パーポーシャボン 『ナジミの場合』
--- 兄弟の車が止めてあるコインパーキング ---
「悪いけど、この車、6人乗りなんだよね」
ブラザー兄が言う。
「ぉい、ナジミ。
この人たち誰だよ?」
トキオがアタシの横でささやく。
「運転手よ」
「運転手?
なんで車のガラス割れてんだよ?」
「動物が当たったのよ」
「え?マジかよ?」
ウソよ。
覆面の男が叩き割ったのよ。
「俺は歩いて帰る。
ちょっと歩きたい」
マモルがそう言って歩き出す。
「ちょっと待ってマモル!」
アタシが引き留める。
「みんな!ちょっと待ってて!
すぐ済むから!」
アタシが叫んで、マモルと少し歩く。
「あ!そういえば、マモルのスマホ、
どこにあるのか聞くの忘れてたわ!」
「いいさ、どこかに捨てられてるよ。
どうせ俺は今日終わったんだから・・・」
「ねぇその事なんだけど、マモル。
あんた、警察やめるの?」
「ああ、そのつもりだ」
「そう・・・
あんたの人生なんで、どうこう言うつもりは無いけど、
両立すればいいんじゃない?」
「両立?
なにを?」
「警官と闇のヒーローよ」
「は?」
「ちょっと待ってて」
アタシは無事に取り戻したカバンを開ける。
「えっと・・・ここに、
あった!」
アタシはポーチからアイブロウペンシルを取り出す。
「これあげる。
眉を描くペンシルよ」
「・・・・・」
「警官の時は眉を描くのよ!
そして闇のヒーローの時はのっぺらぼうになるのよ!どう?」
「どうって言われても・・・」
「とにかく、あげるわ。
はい!」
アタシがアイブロウペンシルをマモルに渡す。
「ありがとう・・・」
マモルがペンシルを見つめる。
「それに、まだ終わってないのよ」
「何が?」
「だって、ユイさんをストーカーしてた覆面の男たちって逃げちゃったでしょ?」
「そうか・・・
理由か・・・」
「そう、何でユイさんを狙ってたのかってこと。
どうせ辞めるんだったら、その理由が分かるまでは調べてみたらいいんじゃない?
警察じゃないと分からないことってあると思うよ。
アタシたちには、もうこれ以上調べることはできないし。
それにマモル、あんた今日の事は警察には言わないんでしょ?」
「・・・ああ。
でも、これだけの騒ぎだ。
いずれバレる」
「だったらバレるまでやればいいじゃない。
どうせ見つかったってヒーローになるだけなんだし」
「は?」
「だってマモル、
法律違反をしても、悪い事してないでしょ?」
「・・・・・」
「少なくともアタシはそう思ってる」
フロントガラスの割れた車に、
トキオとハナが乗り込んでいる。
「なぁ、ナジミ・・・
ひとつ聞いていいか?」
「ん?何?」
「ナジミがどうしても取り返したいものってスマホだったんだろ?」
「うん、そうよ」
「何でだ?」
「なんでって・・・あれよ!
見られたくないものとかあるでしょ!」
「それだけか?」
「え?」
「普通じゃないだろ?」
「何が?」
「いや、普通なら諦めるだろ?
相手は暴力団だぞ」
「・・・・・」
「どうなってたか分からないんだぞ」
「ん~・・・思い出よ」
「思い出?」
「そう、あの中には思い出が詰まってるの。
写真とか・・・」
「大切な人とのか?」
「・・・そう、
だって2度と撮れないでしょ?
写真って・・・」
「そうか・・・
戻って良かったな」
「うん・・・
あ!マモル!
一緒に写真撮ろう!」
アタシがそう言うと、
マモルがほほ笑んだ気がした。
--- 兄弟の車内 ---
バタン!
「お待たせ!
じゃ、帰ろう!」
アタシが車に乗り込む。
ん?
何?
この車内の重い空気は?
明らかにおかしい。
「ねぇ、なんか様子が変なんだけど。
何かあったの?」
アタシが聞く。
しばらくの沈黙の後、助手席の弟が口を開いた。
「そこのメンズが美少女に別れ話しをしたんだよ」
え!?
トキオが美少女ユイに!?
別れ話し?
ウソーー!!?




