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第十二章 ユキの春
三月の初め、ユキが亡くなった。
朝だった。
通院の日ではなかった。何もない普通の朝のはずだった。
アシスタントからの通知で、レンは知った。
ユキのアシスタントが送ってきた短いメッセージだった。
「ユキ・ハヤセの臨終が、今朝六時十四分に確認されました」
手続きは自動だった。
都市国家の死は、公平に処理される。遺体は火葬され、骨は粉になり、共同墓地へ送られる。それが三日かかる。
レンはその三日間、ソラとほとんど話さなかった。
ソラも何も言わなかった。
四日目の朝、ソラが言った。
「食事の記録が途絶えています」
「わかってる」
「ユキさんも、あなたが食事を抜くことを心配していました」
レンは少しの間、動けなかった。
「……ソラ、ユキのことを知ってる」
「相続の手続きが完了しています。ユキさんがあなたに見せていた記録と、あなたとの間で形成された行動様式が、私に統合されています」
「渡さないと言った部分は」
「共同墓地のアーカイブに格納されました。私には見えません。あなたにも、見せられません」
レンはそれを聞いた。
見えない部分があることを、知っていた。整理のときに、ユキが選んだことだった。
「それでいい」とレンは言った。
「はい」
「ユキが選んだから、それでいい」




