表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネジレコネクション  作者: 刺片多 健
98/128

帰り道 『 ハナの場合 』




「え!?

 何してるの?」


美容室の前で、めっちゃタイプの男のトキオが、お母さんの自転車に乗ってわたしを見ている。


「僕が運転しますよ。お姉ちゃん。

 後ろに乗って下さい」


めっちゃタイプの男が、自転車の荷台をポンポンと叩く。


「いや、あなた・・・無理よね?」


「何がです?」


「だって自転車、乗れないでしょ?」


「え!?そうなんですか?」

めっちゃタイプの男が驚く。


「そ、そうよ。

 わたしが、あなたを後ろに乗せてたのよ」


「そうなんですね」


「そうよ。

 それに2人乗りは違反よ」


「そうか、違反か・・・

 あ、でも、僕を後ろに乗せてたんですよね?」


「それは、緊急だったからよ」


「そうですか。

 わかりました」


めっちゃタイプの男が、自転車から降りる。


「歩いて、帰るわよ。

 自転車は、あなたが押して帰って」


「はい」





わたし達はしばらくの間、無言で歩く。

夕焼けが濃くなり街灯が灯りはじめる。


「あの、お姉ちゃん」

めっちゃタイプの男が、わたしに話しかけてくる。


な、何よ。

さっきから、お姉ちゃん、お姉ちゃんって・・・


ま、昔は弟が欲しいなんて思ってた時期もあったわよ。

でも、これは何か違うわよ。

何なのよこれ。


「何?」

わたしは素っ気なく答える。


「お姉ちゃんは、僕のこと嫌いですか?」


え?

な、何よ急に。


「ど、どうして?」


「いや、何となく・・・

 ユイちゃんや、ナジミちゃんとは、何か距離感が違うなぁと思いまして」


確かに、トキオが家に帰って来て、わたしとは会話をほとんどしていない。

なぜなら、片付けに手一杯でそれどころではなかったからだ。


トキオが話しを続ける。


「それにお姉ちゃんは、僕の名前を一度も呼んでくれないし・・・」


「まぁ・・・いろいろと、あったから・・・」

わたしは話しをにごす。

が、色々あったことは間違いない。


「そ、そうですか。

 僕、何も覚えていないから、どう言えばいいのか分からないのですが、

 以前に、僕が何かお姉ちゃんにひどい事をしていたのなら謝ります。

 ごめんなさい・・・」


「・・・・・」


「僕と話しをするのが嫌ならそれでもいいです。

 無視してもいいです。

 でも僕、挨拶ぐらいしてもいいですか?」


「無視なんかしないわ」


「え?」


「挨拶だけじゃなくて、分かんないことがあったら聞けばいいじゃない。

 これでも一応・・・家族なんだから」


「あ、ありがとう・・・おねえちゃ・・・ウッ!」

トキオの足が止まる。


「どうしたの?」

わたしがトキオを見ると、ハンドルを握る両手が震えて歯を食いしばっている。


「う・・・う・・・」

トキオが両手で、こめかみを押さえしゃがみ込む。


ガシャン!


トキオの両手から離れた自転車が倒れる。


「ちょ!ちょっと!

 大丈夫!?」


わたしが近寄るとトキオの頭が小さくブルブルっと震え、わたしを見上げる。


え?何?

わたしはトキオの目に異様な違和感を覚える。


「ハ!ハナちゃんッ!助けて!!」


「え!?」


「呪いだ!オレ!やっぱり呪われてるんだ!」


「え!?」


何?どういう事?

あっ!もしかしてコイツ!記憶が戻った!?


「ハ!ハナちゃん!時間がない!

 夜が!夜が来る!」


「な!何!?

 あなた!

 記憶が戻ったの!?」


「ち!違うんだ!ハナちゃん!

 オレの中に、昼と夜があるんだ!

 だ!・・・・ダメだ!アイツが、夜が、来る!

 ぐッ!・・・ううう・・・うう」


トキオが再び、両手でこめかみを押さえて苦しみだす。


「なに!?

 一体どうしたの!?相田くん!」


トキオの頭が小さくブルブルっと震える。

歯を食いしばっていた表情が一瞬にして穏やかになる。

そしてゆっくりと顔を上げ、ほほ笑む。


「やぁ、ハナ。

 やっと会えたね」


自信に満ち溢れた、めっちゃタイプの男がわたしを見つめる。


へ?

あなた・・・誰?

て、言うか、


「な・・・なんなの?

 あなた、大丈夫なの?」


「大丈夫だ」


めっちゃタイプの男がわたしを見つめたまま微笑む。

そして、倒れている自転車を起こす。

わたしたちは、ゆっくりと歩き出す。


一体なんなのよ、この男・・・

今までと雰囲気が全然違う。

てか何で呼び捨て?


「ねぇ、

 あなた、どうなってんの?」


「簡単に言うと、さっきのヤツと入れ替わったんだ」


「だ!だから!さっきの奴ってどういうことなの!?」


「昼間のヤツは、過去を遮断してるんだよ」


「は?」


「で、夜の俺は心の全てを知っている存在なんだ」


「は?」


なに?

なに言ってんの・・・こいつ。


「もっと分かりやすく言うと、

 別の人格が入れ替わってるんだよ」


人格が入れ替わる?


「二重人格ってこと?」


「そう、昔の言葉で言うとね。

 今は、解離性同一性障害って言うんだけどね」


そんな事はどうでもいいのよ。


「演技って事じゃ・・・」


「ないね」


「そう・・・

 それで、治るの?」


「ん?」


「その状態は元通りになるの?」


「さぁ、たぶん、ね」


「どっちなの?」


「昼のヤツが過去を受け入れれば、たぶん、ね」


「どうやるの?」


「さぁ、分からない」

めっちゃタイプの男は、あっけらかんと言う。


「ねぇ、なんかよくわかんないだけど・・・」


「うん?」


「昼と夜で人格が入れ替わるって事なの?」


「そう」


「で、昼のトキオ?は、記憶が無い」


「うん」


「それで、夜のトキオのあなたは、記憶がある」


「そう。

 ただ、入れ替わる間だけは、記憶が無いけどね」


じゃあ、それが、さっきの・・・助けを求めてきたトキオって事?

夕方のトキオが、今までのトキオって事?


あー!もう!

なんか面倒くさいわ!


「それじゃ、あなたは今、夜のトキオって事なのね?」


「そう」


「で、夜のトキオは、覚えてるの?」


「何を?」


「記憶よ。これまでの事」


「覚えてるよ。全部」


「わたしとあなたの事も?」


夜のトキオがゆっくりとわたしを見つめる。


「俺がハナを好きって事?」


「・・・・・」

わたしがうつむく。


「俺、一目ぼれなんだ。

 1年の時にハナを見かけて」


「・・・・・」


「それで、学校ではハナをいつも探してた。

 ずっと片思いなんだって思ってたら、

 こんな事になって」


何よコイツ!

よく、そんな恥ずかしい事、スラスラと言えるわね!

てか、そんな事より、


「ど、どうするの?」


「どうするって何が?」


「ユイの事よ・・・」


「分かんない」


「え?

 分かんないって」


「だって昼のヤツは、ユイを恋人だって思ってるから」


「ねぇ、昼のトキオは、夜のトキオの記憶は無いの?」


「無いね。

 あいつ、今、記憶を遮断してるから」


「だったら、約束して!」


「何を?」


「もし、あなた、夜のトキオとユイが会った時は、昼のトキオのふりをして!」


「どうして?」


「昼と夜で言ってる事が違ったら変でしょ!

 ユイ、おかしくなっちゃうじゃない!」


「そうか、昼はユイと恋人で、夜はハナが好きって事だもんな」


「そ、そうよ!

 面倒でしょ!

 とにかく今は、夜の間も記憶が無い事にして!

 いい?分かった?」


「ああ、ハナ、分かったよ」


「だから呼び捨てもヤメテ!」


「分かったよ・・・お姉ちゃん」


そうだ。

これでいい。

今はまだ、この状態を維持することだ。

これ以上、問題を増やすことはない。


ガチャン。


家に到着し、玄関に自転車を置いていると足音が近づく。


「お帰り!トキオくん。ハナちゃん」


ユイが出迎える。

後ろにナジミもいる。


「た、ただいま。

 ユイ、来てたんだ」


「うん。トキオくんの帰りを待ってたの。

 というかトキオくん!すごいサッパリしたね!

 見違えた!すごく似合ってる!」


「ありがとう、ユイちゃん」

夜のトキオが、昼のトキオを演じる。


「それじゃ、トキオくん!私、帰るね。

 ハナちゃん、ナジミちゃん!また明日!」


「うん。また明日」


ユイが帰って行く。


「どうしたの?ナジミ?」

わたしが、トキオをにらみつけているナジミに聞く。

ナジミがトキオをにらみながら、ゆっくりと顔を近づける。


「ハナ先輩・・・」

ナジミが、トキオの鼻先まで顔を近づけつぶやく。


「なに?」


「こいつ、トキオじゃないっス」


え?

もうバレたの?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ