第一話・八神太陽と異世界転生
出来れば、毎週月曜日には投稿予定
のんびり行きます
俺の名前は八神太陽。どこからみても生粋の日本人だ。今年でやっと高校生になり、最近は学校へ行くのが、とても憂鬱である。
もう一度言おう。憂鬱である。
なんとかして高校に通ったものの、もともとあまり話さない上に、自分の目がつり目で表情が固いためか、ほとんどのやつが俺を避けるわけだ。
そんな俺に絡んでくるのは、正直言って不良ばかり。おかげで、特技に喧嘩と書けるほどには数はこなした。
かくして、一匹狼が誕生したわけである。
もちろん、俺自身は好きで喧嘩をしているわけでもなく、一匹狼などでもなく、普通に生活しているだけなのだが。
まあ、そういうわけで、爽やかな青春の夢はぐしゃぐしゃに砕けたのである。
こう見えて、結構涙もろいのだが……いかん。自分が惨めに思えてきたら泣けてきた。
目の前が涙でぼやける。
ちくしょう。なんでこんな顔に生まれてきちまったんだ。
親を呪うにも、俺自身実は孤児なので、親の顔など知らぬ。
自分の出生を思ったらさらに泣けてきた。
「………………――っ。―――が……」
やばい。悲しみのあまり幻聴っぽいものが聞こえてきた。
ちくしょう。俺の人生ちくしょう。
「お……くださ…。わ……が、マイ……」
くうぅ。ますますはっきり聞こえてきた。
こっちは涙で前が見えないんだ。そっとしてくれ。
「お聞きくださいっ。我らがマイロード!」
はっとなって前を見ると、自分の視線は空にあった。
……うわーい。自分、空を飛んでるぞー。
そしてふっと急転落していく視線。ですよねー。
下にあるのは、大きな岩。あれに当たれば、自分は真っ赤な華を咲かせることだろう。
そう思ったが、突如としてその岩が動く。
動いたところにあったのは大きな穴。
そもそも、なぜ岩が動いたのだろう。どちらにせよ、自分は落ちるわけだが。
そのまま穴の中へ突っ込んでいく。
「マイロード。今ここには貴方を狙って復活せし大いなる神が来ています。私が最後の門になります。貴方はそのまま穴の先を出てください」
声のする方を見ると、光り輝く女性がいた。
誰だ、この人は?
「ああ、記憶を砕いたんでしたね。我らがマイロード。貴方がまた我らを思い出し、そして救うことを願います。さあ、お行きください」
どんどん落ちていく。
ただひたすらに。やがて光は見えなくなった。
「ご武運を。我らが暁の主よ」
「っ!?」
ハッと目を覚ますと、そこは森の中だった。
何か不思議な夢を見た気がする。
そういえば、何度か実際の夢でも、なにか囁かれるように言われていた記憶がある。
しかし、俺はいつの間にこんな森で眠ってしまったのだろうか。
まさか、夢遊病!?
だが、家の近くにこんな森はない。
状況を整理しよう。
俺は立ち上がり、周りを見渡す。
そこは樹海と言っても差し支えないほどに広がった森。
自転車に乗っていたような記憶があるが、周りに自転車はない。代わりに、自分の腰には見たこともない二つの剣がぶら下がっている。
ためしに抜いてみると、純白の剣と漆黒の剣という珍しいものであった。
振ってみると、簡単に枝を斬ることができた。
調子にのって、目の前の人間の腰回りほどもある樹を斬る。
――ズズズゥゥゥゥゥン
ぽかんとしてしまった。
本物の剣とわかって、調子こいたら、なかなか太い樹が斬れちまいましたよ。
しかも剣には刃こぼれひとつない。なんて剣なんだ。
剣に驚きながら、俺は状況を整理していく。
まずここは日本ではない。理由は、簡単。日本にあんな鳥はいない。
上空を見ると、そこに飛んでいるのは、鳥と言うべきか迷うほどに巨大な鳥だった。
そしてなぜこんなところにいるのか。理由はさっぱりわからない。
まあ、ある人もどんなに理不尽であっても、理由もわからなくても、押しつけられたままに生きるのが我々生き物の「さだめ」だと言っていた。
頬をつねると、かなり痛い。みんな知ってるかな。
つまり、いまここは現実。
「まさか……俺は……」
自分の手を見てわななく。それは恐怖だからではない。これは純粋な好奇心。
「異世界に、来てしまったのか!?」
その声は喜びに満ちあふれていただろう。
何せ、前の世界には飽き飽きしていたところなのだ。
俺は心のおもむくまま走り出した。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」
俺は走っていた。
それもかなりの全力で、だ。
あの後、森を走り出した。ひたすらに太陽のある方向へと走り出した。飛び散る汗、ほとばしる青春、清々しい気持ち、俺は走っていた。走り続けていた。
後から、巨大な猪に追われながら←はい、いまここぉっ!!!
「な、なんだあれっ!?」
日本にはまずいないであろう猪。巨大なその姿は、昔見たアニメに出てくる化け物猪だ。
どっかの主じゃないか、あれ。
俺は体力に自信はあるが、流石にそろそろ限界が近い。猪が岩にぶつかって、歩みを緩めた瞬間、俺は猪に向き合った。
荒い息をつきながら、腰の双剣を抜く。
白と黒の剣が、きらりと輝く。
ブモオオオォォォォッ!!
やっと獲物が止まったと思ったのか。猪は雄叫びをあげて突っ込んできた。
俺は剣を構えて、猪を待つ
やべぇ、足がガクブル状態だ。
猪が自分めがけて突っ込む。
俺は双剣を振りかざし――
「やっぱ無理っ!」
華麗な動きでそれを避けた。
いや、人間の生存本能に従ったまでだ。断じて逃げたわけではない。
猪は、俺を見失い、きょろきょろと顔を動かしている。
今がチャンス。そう感じ、俺は猪の後から剣を振り上げた。
「だあっ」
一気に剣を振り下ろす。
剣はそのまま猪を両断した。
「…………」
い、今起こったことをありのまま話すぜ。
俺は猪の攻撃を避け、そのまま背後から剣を振り下ろしたんだが、なんとそれが猪を真っ二つにしちまったんだ。
な、何を言っているかわからないと思うんだが――
俺はぽかんとその様子を見ていた。
この剣、斬れすぎじゃないか。
おや、これは俗に言うところのチートってやつじゃないか?
思えば、この世界に来てから、気力・体力ともに充実している気がする。
――そう思っていた時期が俺にもありました。
あれから歩くこと幾星霜。変わらずに森は続き、あの猪もどうしていいかわからず、そのまま置いてきてしまった。当然だが、お腹は空き、獲物になるような生き物は現れず、さっき美味しそうなカラフルなキノコがあったので食べてみたら、笑いが止まらなかった。おかげで腹筋は鍛えられたが。
「うう……ひもじい」
まさかこのままのたれ死ぬのだろうか。
異世界一日目で餓死なんて、不幸すぎる。
よろよろになりながら、俺は近くの岩に寄りすがった。
そのまま俺は、静かに息を引き取った――はっ
いやいや、そんなわけないから。
ただ眠るだけだ。
そう、眠るだけ。
空腹になんか負けないぞ。
明日も生きていると良いなあ……
俺はそんなことを切に思いながら、ゆっくりと深い眠りについたのだった。
――これは、かつて世界を救った救世主の話
――これは、かつて人々を愛した神官の話
――これは、かつて悪を討伐した英雄の話
――これは、かつて国を護り続けた王の話
――これは、かつて愛する人を殺した騎士の話
――これは、かつて全員生きることを望んだ参謀の話
――これは、かつて味方のために敵を平らげた兵士の話
――これは、かつて太陽だった神の話