イデアとイグニスが出会わなくても、イグニスがこんなバカと結婚するわけがない。
それに・・・・
ユリナがイデアを害するなど、世界が一億回滅んでも無い。
「何ですって!」
「主を、害するなど出来ませ・・イタッ!」
ユリナは激昂した公爵令嬢に、ひっぱたかれた。命令なんか聞くわけないのに・・バカだな。
そして、騒ぎを聞き付けたグレルとシュエが、慌てて走ってきた。
「「どうした!」」
グレルとシュエが同時に叫ぶ。
そして同時に、グレル以上の声量で公爵令嬢が叫んだ。
「衛兵!この娘毒を所持していましたわ」
・・・え?
ユリナは絶句しながら、公爵令嬢を見た・・何を言ってるんだ・・
「イグニス様の食事に、毒を盛れとイデア様に言われたと言っていましたわ!捕らえて下さい!」
公爵令嬢がユリナを、衛兵につきだそうとしていると、国王夫妻とイグニス達が慌てて走って来た。
ユリナは、余りの事態に絶句しながら、どうすればイデアに迷惑がかからないか・・必死で頭を回転させた・・・
舞踏会でした!
次は・・・・・血生臭い展開です!




