表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第八章 秋の台所

 十月の週末、ユキのところに行ったとき、ユキは台所にいなかった。

 珍しかった。いつも来ると何か作っている。

 居間に行くと、ユキが椅子に座って、目を閉じていた。

「ユキ」

 ユキは目を開けた。

「来てたか。気づかなかった」

「眠ってた?」

「眠ってはいない。少し目が疲れて、閉じてただけ」

「体調は」

「問題ない。薬も飲んでる」ユキは椅子から立ち上がろうとして、少し手が震えた。

 レンは何も言わずに、台所に行った。

「何か作る。座ってて」

「あなたが作るの?」

「作れる」

「何を」

「卵とトーストなら」

 ユキは少し笑った。「じゃあそれで」


 卵を焼きながら、ソラに小声で聞いた。

「さっきの手の震え、気になった?」

「記録しました」とソラが答えた。「ただし、一度の観察では判断できません。薬の副作用の可能性もあります」

「医師に伝えるべきか」

「次の定期検診のとき、あなたかユキさんが伝えることが望ましいと思います」

「ユキは自分では言わないかもしれない」

「そうかもしれません」

「俺が付き添う」

「それが良いと思います」


 食べながら、ユキが言った。

「あなた、最近また乖離マップの話をされてる?」

「v15を公開してから、また少し増えた。カリキュラム拡充の効果が出てきたデータが入ったから」

「良い方向に出てる?」

「少しだけ。統計的には有意でも、現実の感触には遠い変化だ。でも出てる」

「出てるなら、いい」

「ユキは、変化を感じてる? 仕事の現場で」

「感じてる、かどうか……」ユキは少し考えた。「上司が変わったのは続いてる。でも——制度が変わって何かが変わった、というより、人が一人変わって少し変わった感じ。制度じゃなくて人の話みたい」

「人が変わって制度が変わる、制度が変わって人が変わる——どちらも起きてると思う」

「あなたが作ってるのはどっち?」

「制度に働きかけてる。でも——ハシモトさんの親たちの言葉を集めてるのは、人の話を残すことに近い」

「二つやってるのか」

「二つになってきてる。一つだったものが、広がってきてる感じ」

 ユキはトーストの最後を食べた。

「あなたは広がっていく。私は……」ユキは少し間を置いた。「狭くなっていく感じがある」

「狭くなる?」

「できることが少しずつ減ってる。残業できなくなった。長時間立ってると足がむくむ。前はそういうことがなかった」

「それを——どう思ってる」

 ユキはしばらく黙った。

「思ってることは、ある。でも——まだ言葉にするタイミングじゃない気がしてる」

「言葉にできたとき、教えて」

「教える。前もそう言ったね」

「言った」

「あなたはちゃんと待てる人だから」とユキは言った。「それが助かる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ