#2 ポタージュ前編
「…お邪魔します」
「ホロウさんいらっしゃーい」
玄関でモンクがもてなす。ドア鈴が鳴り響き、精霊たちがみんな目覚める。
「ん…お、おはよ…」
家主も。
「すいません!朝早すぎましたね」
「いや、大丈夫よ大丈夫…」
ラッキーは目をゴシゴシしながら体を起こしている。
「モンクさん、これつまらないものなんですけど」
小袋に、食用タネが詰められている。
「ありがとネ」
上手にクチバシで掴み、タンスに飛んで行った。
「フラウ、急速冷凍よろしく!下から二段目!」
氷の精霊はこくりと頷く。
「これ、契約しているんですか?」
「一応ネ。ラッキーがこの家で一緒に暮らすっていう契約を持ちかけて、承諾してくれた精霊たちだよ。だからボクの頼みも聞いてくれるって訳ネ」
「なるほど!」
ホロウさんは小刻みに拍手する。
「ウンディーネ、顔にみずぅ…」
バンッ!
「あ…」
水圧が強すぎて、家主は壁に吹き飛ばされた。
ごめんなさいと言わんばかりにウンディーネはコクコクと頭を下げる。
「全身水だらけじゃないの!」
ラッキーは目覚めた。
畑の精霊ポレヴィーグを呼び出している。
「ポレヴィーグ、契約しましょう。ここの畑をすこしの間守って頂戴。契約代償は、私が睡眠できるようにしてあげる」
ポレヴィーグは微動だにしない。
「寝てみたくないのか…」
「言葉遣いじゃないですか?」
「精霊って意外と礼儀とか気にしないんだよ。それより心地よい関係を築くことが大事なんだよネ」
「そうなんだ…勉強になります!」
「じゃあ私の寿命を4年あげる。これでどう?」
ポレヴィーグは首をかしげる。
「これでもダメか…」
「ラッキーさん!いい提案があります!」
「どうしたの?」
「料理を振る舞ってみてはどうですか?精霊ってご飯とか食べれないでしょう?」
「たしかに。んじゃ味覚を感じる魔法を探しに行かないとね」
「学院に行きますか?」
「そだね、また後日」
「了解です!私は毎日居るのでせひ一緒について行かせてください!」
「…うん」
「ラッキー、研究生徒にも真面目な生徒はいるんだよ。現実を…」
「そんなんじゃない!誰に頼むか考えているの!」
「ラッキーさん、まあ一旦落ち着いて…」
3人は家に戻り食卓を囲んだ。
やってきたのは学院の本拠地がある街。ラッキーたちが通う学院は中央魔法学院と同じ系列である。
「ホロウさんも来ればよかったのにネ」
ラッキーはすこし寂しそうに足を進める。数々の出店が並ぶこの港町は、ラッキーの住む山とは真逆で栄えている。
「おい、嬢ちゃん」
突然声をかけられた。
「高そうなイヤリングだな?おい、俺にくれよそれ」
人通りが多いからこそ、質の悪い住民もいる。
「これ?四葉のクローバーの形ってきれいだよネ」
「なんだこの鳥ぃ」
後ろに仲間が何人かいる。タバコに火をつけている男は短剣を腰に構えている。
「おい、なんか喋れよ嬢ちゃん」
野次馬が増えてきた。この辺りでは有名な悪党らしい。冒険者か、放浪者かそのどちらかだろう。
「うちのラッキーは強いよ」
「あ?」
「ジン、契約執行。この男を吹き飛ばせ」
一瞬。男の体は鈍い音を立てて壁に叩きつけられた。
辺りは歓声が上がり、後ろで待機していた仲間は一人を除いて逃げ去っていった。
「あいつ、精霊使いか…」
短剣を抜こうとすると、男の腕にツルが巻き付いてきた。
「見えてるから。じゃあね」
そそくさと立ち去るラッキーに、その場の全員が衝撃を受けた。町全体で、とんでもない精霊使いがいるという噂が立つほどに。
「すいません、西の学院の者です。失礼は承知ですが、お聞きしたいことがございます。どうか話だけでも聞いていただけませんでしょうか?」
ドア前で礼儀正しく挨拶をしたのはモンクだ。