廃墟 『マモルの場合』
--- 廃墟ホテルの前 ---
バタン!
車から誰かが降りてくる。
ヘッドライトの逆光の中に人影が見える。
女性?
「ナジミちゃん!?居る!?」
ん?
ナジミさんの知り合いなのか?
「ユ!ユイさんッ!」
ナジミさんが茂みから立ち上がる。
「ナジミちゃん!
良かった!!」
「ユイさん!
どうしてココへ!?」
「あ、えっと、色々あって・・・
ハナちゃんとトキオくんは!?」
「ココには居ません!
アタシ!連れてこられたんです!」
「連れてこられた!?
どこかケガは?」
「していません!」
「良かった!」
「ただ、車がパンクしちゃって・・・」
「パンク?
分かった!ナジミちゃん!こっちの車に乗って!帰りましょう!
くわしい事は車の中で!」
「はい!」
この子はストーカー被害に会っていたユイって子だ。
僕は茂みから立ち上がる。
「あ、あなたは・・・」
ユイが驚く。
「あ!ユイさん!あの人は大丈夫!
ストーカーじゃないです!
ユイさんを守ろうと後ろから見守ってただけです!」
「そ、そうだったの・・・
とにかく、早く車に乗って!」
僕とナジミさんとユイさんが車の後部座席へ乗り込む。
「あ!あんたたち!」
車内でナジミさんが叫ぶ。
「ど、どうも」
運転席と助手席の男2人が頭を下げる。
この2人、さっき動画を撮っていた廃墟ブラザーズだ。
どういう事だ?
ユイさんと知り合いなのか?
「それじゃ出発します」
運転席の兄が車を発進させる。
フロントガラスがひび割れているので、割れていない部分を覗き込むスタイルで運転する。
運転しにくそうだ。
「ナジミちゃん。
ハナちゃんとトキオくんはどこに居るの?」
「分かりません。
アタシ、ユイさんのマンションの前で覆面の男2人に連れ去られたんです。
この人と一緒に。
あ、この人、マモルです。」
「ど、どうも。
東琉寺マモルです」
僕はユイさんに挨拶をする。
「あ、どうも・・・ユイです」
「あの、ユイさん。
ハナ先輩と連絡は?」
「それが電源を切ってるみたいで繋がらないの。
ナジミちゃん、トキオくんの番号分かる?
これで、かけてみてくれる?」
ユイさんが、ナジミさんにスマホを渡す。
「ありがとうございます。
・・・あ、まだダメだ。
ココ、電波が入んないんです」
「そうなの・・・」
「たぶんもうちょっと行けば繋がると思います。
そしたらトキオにかけてみます」
「うん。お願い。スマホはナジミちゃん持ってて」
「はい。
ところでユイさん。
どうしてココが分かったんですか?」
「動画を見たの・・・」
「動画?」
「ネットにナジミちゃんたちの動画が流れてたの。
戦ってる動画・・・」
「えッ!?
・・・まさか・・・
あんたたち!」
助手席の弟の肩がビクッとなる。
「いや、あれはサブカメラの映像で・・・
壊れたカメラの映像は消えてたので・・・」
「何やってんのよッ!
あんたたち!!」
「あ、いや、ごめんなさい。
後ですぐに消します!」
「ま、でもそのおかげでユイさんが来てくれたって事なんだけど・・・」
車が廃墟ホテルからの細い道を過ぎ、大通りへ出る。
と同時に反対車線を一台の車が目の前を通り過ぎる。
!!!
パトカー!!
僕は後ろを向き、車を目で追う。
車が遠ざかって行く。
と、止まるな・・・
僕は祈った。
今となってはもう警察に行くのは得策ではない。
自己判断での少女の見守り。
覆面男たちによる拉致現場遭遇。
覆面男たちへの過重暴行。
少女によるスタンガンでの暴行ほう助。
さらに犯人確保後の犯人逃走。
挙句の果てには覆面男への暴行現場の動画流出。
そしてこれらは全て勤務外での行動だ。
おおやけになれば警察の大失態となるのは明らかだ。
恐らく懲戒処分、悪ければ解雇。
終わりだ。
車は遠ざかっていく。
止まるな・・・
この道は廃墟ホテルへの専用道路だ。
そこから出て来る車は明らかに怪しい。
それどころか廃墟ホテルからフロントガラスが割れた車が出てくるのは間違いなく怪しい。
車のテールランプが小さくなる。
そのまま行ってくれ・・・
止まると僕の警官人生は終わる。
頼む・・・
だが無情にもブレーキランプが遠くの暗闇に大きく光った。
車上部の赤色警光灯が荒々しく回転する。
遠くの道路と森が赤く激しく点滅する。
車がサイレンを鳴らしUターンを始める。
おわった・・・
終わりだ。
僕は・・・
ウゥ~~~!
『前の車!止まりなさい!
路肩に寄せて止まりなさい!』
パトカーのサイレンが山奥に鳴り響く。
車内はパニック状態だった。
誰かが叫んでいた。
だけど僕には何も聞こえなかった。
聞こえてはいたが、何も感じなかった。
同僚たちの顔が見えた・・・
先輩たちの顔が見えた・・・
家族たちの顔が見えた・・・
みんな笑顔だった・・・
「・・・ルッ!」
何か聞こえた気がする・・・
「・・・モルッ!!」
誰か叫んでるのか・・・
「・・・マモルッ!!」
名前?
僕の・・・?
「マモル!しっかりして!!」
ナジミさんが叫んでいた。
ナジミさんの顔が赤色灯で真っ赤に点滅していた。
ウゥ~~~ゥッ!!
真後ろで聞き慣れたサイレンが止まった。
僕の警官人生が終わった瞬間だった。




