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第11話 対決

※本話は視点切替があります(「◇◇◇ ○○side ◇◇◇」で区切っています)。

※花火・海辺の環境で感覚が揺らぐ描写があります。

※過去の出来事(割れたコップ/救急車)に触れる場面があります。

◇◇◇ 悠真side ◇◇◇

花火が爆ぜた。

どん。

白が蛍光灯になって、蛍光灯が台所になって、床が割れる。

息が止まる。足裏が熱い。まだ砂を踏んでいないのに、踏んだ感覚だけが先に来る。

影の結衣が暗がりで笑っていた。

「来て」と口が動く。

――行くな。

そう思ったのに、身体が前へ傾く。

そのとき腕を掴まれた。硬い力。現実の力。

「黒川さん!」

男の声。耳に馴染んだ職場の声――佐藤だ。

「……誰?」結衣の声が短く入る。混乱していない声だった。

「同僚です。佐藤です。今、前に出ます」

結衣は一瞬だけ佐藤を見て、それ以上は追わない。視線を俺に戻す。

「黒川くん。今いる場所、三つ」

喉が動く。言葉が、ずれる。

「……海」

「花火」

「台所」

佐藤の手の力が増した。

「台所じゃないです。外です」

外。冬。白い息。

分かるのに、分からない。

結衣が、引っ張らずに袖の方向だけを変えた。

「舗装の上。砂じゃない。寒い。息が白い」

俺は息を吐いた。白い。

見えた瞬間、台所の蛍光灯が少し遠のく。

「スマホの角。四つ」

俺はポケットの中で角を押した。

一。二。三。四。

指先の硬さが戻る。足が止まっているのが分かる。

俺は、ようやく結衣の顔を見た。強い目。泣いていない。

「……ごめん」

「謝らないで。今は移動する。音が強すぎる」

結衣が言い切り、俺を人の少ないほうへ誘導した。佐藤は数メートル後ろでついてくる。

コンビニの明かりの下で結衣が止まった。光が硬い。現実の色。

「座れる?」

俺は段差に腰を下ろした。膝が震える。

佐藤は立ったまま、周囲を見ている。

結衣は同じ高さのまま言った。

「さっき、私が“高校のとき”って言いかけたよね」

俺は頷く。続きを聞くのが怖い。聞かないのも怖い。

結衣は短く切った。

「好きだった」

胸の奥が鳴った。嬉しい音じゃない。痛い。

口が勝手に、綺麗な台詞を探し始める。

やめろ。俺の言葉じゃない。

「……今、俺の口、勝手に動く」

結衣は頷いた。

「うん。だから一気に言わない。必要なことだけ言う」

必要なこと。現実の言い方。

「卒業してから連絡しなかったのは、優しさじゃない。怖かった」

「何が」

「私の“好き”で、黒川くんの傷に触るのが」

割れたコップ。救急車。

頭の中でサイレンが鳴りかけて、俺は角を押した。

一。二。三。四。

結衣が続ける。

「8/15、救急車を呼んだのは私。黒川くん、動けてなかった」

「……なんで、今さら」

「今日、花火で落ちかけたから。もう放っておけないと思った」

放っておけない。嬉しいはずなのに、怖い。

「DMのyuiは、私」

俺は頷けない。頷いたら全部が現実になる。

結衣は言い直した。

「yuiは私。でも、黒川くんが見てる“結衣”は、私じゃない時がある」

息が詰まる。

「……俺が、上書きしてる」

「うん。だから、選んで」

「何を」

「今夜、このまま帰るか。ここで私と話すか。海のほうへ引っ張られるなら、それを止めるか」

止める。俺が言えるのか。

指先が冷たい。現実の冷たさ。

俺は言った。

「……止めたい」

結衣の表情が少しだけ緩む。でも甘くならない。

「じゃあ、お願いが一つ。今夜、黒川くんの“綺麗な台詞”を、私に向けて使わないで」

冷たい息を吸う。言葉を選べる。

「……分かった」

遠くで花火が鳴った。胸が反射で揺れる。

影の結衣が視界の端に立つ。笑っている。

俺はそっちを見ない。結衣を見る。

「……今の俺は、どっちを見てる」

結衣ははっきり言った。

「こっち。私」

俺は頷いた。

(続く)


◇◇◇ 佐藤side ◇◇◇

現場は海沿い。花火の音が大きい。視界の端に黒川さんがいた。黒川さんは舗装と砂の境界付近に立っている。身体が前方に傾いた。

自分は距離を詰め、黒川さんの腕を掴んだ。呼びかけた。

「黒川さん!」

黒川さんは停止したが、視線が一点に固定されている。

黒髪の女の人が自分を見た。

「……誰?」と短く言った。

「同僚です。佐藤です。転倒しそうなので止めます」と返した。

黒髪の女の人は黒川さんへ視線を戻し、「今いる場所、三つ」と促した。黒川さんは「海」「花火」「台所」と回答した。状況と一致しない回答が含まれている。

自分は「台所ではない。外だ」と言った。黒髪の女の人は「舗装」「砂ではない」「寒い」「息が白い」と追加で言い、呼吸を促した。黒川さんは息を吐き、白い息を確認した。

黒川さんの動きが落ち着いた後、黒髪の女の人は人が少ない方向へ誘導した。自分は数メートル後方で追従した。

コンビニの明かりの下で停止。黒川さんは段差に座った。黒髪の女の人は短い会話を継続。自分は周囲を確認し、二次会の集団と距離があることを確認した。

自分は現時点で追加介入しない判断をした。現場から離れすぎない位置を維持した。

(続く)

読んでいただきありがとうございます。

第11話は、花火の直後に「現実へ戻す動作」を重ねた上で、結衣が“必要なことだけ”を言語化する回でした。

また、第三者(佐藤)が割り込む場面では、結衣が最低限の確認をしてから救助優先に戻る形に調整しています。視点人物が知らない固有名を地の文で先出ししない点も含め、視点の整合を優先しました。

次話(最終話)は「告白=統合=未来の約束」を一つの流れで回収します。

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