駅前のカフェ 『ハナの場合』
「遅いねぇ」
何?あのぼさぼさ頭。
遅刻ってどういうことよ!?
わたし、ちゃんと場所と時間伝えたわよね!?
連絡取ろうにも連絡先しらないし。
てか、連絡先なんか教えねぇーし!
「何かあったのかな~」
おさげのユイがダージリンティーを飲みながらつぶやく。
それにしてもユイ、どうしてぼさぼさ頭と付き合うなんて言ったのかしら。
聞いてもなんかはぐらかす感じだし・・・
カランカラン♪
カフェの扉のカウベルが鳴る。
あ、来た?
キャップを被ってリュックを背負ったポニーテールの女性が入ってくる。
違うか・・・
「ねえ、ユイ、
そろそろ帰ろっか?」
「ハナちゃん、もうちょっとだけいい?
ごめんね。
せっかくの日曜日なのに・・・」
「ううん。気にしないでユイ。
全部あいつのせいなんだから」
カランカラン♪
カフェの扉のカウベルが鳴る。
何かただならぬ異質な存在が視界の隅に入る。
その異質な何かが近づいてくる。
来る。
すぐそばに・・・
来た。
なんだ・・・
なんだこいつ・・・
ど・・・
どういう事!?
何よ?
なんなのよその恰好!
さ、三度笠!?
三度笠って・・・
それに何なのよそのボロボロの服・・・
なんかちょっとスッぱい臭いするし!
何考えてんのよこの男は!?
「あなた・・・一体・・・
どういうつもりなの・・・」
「あ、いやぁ~、その~」
なに?何なのよ!
はっきりしなさい!
この!ボロ服三度笠野郎!!
ああ!!
もういい!
「そこ!座ったら?」
「あ、うん」
ボロ服三度笠が向かいのソファーに座る。
はぁ~、
ほんと何なのよこいつ・・・
「あの、ご注文は?」
カフェの店主がボロ服三度笠の前に水を置く。
「あ、えっと、コ、コーヒー、ください」
ボロ服三度笠が注文する。
「あ、あのわたしもコーヒーください」
くっそ!お前が遅刻するからカフェオレ全部飲み終わっちまっただろ!
ユイは紅茶ポットでお代わりできんだから、
こっちは2杯目頼まないと変な感じになんだろ!
だいたいよぅ!おめぇ遅刻してんだろ!
まず一言あやまれよこの野郎!
あー!もう!
腹立つー!!
だ、ダメだ!
一旦落ち着け!
「・・・それ、かぶってるの取ったら?」
「あ、うん」
ボロ服三度笠がアゴ紐に手をやる。
この男は一体どういうつもりなんだろう。
普通、愛の告白をした人の前ならよく見せようするもんじゃないのか?
デートじゃなくても好きな人の前でなぜこんな格好をするのだろうか?
ボロボロの服に、三度笠・・・
木枯し紋次郎・・・
てか、てめぇ!
アゴ紐外すのいつまでかかっとんじゃコラ!!
「なにしてんの?」
「あ、いや、固結び・・・」
「は?」
「固結びで・・・ほどけない・・・」
「はぁ!?」
てめぇ!コラ!
自分で結んだんだろうが!!
なんで固結びすんだよ!
そこはちょうちょ結びだろうがよ!
付けたり外したりすんだからよ!
「取れない・・・」
ちょ、ちょ、待て待て!
あきらめんのかよ!!
そのままかよ!
そのままかぶってんのかよ!!
おめぇと同席してるこっちの身にもなれってんだよ!
え?何かの撮影ですか?とか思われんだろうがよ!
ざけんなよ!
「お待たせしました。
コーヒーです」
店主が、わたしとボロ服三度笠の前にコーヒーを置く。
空になったカフェオレのカップをお盆に乗せ去っていく。
「あっつ!」
ボロ服三度笠がコーヒーで口を火傷する。
なんなんだよおめぇ!
何やってんだよ!
来てすぐのコーヒーは熱いにきまってんだろうがよ!
何ですぐ飲もうとすんだよ!
「ダイジョウブ?」
わたしはボロ服三度笠に、無の表情で社交辞令の言葉をかける。
「あ、いや、アゴ・・・」
「アゴ?」
「アゴ紐が、下唇に食い込んで、
飲みにくい・・・」
てめ!!
この野郎!
おめぇは一体なにしに来やがったんだよ!!
全然話し進まねぇじゃねーか!!
「あ、あの~相田くん・・・」
沈黙していたおさげのユイが口を開く。
「えっと・・・トキオくんって呼んでもいい?」
はぁ!?
いやいやちょと待て!ユイ!
下の名前って・・・
違う!違う!違うのよユイ!
今日は親睦を深めよう会、じゃないのよ!
話し合いという名の、
お別れ会なのよ!!
「ちょっと何言ってるのユイ!
どうしちゃったの?」
「あ、いや、えっと~・・・」
顔を赤らめてもぞもぞするユイ。
妙な展開になってきたが、
実はさっきからわたしの尿意がヤバい。
緊急サインがバンバン来てる。
「ごめんね、わたしちょっとお手洗い行ってくる。
少し待ってて。
それから話そ!」
ごめんユイ!
我慢できないの!
わたしはトイレに駆け込む。
カランカラン♪
カウベルの音がトイレのドア越しに薄っすらと聞こえる・・・